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第136話 シルヴィオたちとの再会と、ヒルデブランドの思惑

「ふたりとも、見事であった」


 すばらしい戦いだった。


 アゴスティで以前に苦戦を強いられた相手だというのに、こうもあっさりと倒してしまうとは驚きだ。


「グラートさんから、戦い方を教わっていたからですよ」


 シルヴィオは幻影剣を消失させて、ひかえめに言った。


「そんなに謙遜しなくていいだろう。教えたからといって、一朝一夕にできることではない」

「いや……そんなにべた褒めされると、どう反応すればいいか困りますっ」


 苦笑するシルヴィオに、つられてしまった。


 シルヴィオがジルダに歩み寄って、手を差し出す。


 ジルダはその手につかまって、ひょいと身体を起こした。


「ジルダも、よく来てくれた」

「おう! グラートが死にそうになってたっつうから、来てやったぜ」


 口が悪いのも、あいかわらずか。


「抜群のタイミングだった。たすかった!」

「へへっ。ぼくもまぁ、一応はグラートの臣下だからなっ。報酬ははずんでくれよ!」


 はっはっはと大きな声で笑うジルダだったが、俺のとなりに立つアダルジーザに気づいて、目をまるくした。


「あれっ、アダル? なんで、アダルがいんの!?」

「うふふ。ひさしぶりだねぇ」


 アダルジーザが駆け寄って、ジルダの手をとった。


「グラートが、大けがをしちゃったって、言われたから」

「ああ……。それで、サルンから駆けつけたのかぁ」

「うんっ」


 ジルダとアダルジーザがくすくすと笑う。


 ジルダはすぐに俺を見やって、


「グラートは油断すっと、すぐに大けがすっからな。サルンでじっとしてらんねぇよな!」


 俺の失態をはっきりと言ってのけたが、何も言い返せないな。


「おい、ジルダ。グラートさんに、あまり失礼なことを言うな」


 シルヴィオがとなりで目を細めると、「へいへい」とジルダが返事した。


 アダルジーザはシルヴィオの手もとった。


「シルヴィもぅ、ありがとうねぇ」

「いえいえ、そんな。臣下として、当然のことをしたまでです。礼にはおよびませんよ」

「うん。そうだけど。シルヴィのことも、心配だったから」

「俺なら心配ありません。アゴスティでは少し油断してしまいましたが、胸を少しけがしただけです。このくらいで、やられたりしません!」


 シルヴィオは今日も元気だっ。


「うんっ。シルヴィだったら、だいじょうぶだよねぇ」

「アダルさんにもご足労をかけてしまって、すみません。俺たちが、もうちょっとしっかりしていれば、グラートさんを独りで死地に飛びこませることはなかったんです」

「ううん。それはぁ、気にしないで」


 ひさしぶりの再会で積もる話を続けたいが、ここは戦場だ。


 ストラたちに夜襲された直後で、兵たちの動揺もまだ収まっていない。


「三人とも、積もる話は後にしよう。まずはここを片付けたい」

「はっ」

「うへぇ。救援に来たばっかだっつうのに、片付けなんかさせられんのかよぉ」


 子どものように文句を言うジルダを、シルヴィオがまた注意していた。



  * * *



 荒れた陣地の北部を整備して、翌日にシルヴィオたちを呼んだ。


「グラートさん。ベルトランドさんは明日にもここへ到着します。それまでの辛抱です」


 シルヴィオは俺のテントに入るなり、自信ありげに言った。


「そうか。それは心強い」

「ミランドの反撃が予想よりもはげしかったので、占拠が遅れてしまったんです。しかし、ベルトランドさんはグラートさんを待たせてはいけないと、すぐに軍をととのえて進軍してくださいました。ですから、何も心配することはありません」

