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第126話 激怒するベネデッタと姉の暗影

「お前がっ、なぜ……こんなところにっ」


 ベネデッタはテントのそばで片膝をついていた。


 俺を見上げる目は、恐怖と怒りで満ちあふれている。


「無論、この戦いを終わらせるためだ。フォルクルたちを使役しているのは、お前なのだろう?」


 ベネデッタは黒装束の上から白銀の鎧を着込んでいる。


 白い顔は血が通っていないのか、今日も死神のように生気が感じられなかった。


「フォルクルどもを無力化させるために、単身でここを奇襲しにきたのか」

「そういうことだ。危ないが、この方法が最善だと感じたのでな」


 オドアケルの者たちが俺を取り囲む。


 民兵たちも怯えながら、彼らの後ろで槍をかまえている。


「飛んで火に入る夏の虫とは貴様のことだっ。愚か者め!」


 オドアケルの者たちがまた魔法を放ってきた。


 火の玉が高速で飛来し、近くにあったテントを燃やす。


「しねっ、ドラスレ!」


 ベネデッタも魔法をとなえ――雷の魔法か!?


 俺の四方で滞留していた力が急に具現化し、発光とともに爆破する。


 ベネデッタが雷の魔法を連発する。


 空から三本もの極光を降らせ、本陣のテントや柵を粉砕していった。


「ベ、ベネデッタさまっ。お気をたしかに!」

「うるさい!」


 彼女は目をつり上げて、仲間の制止をふり切っている。


「お前は、どうしても俺が憎いか」

「あたり前だ! お前が、姉さんを、殺したっ。わたしの、たったひとりの、身内を」


 彼女の慟哭のような言葉が、俺の胸を突いた。


「そうだったのか。すまないことをした」

「お前が言うな!」

「だが、これは戦いだ。俺とて、お前の姉を殺したくて殺したわけではない」


 ビルギッタは、あまり幸せな女ではなかったのだろう。


 敬愛していたヒルデブランドから、駒のように扱われていたのだから。


「悪いことは言わない。あの男……ヒルデブランドからはなれろ」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどいない。そうしなければ、お前たちはもっと不幸になる」


 ベネデッタが後ろに跳んで、戦いの手を止めた。


「貴様の言葉など、だれが聞くものか。そのような安い挑発に乗るわたしではない!」

「挑発などではないっ。俺は真に、お前を思って――」

「気安く近づくな!」


 ベネデッタが白い両手を向けた。


 かっと目の前がひかって、雷の鋭い衝撃が俺を吹き飛ばす。


 ビルギッタも優秀な魔道師であったが、ベネデッタの魔力は姉以上だ。


 預言石によって潜在力を解放されているせいか。


「ベ、ベネデッタさまぁ!」

「うわぁ!」


 怒りの鉄槌は兵たちの頭上に落ち、彼らを一瞬で灰に変えた。


 自分たちの本陣を自ら破壊してくれるのはありがたいが、うかうかしていたら民兵たちの被害が大きくなってしまうっ。


 一撃でベネデッタを仕留める!


「はっ!」


 ヴァールアクスを地面に押しあて、衝撃波を発生させる。


 衝撃波は地面をえぐりながら、高速でベネデッタを襲う。


 衝撃波を追うように、俺はヴァールアクスをかまえて突進した。


「そんなもの!」


 ベネデッタが右に跳んで衝撃波をかわす。


 衝撃波は直線的にしか飛ばないため、戦い慣れた者であればかわすのは簡単だろう。


 だが、


「もらったっ」

「なにっ」


 よけたベネデッタは、急接近していた俺に気づくのがわずかに遅れた。


 ヴァールアクスの届く範囲に彼女をとらえた――。


 彼女の前に突如あらわれたのは、黒いドレスを着たビルギッタ!?


 ビルギッタは後ろ姿で、背中から血を流している。


 俺が、斬ってしまったのだ。


 ビルギッタはそのまま、妹のベネデッタに覆いかぶさるように地面へと倒れた。


「くっ!」


 ベネデッタは地を這うように、俺から離れた。


 ビルギッタの幻影は、そこにはもうなかった。


「き、きさまはっ、わたしの敵だ!」


 ベネデッタが両手に身体中の魔力を集約させる。


 強烈な光が滝のように飛来し、俺の頭上に――直撃はさけねばっ!


