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第143話 戦いが終わり、マジャウの村へ

 ラヴァルーサの領主は、ヒルデブランドの指示で処刑されてしまったようだ。


 彼の従者もほとんど残っていないため、ラヴァルーサとその周辺の領土の統治をまかせられる者がいなくなってしまった。


 ラヴァルーサは、ヴァレンツァやラグサに次ぐ大都市だ。


 そして、ヴァレダ・アレシアの北東部の要衝だ。


 領主が不在となってしまったのであれば、陛下直轄の領土に戻してラヴァルーサを立てなおしていかなければならない。


「だから、ベルトランドさんの部下の方たちが、一時的にラヴァルーサに残るんですね」


 ラヴァルーサを陥落させて、五日が経った。


 俺はアダルジーザにシルヴィオ、ジルダ。そして、わずかな従者を連れてラヴァルーサの郊外に出ている。


 都へすぐに帰らなけれならないと、ベルトランド殿から以前に言われてしまったが、戦いで荒廃してしまったラヴァルーサをすぐに発つことはできなかった。


「そうだ。市民たちだけではラヴァルーサを統治できない。だからといって、俺やベルトランド殿はここに残れない。不安は残るが、いたし方あるまい」

「そうですね。ヒルデブランドをなんとしても見つけたかったですけど、わがままは言えないですしね」


 シルヴィオがとなりで悔しがっている。


 アダルジーザは馬に乗る俺の後ろにいる。


「シルヴィ。あんまりぃ、自分を責めないでねぇ」

「はい……。ですけど、やっぱり悔しいです」

「そうだけどぅ」

「あのとき、ヒルデブランドを捕まえられるのは、俺だけだったんです。ラヴァルーサの戦いの最後を飾る、最重要な作戦だったのに……くそっ」


 シルヴィオが右手で自分の足をたたいた。


「しょうがねぇよ。だって、グラートが不意打ち食らって瀕死になってたぐらい、やばいやつらだったんだろ? ぼくらだけじゃ捕まえられないって」


 ジルダは俺の右側で馬の手綱をにぎっている。


 のんびり歩く馬にゆられて眠いのか、馬上であくびをした。


「そうだが。これが、俺たちの役目じゃないか」

「そうだけどさ。シルヴィは、真面目だよなぁ」

「ジルダが不真面目なだけだろ」


 シルヴィオは優秀で頼りになるが、真面目すぎるのが玉にきずだな。


 シルヴィオに不審な目を向けられても、ジルダはのんきに返事しているだけだ。


「ジルダ、急に兵の指揮をまかせてしまって、すまなかったな」

「ああん? ああ……。いいってことよ」

「ジルダは兵の指揮までできたんだな。驚いたぞ!」

「兵の指揮って、大げさだなぁ」


 ジルダが呆れるように笑う。


「ぼくは、グラートに言われたように、兵を敵の後ろに向かわせただけさ。あのくらいだったら、だれだってできるって」

「そんなことはないだろう。戦争の、ひとつの失敗も許されない場面で、一度もこなしたことがない任務をしっかりとこなしたのだ。本番に弱い者であれば、すくみ上がって何もできなくなってしまうのだぞ」

「はいはいっ。お世辞は、もういいから!」


 ジルダが苦しそうに叫ぶと、アダルジーザが俺の後ろで笑った。


「ジルちゃんはぁ、指揮官さんにもなれるんだねぇ」

「そんなのになれるわけないから! アダルも、真に受けるなよぉ」

「ジルちゃんなら、なれると思うけどなぁ」


 ジルダは、褒められるといつも困惑するな。褒められることに慣れていないのか。


「指揮官になりたければ、ベルトランド殿に紹介するぞ。あの方の下なら、良い用兵術をたくさん学べる」

「だぁーから、そんなのにならないって言ってるだろっ。アダル、にやにやすんな!」


 ジルダは、反応がとてもおもしろい。そういう意味でも、サルンに必要な逸材だな!


