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第135話 シルヴィオとジルダの先遣隊!

「グラートさん!」


 銀色にひかる月に照らされた戦場の彼方。騎馬の小隊がこちらへ近づいてくる。


 五十騎くらいだろうか。


 ストロスの襲撃で陣地が混乱しているというのに、こちらへとまっすぐに駆け寄ってくる。


 俺を呼ぶあの声は、聴き慣れていた懐かしいものだ。


「シルヴィオかっ」


 北伐軍から抜擢された先遣隊は、シルヴィオが率いていたのか。


「シルヴィっ、グラートの陣地が魔物に襲われてんぞっ」

「わかってるっ。ジルダ、風の魔法を放て!」

「あいよ!」


 あの子どものように高い声は、ジルダか!


 あのふたりが先遣隊にくわわっていたとは、なんと心強いことか!


「くたばりやがれ!」


 ジルダが月夜に右手を差し出す。


 動きのなかった夜空の空気が急速に動き出し、浮遊しているストラたちを彼方へ押し流す。


「グラートさんからはなれろ!」


 シルヴィオは馬上で幻影剣をつくり出し、衝撃波のようなものを放った。


 三日月状の刃が夜空の月と交錯する。


 軌道の先にいたストラたちを一瞬で分断した。


「シルヴィオ!」


 怒鳴るように呼ぶと、シルヴィオがすぐに気がついてくれた。


「グラートさん! おひさしぶりですっ」


 シルヴィオは緑と白のシュルコーの下に、チェインメイルを着込んでいた。


 やや幼さの残る顔立ちは活力に満ちあふれている。


「シルヴィオ。よく来てくれた。九死に一生を得たぞ」

「そんな……急に何を言い出すかと思えば。俺こそ、グラートさんの臣下でありながら、長い間戦線から離脱してしまい、申しわけありませんでした」


 シルヴィオが馬から降りて、頭を少し下げる。


「気にするな。戦いで負傷は避けられん。それに、アゴスティでベルトランド殿と合流してから、ずっと戦ってくれていたのだろう?」

「はっ。もちろんです。あんなところで戦線から離脱していたら、戦士の名折れ――」

「おふたりさんっ、話は後にした方がいんじゃね!?」


 制止してくれたのは、ジルダか。


 いつの間にか空の上に移動していたストロスが、今にも襲いかかってきそうだった。


「そうだ。まずは、あいつを倒さなければならない」

「あれは! アゴスティでグラートさんが倒したはずなのに、まだ生きていたのかっ」

「いや。あれはおそらく、別のストロスだ。ストロスは二頭以上存在していたのだ」

「なるほど。そういうことでしたか」


 シルヴィオが左手からも幻影剣を出現させる。


 二本の幻影剣を顔の前で交差させて、不敵な笑みを浮かべた。


「グラートさんは下がっていてください。あいつは、俺とジルダで倒します」


 ジルダも近くの兵に馬をあずけて、シルヴィオのそばに駆け寄ってきた。


「あんのヤロー、まだ生きてやがったのか!」

「ジルダ、グラートさんは長い戦いでお疲れだ。俺たちで倒すぞ!」

「おー! まかせとけっ」


 ストロスが急降下をはじめる。


 一瞬で巨体を落下させて、避けるシルヴィオとジルダの間を通りすぎる。


「あっ、ジルちゃん!」


 アダルジーザがふたりに気づいたが、俺は彼女を制止した。


「待て。会話するのは、ふたりがストロスを倒してからだ」

「えっ、ふたりに、まかせちゃうの?」

「ああ。ふたりで倒すと、俺に言ってくれたのだ」


 俺ばかりが戦っていたら、ふたりの成長を阻害してしまう。


 シルヴィオ。ジルダ。負けるな!


 ストロスはふたりを警戒しているのか、急降下の攻撃しか仕掛けてこない。


 シルヴィオとジルダは真剣な面持ちで、ストロスの攻撃をかわしている。


「シルヴィ、わりぃけど囮になってくれ。まずは動きを止めねぇと、反撃できねぇよ」

「囮になるのはかまわないが、何か策があるのか?」

「もちろん! じゃなきゃ、危険を冒してくれとか言わねぇよ」


 ふたりは何をする気だ?


 上昇したストロスは月の前で旋回し、また急降下をはじめてくる。


 シルヴィオが前に出て、ストロスが急降下する軌道の延長線上に立った。


「シルヴィ、逃げて!」

「待てっ、アダル。ふたりを信じろ!」


 慌てるアダルジーザを捕まえる。


 シルヴィオは幻影剣を交差させて、ストロスをじっと待ちかまえている。


 ジルダはシルヴィオから離れて、魔法を詠唱しているのか?


