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第108話 ドラゴンスレイヤーの強大な力

「お前らは他のやつらをぶっ殺せ! 俺はドラスレをるっ」


 ルーベンの大喝に、崖のふもとで待機していたオドアケルの者たちが動きだした。


 彼らは影のように音もなく近づき、片刃の剣をひからせてくる。


「来るぞっ。各自で連携しながら対処するのだ!」

「は、はいっ」


 ビビアナたちの戦力には不安が残るが、彼女たちを援護する余裕はない。


「しねっ、ドラスレ!」


 ルーベンが柱のような槌をふりかぶってくる。


 彼が槌を地面にたたきつけるたびに、地震のように地面がゆれた。


「おら、どうした!? 俺を葬るんだろ。かかってこいよ!」


 ルーベンはいきがっているが、その攻撃には迷いが見える。


「いいだろう。ならば、俺の全力をお前に見せてやろう」


 ヴァールアクスをもつ両手に力を込める。


 マジャウの者たちに治療してもらった傷は、ひらかないか。


 身体の奥底にねむっている力を、引き出す。


 ――全身の力を出せっ。お前の力は、こんなものじゃないだろ!


「はあぁぁ!」


 肩や脇の傷が、うずく。


 全力を出したら、傷口がまた開いてしまうか。


 ――限界の先にある力を引き出せ。お前は、その力を使うことができるんだ!


 義父は、俺が預言士の末裔であることを知っていたのか……?


「行くぞ!」


 ヴァールアクスが、雲のように軽い。


 あたりをただよう空気が、身体にまとわりつくように邪魔をする。


「な、な……」

「よけろ、ルーベン!」


 跳躍して、月にとどきそうなほど夜空を舞い上がった。


 跳躍した頂点でくるりと旋回して、急降下とともにヴァールアクスをたたきつける!


「うわ――」


 地面にぶつかった瞬間、何もかもが一斉に吹き飛ばされた。


「ぐわ……!」

「きゃぁぁっ!」


 ドラゴンのかたい鱗を一瞬で斬り裂くような力が、地面を菓子のように粉砕する。


 津波のような衝撃が八方にはなたれ、まわりにいた者たちを容赦なく戦場の外へと追い出していく。


 衝撃は地面のむこうまでまっすぐに割り、奥でたたずむ崖に到達した。


 ラヴァルーサの城壁のような崖も、衝撃でまっぷたつに切り裂かれていた。


 これが、俺の持つ力なのか。


 全身の傷がひらかないように、力をおさえたつもりだったが……こんな力が眠っていたのか。


 ――預言士はかつて、その貴重な能力で人間たちの力を引き出し、高度な文明を築いたのだ。


 こんな力で、高度な文明を築けるというのか?


