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第133話 ヒルデブランドをたおせ、ドラゴンスレイヤーの突撃

 バリスタから巨大な矢が放たれる。


 矢はラヴァルーサの城壁に深く突き刺さり、堅牢な城壁にヒビを入れた。


「ベルフリー(攻城塔)を近づけろっ。弓兵はベルフリーの援護にまわれ!」


 ベルフリーは城壁を突破する攻城戦のかなめだ。


 ベルフリーを近づけ、城壁を越える橋をかけなければラヴァルーサを落とすことはできない。


 だが、当然、ヒルデブランドもこちらの思惑を読んでいる。


「カタパルト、何をしているっ。敵のベルフリーを早く破壊しろ!」


 ラヴァルーサの城壁の中から、人の頭よりも大きい石が飛び越えてきた。


 石は鈍い音を発しながら落下し、ベルフリーのそばの地面に落ちた。


 ラヴァルーサの守兵の士気は高い。


 自分たちの数倍もの兵から攻撃されているというのに、自分たちの勝利を信じてうたがわないのか。


「グラートっ。だいじょうぶなの?」


 軍の後ろに下がり、アダルジーザからタオルを受けとる。


「攻撃ははじまったばかりだが、一筋縄ではいかなそうだ」

「すぐには、勝てないってこと?」

「そうだ。ラヴァルーサの民兵たちは、徹底抗戦するつもりなのだ。自分たちの兵力が完全に劣っているというのに、ここを守り切れると信じているのだ」


 この鋼鉄のような意思を砕くのは、むずかしい。


「それなら、どうするのぅ?」

「結局、持久戦にもつれることになるだろう。ベルトランド殿と合流し、四方の門を完璧に包囲すれば、敵方の食料がかならず尽きる。酷ではあるが、そうやって敵の士気をくじいていくしかない」


 持久戦なんて、俺はしたくない。


 ドラゴンスレイヤーとして行動できることは、まだあるか。


「アダル、アンプリファイとマジックバリアを俺にかけてくれ」

「アンプリファイと……? グラート、もしかして、突っ込むの?」

「そうだ。このままでは戦いが膠着こうちゃくするだけだ。俺が突撃して城門を破壊する!」


 俺には、攻城兵器を上まわる怪力がそなわっている。


 潜在力を解放し、さらにアダルジーザのバフをかければ、城門など一撃で開けられる。


「でもぅ、そんなことしたら、グラートがただじゃすまないよ」

「そうだが、安心しろ。この程度の戦いでは俺は死なない。これまでだって、そうだっただろう?」


 アダルジーザはうつむいていた。


 黄金の杖をにぎりしめて、俺の指示に従うか逡巡しゅんじゅんしているようだった。


「グラートには、行ってほしくない……けど、わたしがバフをかけないと、グラートはもっとけがしちゃうから」

「たのむ。危険は承知しているが、膠着する戦況をなんとしても好転させたいのだ」


 アダルジーザは顔を上げずに、細い両腕を少しふるわせていた。


 やがて目に力を込めて、俺にバフをかけてくれた。


「かならず、帰ってきて!」

「わかった。約束する!」


 ラヴァルーサの南門を破壊する!


 ヴァールアクスを引っさげて、天から降りそそぐ敵の矢に突き刺さらない場所で、俺はヴァールアクスをふりおろした。


 俺の怪力がヴァールの魔力を刺激し、空を縦に切り裂く。


 大きな真空波が高速で南門へ飛来する。


「うわぁ!」


 真空波が南門にぶつかり、大きな亀裂を生じさせたが……遠い場所からの真空波の一撃だけでは、門を破壊することはできないか。


「くく。やはり表にあらわれたな。きみの迎撃は、わたし自ら行うしかあるまい」


 ヒルデブランドが城壁に姿をあらわす。


 右手をふりあげて、上空に四本の幻影剣を発生させた。


「死ねっ」


 シャンデリアが落ちるように、紫色にひかる幻影剣が音を発しながら落下してきた。


「くっ」


 落ちるのは速いが、逃げられない速さではない。


 俺は地面をけって後退し、ヒルデブランドの攻撃をかわした。


「ええい、カタパルトの操作が下手で見ておれん! わたしがじきじきにあのやぐらを破壊してくれる」


 ヒルデブランドが右のベルフリーをにらみ、右手を突き出した。


 あのかまえは……強烈な爆発を起こす魔法か!


「やめろ!」

「死ね、王国の奴隷どもっ」


 ヒルデブランドの右手から紫色の珠が飛び出す。


 珠は高速でベルフリーの真ん中に激突し、大きな音を立てて爆発した。


 くっ、攻城兵器を破壊させるか!


