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第129話 パライアでルーベンと一騎討ち

 ヒルデブランドは、ヴァレダ・アレシアの北東部で生まれ育った。


 俺と同じように親に捨てられ、奴隷として富豪や上級の市民に買われたのか。


 主から家畜のようにこき使われる過程で、自分が預言士の末裔だと気がついたのだろうか?


 自分が他の人間たちとちがう力をもっているというのは、幼少から気づけるものかもしれない。


 義父が人づてに預言士のことを知ったように、ヒルデブランドもだれかから預言士の伝説を聞かされたのか。


「グラート。もうすぐ、パライアに着くのぉ?」


 サンドラを捕らえてから、二日が経った。


 パライアの高原へと進出し、パライアの到着が目前へと迫っていた。


「そのはずだ。物見ものみからは、そう聞いている」

「敵さんと、話し合いで仲良くなれたらいいのにねぇ」


 アダルジーザの言う通りだ。俺だって、できれば戦いたくない。


「話し合いでの解決が理想だが、それはむずかしいだろうな」

「そうだよねぇ。敵さんも、必死なんだもんねぇ」

「ついこの前、サンドラを説得できなかったばかりだからな。彼らの結束力の高さには、舌を巻くしかない」


 ヒルデブランドは、よこしまな心で善良な市民たちをあやつっているものだとばかり考えていた。


 だが、サンドラのあの高い忠誠心は、俺の安易な発想を真っ向から否定した。


 ビルギッタやベネデッタも、同様に彼へ忠誠を誓っているのかもしれない。


「パライアでも、オドアケルの強敵が立ちはだかることだろう。アダル、俺に力を貸してくれ」

「もちろんっ。傷が痛かったら、すぐに言ってねぇ」


 程なくして、パライアが見えてきた。


 高原にそびえる灰色の頑強な城壁は、アゴスティとかなり似ている。


「あれが、パライアか」

「うんっ」

「パライアを治めていたオドリーニ卿は戦いに敗れて、敵に捕らえられてしまったそうだ。パライアを敵に占拠されてから、生存されておられることすら、わからないという」

「そんな……じゃあ、もしかして……」

「捕らえられた末に首を切られてしまったかもしれないということだ」


 ヒルデブランドとオドアケルの猛攻を受ければ、地方の小城では守り切れないだろう。


「ドラスレ様! ご注進っ」


 パライアにはなっていた斥候がもどってきたのか。


「どうした? 前方で戦闘がはじまったのか」

「いえっ。パライアの城塞の前で、敵の小勢が待ちかまえているそうなのです」


 敵の小勢が、待ちかまえている?


「その小勢というのは、何名くらいか」

「おそらく、二十名くらいです。馬に乗った大将らしき男が、ドラスレ様を待っているそうなのです」


 二十名……かなり少ない。


 そんな小勢が正面からぶつかって、俺の率いる都の兵たちに勝てると思っているのか?


「向こうの男は、ドラスレ様と一騎打ちをしたいと申し出ているそうです。どうなされますか」


 一騎打ち、か。考えたな。


「よかろう。その申し出、受けて立とう」

「よっ、よろしいのですかっ」

「無論だ。ドラゴンスレイヤーと都で畏怖される俺が、この戦いで一騎打ちを断ったと知れれば、軍全体の士気にかかわる。その男は、俺がなんとしても倒さなければならないだろう」


 アダルジーザを下ろして、別の馬に乗ってもらう。


「グラート。行っちゃうのぉ」

「ああ。一騎打ちを申し込まれている以上、逃げるわけにはいかない」

「断っても、いいと思うんだけど……」

「それはだめだ。少数の彼らは、一騎打ちでこちらの士気を急落させようとしているのだ。そうなれば、彼らの思うつぼだ」


 パライアを守る兵たちは、こちらの半分くらいしかいないのだろう。


 俺が敵の大将を打ち負かせば、逆に敵の士気を一気に落とすことができる。


「アダル。安心しろ。俺は絶対に勝つ。信じて待っていてくれ」

「う、うんっ」


 白馬をあやつって、軍の先頭へと躍り出る。


 斥候が報告した通り、パライアの城門からはなれた場所に、二十名くらいの兵たちが蝟集していた。


 彼らの先頭で駿馬にまたがっている男は、俺に勝る大柄な男だった。


 今日も柱のような槌をぶら下げて、堂々たる姿を俺の前にさらしている。


「だれかと思ったら、お前だったのか。ルーベン」


 ルーベンは神妙な顔つきで、俺の前に馬を進めてきた。


「ドラスレさんよ。すまねぇな。ここで死んでもらう」

「死んでもらうというわりには、お前の顔が青いではないか。引きかえすなら、今のうちだぞ」


 ルーベンと戦うのは、これで何度目か。


 戦うたびに、俺の強さを思い知っているはずだが、ヒルデブランドの配下の者たちは生き急ぐ者が多いのか。


 ルーベンが馬の頭をぶつけてくる。


 俺も手綱をあやつって、彼の攻撃を受け止める。


「死ね!」


 ルーベンは巨大な得物を片腕でふりまわす。


 ヴァールアクスで受け止めるが……今日もすさまじい力だ!