 大きな穴のまんなかに着地する。


 俺がヴァールアクスでくだいた地面に、円形の大きな穴が開いた。


 騎士の屋敷のような大きさか。深さも、俺の背丈をゆうに超えている。


「な、何が、おきたんですか」


 俺が穴から這い上がった頃にビビアナの声が聞こえた。


 彼女は遠くまでとばされていたが、俺の近くにもどってきたようだ。


「突然、ものすごい風に吹き飛ばされました、けど……」


 ビビアナも、俺の後ろに開いた巨大な穴に言葉をうしなう。


「すまない。少々、力の加減をまちがえたようだ」

「力を……?」

「うむ。どのくらいまで潜在力を出せるのか、ためしてみたのだが、俺の予想よりも大きな力が出せたようだ」


 ビビアナが穴にそっと近づいて、底をおそるおそる見下ろした。


「これ……ドラスレさまが、空けたんですか」

「そうだな。こんなに大きな力を出せるとは、思っていなかったが」

「大きいっていう度合いなんですかっ。巨人だって、こんな力、出せませんよ」


 むかしから力は強い方だと思っていたが、これほどの力が眠っていたとは……。


 ふさがっていた肩やわき腹の傷が開いたか――。


「ぐうっ」

「ドラスレさま!」


 ヒザをつく俺の身体を、ビビアナが支えてくれた。


「だいじょうぶですかっ」

「だいじょうぶ、だ。だが、まだ本調子ではないかもしれない」

「あたり前です! あなたは、まだ病み上がりなんですよっ」


 この力を何度も使うのは、危険か。


「く、くそ……。どうなってるんだ」


 ルーベンも、生きていたか。


 彼は槌をまたどこかに落としたのか。手には何も持っていない。


 全身は砂ぼこりで汚れ、頭から血を流しているようだった。


「うお!? なんだ、これ。なんで、こんなとこに穴が開いてんだよっ」


 ルーベンも俺が開けた穴をおそるおそる見下ろして、顔を青くした。


「これが、俺の力だ。それより、頭の傷は平気なのか?」

「あ、ああ。こんなの、傷のうちにゃ入らねぇ……て! 敵に声なんかかけんじゃねぇよ」


 やはり、この男を憎む気持ちにはなれないな。


「俺にはどうやら、預言士の血が流れているようだ。預言士は、知っているか? 預言石に、潜在力を引き出す力を注入したと言われる古代の一族だ」

「よ、預言士だと? そんなの、知らねぇぞ」


 預言士のことをヒルデブランドから知らされていないのか。


「ならば、お前の主であるヒルデブランドから聞くのだな。預言士も、預言石とおなじように、潜在力を引き出す能力をもっている。俺は、ヒルデブランドとおなじく預言士の末裔なのだそうだ」

「だから、なんだっつうんだよ」

「ようするに、ヒルデブランドとおなじように絶大な力をもっているということだ。これでも、お前は俺と戦うか?」


 ルーベンは青い顔で、穴の向こう岸から俺を見ている。


「お、お、俺はっ、みとめねぇからな!」

「そうか」

「あ、あんたが、どんな力を持っていようが、俺たちの敵だ。あんたを殺すまで、俺たちは何度もあんたをつけ狙うからな。お、お、おぼえとけ!」


 ルーベンは小犬のように、尻尾をまいて逃げていった。


「んもう、なんなんですかっ、あの人!」


 ビビアナが聞き分けの悪い弟を見る姉のように怒った。


「そう言うな。男には、ああやって素直に聞き入れられない場面があるのだ」

「そんなこと言いますけど、そんな場面のせいで何度も襲われたくないですよっ」


 ビビアナの言うことも、もっともだ。


「まずいな。脇腹の傷がまた開いてしまった」

「ええっ、だいじょうぶですか!」


 ビビアナがすぐに傷薬をポケットからとり出して、俺に塗ってくれる。


 傷薬が開いた傷にしみる。ルーベンが素直に立ち去ってくれて、よかった。


「ほかの者たちは、無事か?」

「わかりません。戦いがはじまってすぐに、みなさん、吹き飛ばされてしまいましたから」


 まわりで戦っている者たちにも、もう少し配慮しなければ。


「すまない。迷惑をかけた」

「い、いいえ! おかげさまで、戦いがすぐにおわりましたからっ」

「そうか。それならば、よかった」


 傷がふさがるまで、ここで足を止めていこう。


「これだけ大きな力を見せたのだ。オドアケルの連中も、追撃を少しは躊躇するだろう」

「そう、ですね。こんな力を受けたら……」


 ビビアナがまた穴の底を見やって、「ひぃっ」と声をあげた。


「ドラスレさまって、やっぱりすごいお方だったんですね」

「力だけは、ほかの者よりもあるかもしれないな」

「その、ドラゴンを倒されたんですよね。ドラゴンと戦ったときも、こんな感じだったんですか?」


 ビビアナが言っているのは、ヴァールとの戦いのことか。


「そうだな。よくおぼえていないが、ヴァールとの戦いも今以上に壮絶だった気がする」

「ヴァ、ヴァール?」

「ヴァールはアルビオネの魔王だ。かつてヴァレンツァに襲来し、俺と戦った者だ」


 ヴァールと戦ったときも、今のように潜在力を引き出しながら戦っていたように思える。


 あのときは潜在力なんて意識していなかったが、この力があったからこそ、俺はあの強大な力を持つヴァールを倒すことができたのだ。


「よくわかりませんけど、すごい戦いだったんですね」

「そうだな。ヴァールは、ヴァレダ・アレシアの長い歴史をもってしても、一度もあらわれたことがなかった魔王だろう。あのときは、俺にわずかばかり運があったが、もう一度戦ったら、俺はヴァールに勝てないかもしれない」

「そ、そんな、お人だったんですか」

「そうだな。また戦ってみたいとは思うが……そろそろ、いいか」


 ビビアナに支えられながら、立ち上がる。傷は、なんとかふさがってくれた。


「疲れているが、ここをはなれよう。カゼンツァに着くまで、しっかり休んで力をやしなわねばならん」

「は、はいっ。わかりました!」


 ビビアナの元気な声が耳にひびく。


 この子は、可憐な見た目に反してタフなのだな。それも、良いところか。


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