表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/271

第152話 ビビアナの鍛錬と、まったりお食事タイム

 それからしばらく、ビビアナの弓の稽古に付き合うことにした。


 俺は弓の扱い方にくわしくないから、弓を扱える者に技術的な指導を頼むことにした。


 俺は体力面の強化を担当している。


「弓を使う、ときも、基礎、体力づくりは……必要なんで、しょうか……」


 ビビアナが腕立て伏せをしながら言う。


「もちろんだ。きみの弓の技術は高いが、体力がなければ実戦ですぐに動けなくなってしまう」

「そう、です、けど……」

「強くなりたいのであれば、体力と精神力は絶対にきたえなければならない。俺の義父の教えだ」


 腕の力が限界に達してしまったのか、ビビアナが地面に倒れ込んだ。


「もう、だめですぅ」

「だらしないぞ。まだニセット目の十回しか続けていないではないか」

「そんなこと、言われましても……」


 やはり、この子の一番の難点は体力の低さか。


「わたしは、グラートさまみたいに、体力ないんです、から」

「だからこそ、きたえる必要があるのだろう」


 俺も地面に右手をついて、腕立て伏せをしてみる。


 一回、二回、三回……腕や胸の筋肉は、今日も正常に動いているな。


「基礎体力は運動のかなめになるものだ。騎士や戦いにかぎらず、山登りや農作業でも必要になる。きたえておいて、損はないだろう」


 ビビアナは気絶してしまったのか、めずらしく返答がなかった。


「グラート。ビビちゃん。そろそろ、休憩にしてもいいんじゃないかなぁ」


 アダルジーザがトレイに麦茶を乗せてきてくれた。


「休憩に、してください~」

「仕方ないな。気力がもどるまで、しばらく休憩だ」


 麦茶をコップにそそぐ。


 村の畑で採れた大麦は、おいしい。すっきりとした味わいを、かすかに感じる苦みが引き立ててくれている。


 ジャガイモを細く切ったおやつも置かれているな。


「アダル、これは?」

「これはねぇ。ジャガイモを切って、オリーブオイルで炒めたおやつだよぅ」


 茹でないで調理するジャガイモ料理もあるのか。


 スティック状のジャガイモを二本ほど食べてみる。


「む、これはうまいな!」

「でしょぉ」


 アダルジーザが、はち切れんばかりの笑顔を向けてくれた。


「村の人にね、教えてもらったんだよぅ」


 オリーブオイルのまよやかな味と、ジャガイモの甘味が絶妙に合わさっている。


 表面のカリカリとした食感も心地よくて、クセになりそうだっ。


「ドラスレ村の人たちは、グルメな者が多いなっ」

「そうだよねぇ。わたしも、いつも教えてもらってるもん」


 ジャガイモには、無限の可能性を感じるな。


「ジャガイモの、いい香りがするぅ」


 ビビアナが白い腕を立てて、身体を起こした。


「ビビちゃんも、食べてねぇ」

「はいっ。ありがとうございます!」


 ビビアナの気力がもどったな。


「わっ、なんですかこれ!」

「これはねぇ。ジャガイモを細く切って、オリーブオイルで炒めたんだよぅ」

「わぁ、おいしそう……」


 彼女もスティック状のジャガイモをつまんで、口にはこぶ。


「お、おいしい……っ」

「うふふ。お口に合って、よかったぁ」

「これ、アダルさんがつくったんですかっ」

「そうだよぅ」

「アダルさん……お料理がお上手すぎて、神すぎですぅ」


 ビビアナは頼りなさが目立つが、だれにでも懐くのがよいところだ。


「ビビちゃんも、お料理するのぅ?」

「わたしですか? わたしは、お料理は、ちょっと……」

「そうなんだぁ」

「城のシェフが、いつも食事を出してくれますから」


 ビビアナは東のアゴスティに仕える従騎士だ。


 まだ若いが、身分は高いから自分で料理をすることはないだろう。


「お料理も、勉強しなきゃなぁって、思うんですけど、なかなか手がまわらなくて」

「強い騎士にならないとだもんね。お料理の勉強はぁ、後でしてもいいんじゃないかなぁ」

「はい。ですけど、わたしもアダルさんみたいに、お料理うまくなりたいですっ」

「ふふ。ならぁ、お料理の勉強も、していく?」