 ストロスが高速でせまり、シルヴィオをまっすぐに捉える――。


「シルヴィ、いいぜ!」

「はっ」


 シルヴィオはぎりぎりまでストロスを引きつけて、左に跳んだ。


「これでもくらえ!」


 ジルダが両手を突き出して魔法を放った。


 雲のない夜空から青白い閃光が落下する。


 閃光はストロスの頭上に落ち、かっと白光を出現させた。


「これは……」


 ジルダが得意とする雷の魔法か。


 強烈な雷がストロスの全身を焼き、同時に感電を引き起こす。


「もっと食らわせてやるぜ!」


 ジルダが雷の魔法を連発させる。


 雷が発光するたび、暗闇が昼のように明るくなった。


 ストロスはそのまま上空へ逃れた。だが、飛行は確実に遅くなっている。


「あいかわらず、やるな!」


 地面に転がっていたシルヴィオが、身体を起こした。


「あったりまえよ! 同じ敵に二度もやられねぇっ」

「そうだなっ」


 シルヴィオが幻影剣をかまえなおした。


「シルヴィ、やつはきっと、次は接近して風の魔法を使ってくる。あんたの一撃は、最後までとっといてくんな!」

「わかった。お前にまかせるぞ」


 ふたりとも……すばらしいチームワークだ。


 少し見ない間に、ここまで成長していたとは。感動で言葉がノドをつかえてしまう。


「ふたりにまかせれば、だいじょうぶだねっ」


 アダルジーザの表情にも余裕がもどった。


 ストロスはまた急降下をはじめたが、先ほどまでの急降下より速さがにぶっている。


 ジルダが与えたデバフで動きがにぶくなっているのかもしれないが、それゆえに戦法を切り替えてくる可能性が高い。


 今度はジルダがストロスの真正面に立っていた。


 ジルダの回避能力は、シルヴィオほど高くない。


 ストロスがそのまま急降下してきたら、簡単によけられないぞ!


「へっ、いいから来いよ」


 ジルダは両手を左右にひろげて、魔法をとなえていた。


 ストロスはまっすぐにジルダに近づいていた。


 だが、馬車一台分の距離まで近づいたとき、身体を急停止させて上体を起こした。


「くらえ!」


 ジルダが魔法を放ったのと、ストロスが魔法を放ったのは同時だった。


 ふたりの風の魔法が真正面からぶつかり、大爆発のような衝撃が――。


「きゃっ!」

「うわぁ!」


 俺がフルパワーでヴァールアクスをふりおろしたのと、同じくらいの爆発だっ。


 ふたつの巨大な力が行き場をうしない、強烈な逆風を発生させた。


 瞬間的に発生した力を受けては、俺でもその場に留まることができない。


 吹き飛ばされてしまったが、上空で身体を旋回させて地面に着地した。


 右手を横にのばして、もっと後ろへ飛ばされそうだったアダルジーザを捕まえた。


「シルヴィ、後は頼むぜ!」


 ジルダも爆風を受けて吹き飛ばされていた。


 シルヴィオは……地面にうずくまるようにして、あの爆風に耐えたのか!


「まかせろ!」


 シルヴィオが幻影剣をひからせながら、ストロスに突撃する。


 ストロスも予期しない爆発に対処しきれず、後ろへと吹き飛ばされていた。


「はっ!」


 シルヴィオが空高く跳躍する。


 上空でくるりと旋回させて、二本の幻影剣の切っ先を下へ向ける。


 そのままストロスの上に着地して、彼女の左の翼の付け根に剣を突き刺した。


 ストロスが悲鳴を上げる。


 激痛のためか巨体をよじるように動かしたが、シルヴィオは剣を深く突き刺したまま、離れようとしない。


 ストロスは地面に倒れ、シルヴィオを引き離そうとした。


 だが、シルヴィオは剣を地面に突き刺して、ストロスを地面に縫い付けるように動きを止めた。


 シルヴィオ……さすがだ。


「これで終わりだっ」


 シルヴィオが右手の幻影剣を抜いて、ストロスの胸に突き刺した。


 ストロスはおぞましい絶叫を発して、激痛にもだえていた。


 だが、しばらくしてその絶叫も止め、ストロスは巨体を動かすことを止めた。


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