第5話 新たな扉
翌朝目覚めた俺は、全身の筋肉痛と、激しい頭痛に襲われていた。
部活動以来の疲労感だったが、スポーツ後のそれとは違って爽快感とは真逆の気持ちの悪さに、起き上がることもままならず、ベッドに横たわったまま昨日の出来事を振り返っていた。
まさか自分にあんな力があったなんて・・・・・・
一体何のために・・・・・・
少し前までは、取引先やノルマと戦うだけの中年だったんだぞ。
こんな力を植え付けられて、一体俺に何をさせたいんだろう。
俺のこの能力は、何かを成し遂げるためにあるんじゃないのか?
終了したはずの自分の人生に意味があるんじゃないか。
考えてみたものの、何一つわからない。
だが、これから新たな生活が始まるような期待感と胸騒ぎに、俺の心は踊っていた。
初めての感情が胸を支配していた。
ピンポーン
そんなときベルが鳴った。
安っぽいベルの音、まあ築40年のアパートだ。誂え向きだと言っておこう。
ドアの向こうに居る来客の正体を俺は知っていた。
いや、来客だなんて言葉は勿体ない。
・・・・・・来たか、へらへら王子め。
割れそうな頭を抱えて開けたドアの先には芳田が居た。
「具合はどうですか? 起き上がれたんですねー。すごいじゃないですか。」
「頭が破裂しそうなんだよ! ろくでもないな。魔力ってのは!」
「まあまあ。元気そうでなによりですよ。上がっても?」
俺は芳田を部屋の中へ誘導した。
その時、芳田の後ろに少女が一人付いてきたことに気が付く。
少女は井上の顔を見上げると、大きな丸い目を瞑ってニコッと微笑んだ。
「お世話係のだよ! 宜しくねー!」
少女は、遠慮もなしに部屋の中へと駆けて行った。
「よ、よろしく・・・・・・て、おい!」
「やー! こわーい!」
そうはにかんで言うと、室内に逃げていく。
「彼女は井上さんの身の回りのお世話をしてくれる、うちの教団の信者の一人です。まだ未成年だから変なことはしないでくださいよ~。教祖さま。」
「新しい教祖さまっ、あたしはミキっていうんだよ。どうぞよろしくお願します!」
そうだ忘れていた。
俺は教祖になったんだ。
完全に成り行きで言いくるめられてしまった。
しかしだ、教祖って何すりゃいいんだ?
『魔力量が多い奴が教祖になる』
そう言ってたけど、肝心の仕事内容がわかんねー。
時給いくら?
交通費は?
残業は嫌だぞ!
「もー!教祖さま!聞いてるのー?」
ミキと名乗る少女は、ほっぺをめいっぱい膨らませて言った。
か、かわいいかも・・・・・・。
「い、井上さん。聞こえてますよ・・・・・・僕のスキル、忘れてないですよね・・・・・・」
「読んでんじゃねえよ!!!」
振りかぶった右の掌はあっけなく躱されて、狭い部屋で一人つまづいて転んだ。
「あがっっ」
「教祖さまダッサーい」
「うるせー! ガキんちょ!」
俺はミキを追い回した。
ミキを追い回すうちにだんだんと楽しくなっていく自分に若干の背徳感を覚えたが、次第に興奮に変わっていくさまは、なんとも言い難い悦びを感じるのだった。
性癖に刺さるとはこういうことを言うのか・・・・・・
ゴクリ。
俺は新たな扉を開いた気がした・・・・・・!
「はいはい。さあ出かけますよ井上さん」
「え?どこに?」
俺は振り返った。
「どこにって、教団本部に決まってるでしょ」
そうか。これから俺は教団本部に行くのか。
新たな生活の始まり。
きっと充実の毎日にして見せる!
ボロアパートの玄関のドアが、いつもより軽く感じた。
頭痛はいつの間にか消えていた。
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作者 手塚ブラボー より