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第109話 ヴァレダ・アレシア東部の古代遺跡

 オドアケルの追っ手を警戒しながら、カゼンツァへと続く道を急ぐ。


 朝早くから天上にのぼっている陽が、強い日差しをあびせてくる。


「今日も、暑い……ですっ」


 ビビアナは、どこかでひろってきた木の棒を杖のかわりにしている。


「今日は、とくに日差しが強いな。全身の水分がどんどん失われていく」


 水筒に水はたくさん汲んでおいたが、この分だとお昼には水が空になるな。


「ちょっと、休みません、か……」


 彼女の髪は、汗で髪の色が変わってしまうほど濡れている。


 兵たちも槍を杖のかわりにして、今にも倒れそうだった。


「わかった。ここで、しばらく休もう」

「は、はひっ」


 もうラブリア領に入っただろうが、ラブリアは今日も暑いな。


 木が少ないせいなのか、地面も灼熱のように熱いのだ。


「この地で生活するのは大変だな。サルンとは大違いだ」


 葉が抜け落ちた大木のそばに腰をおろす。


 ビビアナや兵たちも近くで腰をおろしたが、俺の言葉に受け答えできる者はいないようだった。


 このタイミングでオドアケルに襲われたら、全滅だ。


 脇腹の傷はふさがっているが、全力を出したら、また傷が開いてしまうだろう。


 こんなところでのんびりしていてはいけないが、足が前に進まない……。


「近くに川があるか、さがしてこよう」


 重たい身体を起こして、道のはずれにある坂道をのぼってみる。


 草のあまり生えていない地面は、太陽の熱を吸収して鉄板のようになっていた。


「アゴスティにむかっていたときも、こんな感じだったな。水分補給を怠れば、全滅は必至か」


 水筒の水でノドをうるおしながら、意外と勾配のある坂をのぼりきった。


 坂の上からあたりを見まわしてみるが、茶色の地面や岩肌しか見つけられない。


 遠くに村のような、建物が密集された場所もあるが、あそこに立ち寄るのは危険だろう。


 山の奥に、川のような一筋の線が見える。


 川は左側からゆるりと曲線を描いて、街道の近くまで流れているようだった。


 川と街道が近づく一点に、石でできた建造物らしきものが見つかった。


「あれは、遺跡か?」


 興味をそそられる建造物だ。


 廃墟のようだが、人は住んでいるのだろうか。


「古代樹の庭園でも、あのような廃墟を目にしたな。もしや、預言士たちが築いた施設なのか?」


 預言士はかつて、この世界で高度な文明を築いたそうだが、それは本当なのだろうか。


「あの廃墟に、少しだけ寄ってみるか」


 坂を下りて街道にもどる。


 ビビアナたちは、大きな枯れ木のそばでまだぐったりしていた。


「暑くて、死んじゃいそうですぅ」

「まだ体力はもどらないのか。ずっと留まっていると、オドアケルにねらわれるぞ」


 ため息まじりに声をかけてみるが、起き上がってくれる者はいない。


「ドラスレ、さま、は……なんでそんな、元気なんですかぁ」

「元気なわけではないが、敵にねらわれているこの状況で、ひとつの場所に留まっているわけにはいかないだろう」

「そ、そうです、けど」


 このタイミングでオドアケルにねらわれたら、本当に全滅だ……。


「このむこうに水が流れていた。そこにいけば、もっと効果的に休め――」

「水!? 水ですかっ」


 ビビアナが急に、立ち上がった。


「どこ! どこですかっ」

「この道のむこうだ。それほど遠くないぞ」


 熱気でだっていた兵たちも、ひとりずつ顔をあげはじめていた。


「だから、もうすこしがんばるのだ。ここにいるよりはいい」

「は、はい!」


 ビビアナたちをつれて、旅を再開だ。


 熱気の立ちのぼる街道を、足を引きずるように歩いていき、やがてあらわれた分かれ道を左へ進む。


 葉のあまりついていない木が立ちならぶ下り坂を降りると、遺跡らしき場所にたどり着いた。


「水は、どこですかっ」


 ビビアナがまるい顔をきょろきょろと動かす。