「くたばれ!」


 ヒルデブランドに向かって真空波を放つ。


 真空波はヒルデブランドを正面にとらえたが、彼にかわされてしまった。


「ち、ドラゴンスレイヤーめっ。きみはつくづく、厄介な男だ」

「それはこちらのセリフだ。お前に兵たちを傷つけさせやしないっ」


 ヒルデブランドの白い顔が、怒りでゆがんでいた。



  * * *



 東伐軍の七割もの兵を動員しているが、ラヴァルーサは落ちない。


 ラヴァルーサの守兵たちの士気が高いせいだ。


 彼らの死に物狂いの防戦が、ラヴァルーサの防備をさらに堅牢なものにしているのだ。


 二日目も攻撃の手をゆるめず、ラヴァルーサの南と西を同時に侵攻している。


 俺は今日も南門の攻撃にあたったが、ヒルデブランドの猛反撃に苦しめられていた。


「ドラスレ様っ。後退してください。このままでは危険です!」


 南門の戦いが膠着していたときに、メラーニが駿馬に乗り駆けつけてくれた。


「メラーニか。よく来てくれた」

「敵の猛反撃に遭い、こちらの被害は甚大。このまま戦いを続けていたら、北伐軍が到着する前にわたしたちが壊滅してしまいます!」


 メラーニが言うほど、被害はひろがっていない。


 しかし、先が見えない戦いをこのまま続けるのは、好ましくない。


「お前の言う通りだ。今日はこのあたりで態勢をととのえた方がいいかもしれない」

「北伐軍の先遣隊せんけんたいがこちらへ急行していると、伝令から連絡が入りましたっ。明日にも到着するそうです!」


 なんだとっ。


「ベルトランド殿が俺たちを気遣ってくれたのか。さすがだ」

「ですからっ、戦功を逸るなとドラスレ様に伝えよ、とのことです! ここでお下がりくださいっ」


 俺たちだけで攻めるのは、失敗だったか。


「わかったっ。ベルトランド殿の指示に従おう!」

「たすかります!」


 南門の城壁から、ヒルデブランドの高笑いが聞こえてきた。


「先ほどから、何をこそこそと話しているのかね。戦っている最中なのだぞ」

「安心しろ。敵のお前には、関係のない内輪話だ」

「たわけたことを抜かすな。大方、撤退の手筈でも打ち合わせていたのだろう。きみの脆弱な力では、わたしを倒すことはできないからな」


 嘲笑していたヒルデブランドの表情が一変する。


 攻撃を仕掛ける気かっ。


「メラーニ、下がれ!」

「きみたちは、兵ともどもむくろと化すのだ!」


 ヒルデブランドが指を鳴らすと、紫水晶のような幻影剣が城門の前にあらわれた。


 その幻影剣の前に、別の幻影剣があらわれる。


 幻影剣は霜柱しもばしらのように連なって、俺たちに襲いかかってきた。


 この攻撃を止める!


「はっ!」


 ヴァールアクスをふりおろし、衝撃波を幻影剣にぶつける。


 衝撃波は幻影剣を次々と破壊し、門の前で消失する。


 左右から襲いかかってくる幻影剣は、ヴァールアクスの直接の攻撃で粉砕した。


「兵たちの犠牲はないか――」

「あまい!」


 目の前に飛んできたのは、紫色の珠――爆発の魔法か!


「ドラスレさま!」


 ヴァールアクスを横にかたむけて、防御態勢をとる。


 ヴァールの魔力と、アダルジーザがかけてくれたマジックバリアが俺を守ってくれた。


 爆発の勢いまで殺すことはできなかったが、致命的なダメージを受けることはなかった。


「ち、ドラゴンスレイヤーめ。目障りなほどしぶとい男だ。なぜ、このような障害と、同じ時代に生まれてしまったのか。遠い先祖を恨まずにはおれんっ」


 ヒルデブランドが右手をにぎりしめていた。


「ベネデッタっ、まだ用意はできないか!」


 ベネデッタだとっ。


 ヒルデブランドの要請に応じたのか、黒いドレスに身をつつんだベネデッタが城壁の上に姿をあらわした。


「ヒルデブランド様。遅れてしまったこと、深くおわびいたします」

「そんなことはどうでもよい。準備はできたのだな」

「は。いつでも招集することができます」


 嫌な予感がする。


 ベネデッタに魔物を召喚されたら、絶対的に優勢だったこの兵力差が覆されてしまうっ。


 ベネデッタが顔を向ける。俺をにらみつけて、


「姉の死。そして、先の戦いの雪辱、今こそ晴らしてやるっ」


 右手の親指と人差し指を口にあてて、かん高い音を鳴らした。


 無数の雲が浮かぶ空に、黒い雲が彼方からあらわれた。


 その雲はどんどんふくらんでいき、他の雲をのみ込むようにふくれ上がって……違うっ。あの雲は大きくなっているのではない。こちらへ近づいてきているのだ。


 二枚の翼をはためかせた、鳥の魔物の大軍。


 人のように長い胴体と頭をもつ彼らは……アゴスティを急襲したストラだ!


「今度こそストラの餌となれ、ドラゴンスレイヤー!」


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