「はいっ。で、できれば!」


 今は料理の勉強までさせる余裕はないな。


「ビビアナ。鍛錬と兵法の勉学などが最優先だ」

「は、はい……」

「スカルピオ殿も、きみが強い騎士になることを期待している。料理や農作業などの勉強は後にするのだ」


 料理や農作業などを通して、平民の生活を学ぶことも大切ではあるが。


「お料理とか、食材のお勉強もした方がいいけどねぇ」

「そうだがな。残念だが、今は余裕がない」

「そうだねぇ。この前も、大きな戦いが終わったばかりだからねぇ」


 ヴァレダ・アレシアの情勢は、まだまだ不安定だ。


 隣国のアルビオネは静寂をたもっているが、いつ進軍してくるかわからない。


「そういえばぁ、ジルちゃんと、少し話したんだけど」

「話した? 何をだ」

「ビビちゃんの鍛錬のことでね。魔法も、少しは勉強した方がいいって」


 ジルダが、そのようなことを言っていたのか。


「ビビちゃんはぁ、わたしたちみたいにね。みんなの後ろでがんばる人だから、魔法もおぼえた方がいいって。わたしも、そう思うかなぁ」

「そうだな。弓使いになるのだから、後方支援が主になるか」

「うん。勉強することが増えて、大変になると思うけど」


 ビビアナは、俺とアダルジーザの話を聞いて、どう思ったか……しっ、白目になっている!?


「ビ、ビビちゃん、今すぐに、勉強しろって言ってるわけじゃないから!」

「まほうも、べんきょー、しますね……しますね、しますね……」


 しばらく弓と基礎体力づくりの鍛錬のみ行うことにしよう……。



  * * *



 ビビアナの弓の実力はかなり高いようだ。


 性能の低い、使い古した弓でも遠くの獲物を正確に射抜いている。


「当たった!」


 弓の鍛錬と狩猟を兼ねて、サルンの山にこもる。


 ビビアナが射た矢は木々の狭い間を縫って、遠くの野ウサギをまっすぐに仕留めた。


「すごいな。百発百中ではないか」

「いやぁ。それほどでも~」


 ビビアナは頭の後ろをなでながら、もじもじしている。


「きみのこの実力をスカルピオ殿が見れば、きっと満足されることだろう」

「そうなのでしょうか」

「そうさ。弓に長けた騎士はヴァレダ・アレシア広しといえども、そう多くない。充分に誇れる才能だと思うのだがな」


 ビビアナが倒れた野ウサギをひろって、矢を引きぬいた。


「そうだと、いいんですけど」

「何か不安や気になることがあるのか」

「い、いえ。その……スカルピオ様は、剣で戦うのが好きな方ですから」


 だから、武器で戦うことにこだわっていたのか。


「そういうことか」

「グラート様はすごい方だって、スカルピオ様は絶賛されてました。スカルピオ様はきっと、グラート様みたいに大きな武器で戦う方が好きなんだと思います」


 この子は、そんな主の意向に副いたかったのか。


「弓で戦うのは、スカルピオ殿の好みには合わないかもしれない。だが、弓は戦いにおいて重要なものだ」

「はい」

「弓は遠くの敵を射抜くだけでなく、威嚇や牽制でも使用される。遠距離攻撃は魔法でも行えるが、魔法は専門性が高く、一般兵に浸透させるのがむずかしい。

 弓兵を指揮する者は、弓に長じた者であることがのぞましい。ようするに、きみの素養や才覚は、ヴァレダ・アレシアで必要になるということだ」


 ビビアナが、真剣に俺を見上げていた。


「きみの素養やはたらきを認めれば、スカルピオ殿もきみを重用することだろう。不慣れな武器を扱うより、自分に合う武器や戦術を採用すべきだ。それが成長の近道だと、俺は思うぞ」

「はい。ありがとうございます」


 俺の言葉を素直に受け止めてくれたか。


「だが、やはり、あれだな。基礎体力の低さは、どうあっても克服せねばなるまい」

「うぐっ。……そ、そこも、適正がないということで、ゆるしてもらえないんですか」

「それは、だめだな。前にも言ったが、基礎体力はすべての運動の基になる要素だ。ここだけは、手を抜くわけにはいかない」

「は、はい……っ」


 地面にくずれそうになる彼女を見て、思わず笑みがこぼれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