「俺よりも、ジルダの方が良い指揮官さんになれますよ」


 一方のシルヴィオは……まだ落ち込んでいたのか。


「シルヴィオも、ベルトランド殿に紹介してやってもよいぞ。しばらく、勉強してみるか?」

「え、ええ。グラートさんが足手まといだと思ってるんでしたら、勉強しに行きますよ」

「もう、シルヴィってばぁ」


 シルヴィオは、たまにねるのが欠点だな。


「なんだよシルヴィ。まだ拗ねてんのかよ」

「俺は拗ねてなんかいない!」


 シルヴィオの子供じみた反応に、つい笑いが込み上げてしまった。



  * * *



 ラヴァルーサの東門を出て、南東の森を目指していく。


 この間の戦いの痕跡をふみしめながら、一歩ずつ馬を進める。


「でさ、グラート。ぼくらはどこに向かってるんだっけ?」

「マジャウの者たちが住む村だ」


 ジルダにはさっき説明したはずだが、おぼえていなかったのか。


「マジャウの村……って、なんだっけ?」

「マジャウは、ラヴァルーサの南東の森に住む一族だ。人間とは異なる容姿の一族だが、とても良い者たちだ」


 俺がラヴァルーサでヒルデブランドに敗れたとき、マジャウの者たちに助けられた。


 あの泰山のように大きい酋長は、今日も元気にしているだろうか。


「人間とは異なる容姿って、どんな容姿なんだよ」

「それは、グラートさんがさっき説明してくれただろ」


 シルヴィオが俺をフォローするように言ってくれた。


「そうだっけ?」

「ああ。全身を白い体毛で覆った、魔物のような見た目だ」


 魔物のような見た目……とは教えていないのだが。


「うげぇ。魔物みたいなやつらのとこに行くのかよぉ」

「マジャウの人たちは、戦いで負傷していたグラートさんを助けてくれた人たちなんだ。それなら、怖がらなくても平気だ」

「シルヴィオの言う通りだ。マジャウの者たちは心の澄んでいる者たちだ。ジルダも会えば、きっと気に入ると思うぞ」

「そうだといいけどさ」


 道案内に従って、鬱蒼と茂る森の中へと入っていく。


 この周辺の森は、他の森よりも葉が生い茂っている。この辺りの土地にしては雨が降る場所なのか。


 やがて、マジャウの者たちが建てた彫刻や飾りが見えてきた。


「げ。なにこの変な飾りっ」

「これは、マジャウの者たちがつくった魔除けだ。森の精霊をイメージしているのだ」


 魔除けのデザインは独特だ。


 牙を生やした人間のような絵が描かれていたり、鳥の羽根で飾り付けたものであったり、デザインにはあまり統一性がない。


 しかし、デザインはどれも個性があって、同じものがひとつも存在しない。個性ゆたかなのは、見ていて楽しい。


「かわいい、デザインだねぇ」


 アダルジーザが後ろでほほえんでくれる。


「そうだろう?」

「うんっ。わたしは、好きだなぁ」

「気に入ってくれて、よかった」


 ジルダがとなりで、「マジかよぉ」とうめいていた。


 マジャウの住む森を進んでいくと、マジャウの子どもたちの姿が確認できた。


 彼らの白い、ふわふわとした体毛を見ると、心がなごむな。


「げっ、なんだあれっ」

「あ、あれが、マジャウの人たちですかっ」


 シルヴィオもマジャウを実際に見て驚いているか。


「そうだ。彼らは人間の子どもと同じだ。だが、よそ者にはすぐに心を開かないだろう」


 馬を降りて彼らに近づく。


 マジャウの子どもたちは、俺たちの気配を察知して身構えた。


 しかし、俺を覚えてくれていたのか、警戒をすぐに解いてくれた。


「お前っ、酋長の、お気に入り!」

「酋長の、お気に入り!」


 マジャウの子どもたちが、無邪気に俺に飛び込んできた!


「お前たち! ひさしぶりだっ」


 ヒザをついて、マジャウの子どもたちを全身で受け止める。


 彼らのふわふわした毛が、気持ちいい。


「お前、生きてたかっ」

「元気にしてたかっ」

「ああっ、元気にしていたぞ。お前たちが良い薬をくれたおかげだ!」


 マジャウの者たちも達者で暮らしていたようで、よかった。


「酋長も、元気にしているか?」

「酋長も、元気っ」

「お前にっ、会いたがってた」

「そうか! 俺も酋長に会いに来たのだっ」


 マジャウの子どもたちは、人間の子どもたちと同じように笑っていた。


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