「この遺跡をさらに下っていったところだろう。水筒に水をくんできてくれ」

「わかりました!」


 ビビアナは兵たちをつれて、遺跡の奥へと走っていった。


「彼らは遺跡に興味がないか」


 規則的な石だたみが敷かれた、かなり広い遺跡だ。


 柱や建物も四角い石で頑強につくられている。


 風化のせいか、ぼろぼろにくだけているところが目立つが、補強すればまた人が住める場所になりそうだ。


「このような場所を、プルチアでも見たような気がするな。はて、どこだったか」


 ジルダに聞けば、わかるかもしれない。


 床や壁に、神秘的な模様が描かれている。


 太陽をあらわすまるい模様や、月や星をあらわすもの。


 人や動物をあらわす模様も描かれているか。


「ここは、預言士たちが築いた施設なのか?」


 ヒルデブランドは、預言士たちが栄華を極めた時代があったと、言っていた。


 ヴァレダ・アレシアの建築様式と明らかに異なる建物だ。


 彼の言う通り、ヴァレダ人やアレシア人と異なる人種が、この地をかつて支配していたのか――。


 がたっ、とかたいものが不意に動く音がした。


「だれか、いるのか?」


 ビビアナたちであれば、俺に声をかけてくるはずだ。


 ならば、オドアケルか?


 腰を落とし、ヴァールアクスをかまえるが、オドアケルの姿はない。


 だが、この全身を貫く殺気はなんだ!?


 細い槍で全身を刺しつらぬかれているようだ。


 見たところ、人のいない廃墟でしかないのだが……家や階段らしき建造物の近くに、黒い甲冑のようなものが置かれているな。


 妙な物体だ。


 マジャウの村に建てられていた、魔除けの柱に似ているが、あの原始的な柱とくらべてはるかに人工的だ。


 その角々しい柱たちが不意に動き出して、真上にぴんと伸びた。


 両腕のようなものを左右に伸ばして、近くに立てかけられていたランスをつかむ――。


「ドドドド、ドラスレさまぁ!」


 ビビアナたちの声かっ。


 腕を生やした巨人が二本足で床をふみしめて、遺跡の静寂をやぶった。


 三体の彼らが首を左右に動かして、俺を捕捉した――。


「くるかっ」


 鋼鉄の巨人がランスを石床にたたきつけた。


 かたい石床が音を立てて破壊され、衝撃波とともに細かい石片が襲いかかってくる!


「お前たちは、この遺跡をまもる守護者か!」


 三体の守護者たちが俺に肉薄してくる。


 ヴァールアクスと等しく大きいランスをふりまわして、縦横無尽に戦場をあばれまわる。


「ド、ドラスレさま! まま、まものがっ」


 川の方から駆けてきたビビアナたちを追うように、二体の遺跡守護者が金属音を発しながら走ってきた。


「きゃっ! ド、ドラスレさまも!?」

「そうだっ。この者たちは、おそらくこの遺跡をまもる者たちだ!」


 ヴァールアクスをふりかぶり、俺に突撃してきた遺跡守護者の腕を斬る!


 斧の重たい刃は彼らの鋼鉄の腕を切断したが、柄を通して金属を裂くするどい衝撃が腕につたわってきた。


 斬れるが、かなり固い。


 ヴァレンツァやラヴァルーサの城壁にも勝るかたさか。


 遺跡守護者は腕を斬り落とされても、何事もなかったように攻撃してくる。


 プルチアで遭遇した、岩の魔物とおなじかっ。


 この者たちは意思も生命ももたないものたちなのかもしれない。


「ということは、胸の中に預言石が埋まっているのか?」


 ヴァールアクスを水平に斬り払い、遺跡守護者の胴をまとめて切断する。


「さ、さすがっ、ドラスレさ――きゃっ!」


 ビビアナの悲鳴が聞こえた。


「だいじょうぶか!?」


 彼女は尻もちをついて、遺跡守護者のするどい攻撃をかわしていたようだ。


「だ、だいじょうぶで……きゃぁ!」


 兵たちも遺跡守護者の重たい攻撃に対応できていないか。


 ビビアナたちを襲う遺跡守護者たちの背後にまわり、ヴァールアクスを斬りつける。


 ヴァールアクスの重たい刃が遺跡守護者の背中を斬り、その黒い身体をまっぷたつに切断した。


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