「うむ。ベルトランド殿なら、優れた采配で北伐軍を指揮してくれるだろう。彼らの到着をゆっくりと待つことにしよう」


 俺の率いる軍だけでは、ラヴァルーサを落とせない。


 無茶な攻城で兵を失うのは、得策ではない。


「で、ベルトランドさんの本隊が到着するまで、どうするんだ?」


 ジルダが、椅子の背もたれにもたれかかりながら言った。


「消極的だが、北伐軍が到着するまで待った方がよいと考えている」

「まぁ、そうだよな。万全な状態で攻めた方がいいもんな」

「ジルダやシルヴィオの助けがあれば、ラヴァルーサの城壁に打撃を与えられるかもしれないが、ヒルデブランドの力は予想よりもはるかに強力だ。慎重に判断すべきだろう」


 俺が率いる東伐軍だけでは、ラヴァルーサを陥落させられなかった。


 無暗な進軍で、シルヴィオやジルダを失いたくない。


「グラートさん。単純にお聞きしたいのですが、ヒルデブランドというのは敵の大将の名前ですか」


 シルヴィオが真剣な面持ちで言う。


「そうだ。オドアケルのギルマスにして、こたびの反乱を引き起こした張本人だ」

「オドアケルというのは、ヴァレンツァの地下ギルドでしたか?」


 シルヴィオはオドアケルのことをそもそも知らないのか。


「そうだ。ヴァレンツァで暗躍するギルドであったが、ヒルデブランドはラヴァルーサの出身らしいのだ」

「ラヴァルーサの……? あの、話の流れが見えてこないのですが」


 シルヴィオとジルダに、オドアケルとヒルデブランドについて知っていることを話した。


 ヒルデブランドがオドアケルのギルマスであること。


 ヒルデブランドが俺と同じく捨て子であり、預言士の末裔であること。


 ヒルデブランドがラヴァルーサの出身で、オドアケルを結成したのもおそらくラヴァルーサであったことなど。


「じゃあ、ヒルデブランドっつーわるはラヴァルーサを適当に選んだんじゃなくて、自分の故郷だから旗揚げしやすかったんだな」


 ジルダが頬杖をつきながら言う。


「そうだ。俺は、ラヴァルーサが都から遠く、食料などの問題で民が陛下に反意を抱いているから、ヒルデブランドがそれを利用しているのだと思っていた。しかし、オドアケルの捕虜はそれを否定した」

「そいつが嘘をついてるっつう線もあると思うけどな。でも、こんな嘘ついても、ぼくらには意味ねぇもんなぁ」

「そうだな。ヒルデブランドとラヴァルーサの結束が予想よりも固いというだけで、戦局には大きな影響がない」


 サンドラをはじめとしたオドアケルの者たちの忠誠心は、絶対だ。


 あの強固な心をくずすことはできないだろう。


「では、ヒルデブランドという敵の大将は、ラヴァルーサの民を救うために此度の反乱を起こしたのでしょうか」


 シルヴィオの問いを俺は否定した。


「いや。そこがむずかしいところだ。ヒルデブランドと前に対峙したとき、やつは預言士たちの世界の再創造を目標としてかかげていた」

「預言士たちの世界の、再創造?」

「太古のむかしに存在していたという預言士たちは、神から受け継いだ能力で崇高な文明を築いたのだ。『超文明』という名前をヒルデブランドは使っていたが。

 あの男の心にも民を救いたいという気持ちはあるのだろうが、それはおそらく二の次だ。やつが第一に希望しているのは、超文明時代の再来だ」

「なんですかそれ! そんな意味のわからない理由のために、多くの人たちが死んでるんですかっ。民たちの命や生活を、なんだと思ってるんですか!」


 何度考えても、ゆるしがたい野望だ。


 このような恣意しいを断じて認めるわけにはいかない。


「ひでぇ」


 ジルダとアダルジーザも、同様に顔をしかめていた。


「ドラスレ村のみんなを、勝手な理由で利用してるようなものだもんね。絶対に、ゆるせないよ」

「アダルの言う通りだぜ。民草だった人間の気持ちとしても許せねぇぜ! なんだよ、超なんとかって。そんな時代になって、何がうれしいんだよ。頭いかれてやがるぜ!」


 ヒルデブランドの思想は、危険だ。


「そうだ。だから、なんとしてもこの戦いに勝利しなければならない」

「おう! そういうことならまかせとけっ」

「俺たちで、邪悪な者を倒しましょう!」

「うんっ。ラヴァルーサの人たちの、ためにも!」


 心強い仲間たちだ。


「ありがとう。お前たちがいれば、俺はどんな敵にも立ち向かえる気がする」

「グラートさんは、おひとりでも最強ですよっ。俺たちの出る幕なんて、いつもないんですから」

「そんなことはない。俺は独りで戦って、何度も窮地に陥っている。俺には三人の力が必要だ」

「グラートはぁ、ひとりで無理しちゃうから」


 アダルジーザの言葉に、場の空気が少しなごんだ。


「そうだな。これからは、もっと三人の力を借りることにしよう」

「ぼくの力は頼んなくていいぜ。ドラスレ村でのんびりしてっから」

「こら、ジルダ!」


 シルヴィオが叱咤するが、ジルダは悪びれずに笑った。


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