「あんたにここを明け渡すわけにはいかねぇんだ! たのむからここで退いてくれっ」

「それはだめだ! ヒルデブランドを倒し、ラヴァルーサを解放させなければヴァレダ・アレシアに平和は訪れないっ。お前を倒して、俺は前へ進む!」


 ヴァールアクスを右手でふりかぶり、ルーベンの左肩にぶつける。


「ぐわっ」


 ルーベンは俺の攻撃を受け止められずに落馬した。


 俺も馬を飛び降りて、さらに攻撃をくわえる。


 ルーベンは飛び起きて、子どものように逃げまどった。


「あんた、やっぱバケモンだぜ! なんでそんな怪力なんだよっ」

「それをお前に言われたくない!」


 右足で地面を蹴って、空高く跳躍する。


 ルーベンの頭の後ろを目がけて、ヴァールアクスをふりおろす!


「う、うわぁ!」


 ルーベンにすんでのところでかわされたが、ヴァールアクスの絶大な攻撃力が地面を爆発させて、彼を戦場の遠くへ吹き飛ばした。


「くそっ。やっぱ、とんでもねぇぜ! ヒルデのだんなぁ、恨むぜ」


 ルーベンは口が悪いが優秀な男だ。できれば命を奪いたくない。


「俺と一騎打ちをしろと言ったのは、ヒルデブランドのようだな。悪いことは言わない。命をむだにするな」

「おっ、俺だって、むざむざと死にたくねぇよ。でもな、上からの命令なんだから、仕方ねぇだろ!」

「お前たちにも、やむを得ない事情があるということか」


 サンドラと同様に、この男を説得するのはむずかしいかもしれない。


「こうなれば、やぶれかぶれだっ」


 ルーベンが槌をかまえて突進してくる。


 がきんと槌とヴァールアクスが交差し、するどい衝撃が八方へとはなたれた。


「オラオラオラ! 俺様の力をなめるなぁっ」


 ルーベンが槌を押しつけるように攻撃してくる。


 ヴァールアクスで受け止めてもよいが、武器に過剰な負担はかけられない。


「このやろっ。逃げるな!」


 後退してルーベンとの距離をとるが、彼はすぐに距離を縮めてくる。


「大した身のこなしだ。やはり、戦い慣れているな!」

「るせぇ!」


 敵ながら剛直なこの男を、俺は嫌いになれない。


 ブラックドラゴンのヴァールも、この男のように……いや、この男以上に剛直な男であった。


 ――どうしたグラートっ、もう終わりか!? お前の力は、その程度かっ!


「うらっ!」


 ルーベンのふるう槌が眼前にせまる――。


「くっ!」


 身をかがめて、ぎりぎりのタイミングで彼の攻撃をかわすことができた。


「ぼさっとしてんじゃねぇよ。俺様をバカにしてやがんのか!?」

「すまない。お前の戦いぶりを見て、むかしに戦った男のことを思い返してしまったのだ。ゆるせ」

「むかしに戦った、男だとぉ」


 ルーベンが地面をけって後退する。


「アルビオネのヴァールだ。あの男も人間の姿でいたときは、俺以上の剛腕をふるっていた」

「アルビオネの……? だれだよ、そいつ」

「俺がヴァレンツァで倒した、ブラックドラゴンだ。俺がドラゴンスレイヤーと呼ばれるきっかけをつくった男だ」


 ヴァールはヴァレンツァを襲った悪竜であったが、彼の堂々たる戦い方を尊敬していた。


 彼と会うことはもうないだろうが、あの激闘がとてもなつかしい。


「おっ、俺を、ドラゴンなんかといっしょにするな!」

「はは。そう気を悪くするな。ヴァールは強い男だった。ヴァールとお前がかさなるということは、お前が強い男である証であるのだ」

「そんな、よくわかんねぇこと言ったからって、俺はまどわされねぇからな! あんたの安い口車になんか、乗らねぇぞっ」


 ルーベンもサンドラと同じように、用心深いのだな。


「俺はお前の実力を認めているのだがな。かなしいことだ――」


 後ろから、兵たちがどたどたと歩く音が聞こえてくる。


 ルーベンの配下の者たちが動きはじめたのか?


 まだ、一騎打ちの最中なのだが……。


 戦場の異変に、ルーベンも気がついたようだった。


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