 ヴァールアクスをとっさに盾にする。


 ヴァールの魔力が俺を守ってくれたのか、半透明の障壁を出現させて、ベネデッタが放った雷を拡散してくれる。


 雷は轟音とともに弾けて、八方へと分解されていった。


「ベ、ベネデッタさまを守れ!」

「あの男を殺せ!」


 オドアケルの者たちがさっとあらわれて、ベネデッタの前に立ちふさがる。


 民兵たちも生き残った者は俺のまわりに立ったが、大半は彼女が放った雷の生贄になってしまったようだ。


 陣地は焼け野原と化している。


 大地はいくつもの雷を受け止めて、跡形もないほど掘り起こされている。


 人が潜在的に持つ力というのは、これほど強大なのか。


 こんな力を無尽蔵にふりかざせば、人間の一族などすぐに滅んでしまうのではないか。


「やめておけ。お前たちでは、俺は倒せん」

「なんだと!?」

「この状態でも主を守ろうとするお前たちの忠義は、立派なものだ。だが、勝敗は決した。おとなしく引けっ」


 オドアケルの者たちに護られながら、ベネデッタが俺をにらんだ。


「気に入らないが、お前の言う通りにしてやろう」

「俺に従ってくれるか」

「ふ。お前はバカかっ。自分が敵地の奥深くにいることを忘れているんじゃないだろうな」


 地面をゆるがす音が、どこからともなく聞こえてくる。


 巨人が歩いてくるような足音は、ゆっくりと俺に近づいてくる。


「あっ、あれはっ」


 民兵のひとりが、おどろきの声を上げた。


 ふりかえると、フォルクルの兵たちが山脈のようにつらなっていた。


「怪力男めっ。敵地に単騎で乗り込んだ愚を後悔するがいい!」


 フォルクルたちが天をあおぎ、叫び声をあげはじめた。


 城が崩壊するような轟音が戦場のくもり空にひびきわたる。


 フォルクルたちが足音をひびかせながら、俺に襲いかかってきた。


 鋼鉄の巨大な棍棒をふりおろして、俺の頭を粉々にしようとする。


 フォルクルたちの攻撃の間を縫って、ヴァールアクスを斬り払う。


 フォルクルたちは身体が重いため、ヒザをすくえば簡単に転がすことができる。


「お前たちはベネデッタに利用されているだけだろう。だが、戦場で手を抜くことはできない」


 フォルクルたちの攻撃をかわしながら、ヴァールアクスで反撃する。


 転倒させたフォルクルたちが起き上がる前に、衝撃波で彼らを吹き飛ばした。


 敵陣に目を向ける。ベネデッタや指揮官たちの姿はなくなっている。


 俺の目標は達成された。カゼンツァはこれで防衛できただろう。


 あとはフォルクルたちを撤退させるだけだが……数がかなり多い。


 フォルクルたちは何体いる。五十体くらいか?


 フォルクルたちの攻撃の範囲から出て、衝撃波を主体で攻撃を続ける。


「はっ!」


 転倒したフォルクルにとびかかり、ヴァールアクスで一刀両断する。


 彼らは巨体だが、身体の固さは人間と大差ない。


 胴を割られた仲間を見て、他のフォルクルたちが怯んでいるようだった。


「命が惜しければ引け! 無益な殺生をする気はないっ」


 腹の底から声を張り上げると、フォルクルたちはさらに怯んだ。


 フォルクルたちの中には、俺に攻撃してくる者がいるが、そうではない者たちも増えてきた。


 指揮官のベネデッタたちもいなくなったからか、彼女の影響力がだんだんとうすれているのかもしれない。


 襲いかかってくるフォルクルたちを退けながら、俺もカゼンツァへ向けて少しずつ後退する。


 フォルクルたちは俺を倒せないと悟ったか、武器を下ろして困惑していた。


「お前たちは、自分たちが住む森へ帰れ。俺は、お前たちと戦いたくない」


 ヴァールアクスを下ろして、泰然自若にかまえる。


 フォルクルたちは、しばらくその場にとどまっていたが、やがてベネデッタたちを追うように戦場から去っていった。


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