第30話 新入生ガルボの恋 ガルボと天使ちゃん 2
生きてる・・・・・・!テレサちゃんは生きてる・・・・・・!
でもどうやって?あの状況で生き残れるだなんて考えられない。
魔人とレッドドラゴンに太刀打ちできる魔族なんていない。
それもあんなに怯え切っていた二人が、戦って勝利したとは到底思えなかった。
『テレサとアスカ、弱い。だけど黒の魔人帰った』
帰った???
どういうことだ?
魔人の目的は僕を殺すことだったってこと?
そんな、まさか。
そんなのあり得ない。
だけどもし本当にそうだとしたら・・・・・・。
奴の、黒の魔人の目的は!?
『分からない。ガルボ殺しに来た。それは間違いない』
やはりそうか。
僕のせいで学内の罪のない犠牲者が・・・・・・。
セポイ教官・・・・・・。
黒の魔人は僕を殺した後、学校と周辺の土地を魔力で汚染した。
今は生き物の住めない土地になっているらしい。
魔人は帰る間際、目の前のテレサちゃんたち二人に忘却魔法をかけた。
そうして記憶を消し、転移魔法でどこかの大陸に適当に飛ばした。
適当にだ。
・・・・・・奴はなぜ僕を殺しに来たの?
『分からない。ただ、ガルボ特別。』
特別?よく分からないよ! たしかにこの状況は特別なのかもしれない! 君は何者なの?僕はこれからどうなるの?
混乱するガルボに対して目の前の少女は驚くべき言葉を投げかけるのだった。
『ガルボ。黒の魔人。倒せ』
倒せ??
無理だよ!!
あいつ異常だ!! ただの魔族が太刀打ちできるわけが無いんだ!!
それに僕はもう死んだ!
これはどうしようもない事実なんだ!
『元の世界、戻してやる。ガルボ戦う』
一度死んでいるのに生き返るだと?
そんな話聞いたことが無い。
だけれど生き返ったらテレサちゃんに会える!
そう考えると嬉しくなった。
しかし、この『導く者』という女の子は何者なのだろうか。
尋ねても教えてはくれなかった。
まるで”教えてはいけない”。そう強制されているかのような反応だった。
この女の子は何かに縛られている。
そんな雰囲気を僕は感じ取った。
女の子は、自身の使命をひた隠しにしている。
時折見せる悲しそうな表情。
何かを懇願するような表情がガルボの脳裏に焼き付いた。
『ガルボ。生き返るわけではない』
どういうこと?
『ガルボ、死霊として存在する。使命は魔王の復活』
魔王の復活?
魔王と言えば、かの英雄である魔王アルスが思い浮かぶ。
魔族のみならず人族や他の種族からも信頼された伝説の王。
白の勇者の襲撃。
アルス王の復活。
そのために僕ができる事?
『ガルボ。死霊として存命せよ。ただし、テレサを探すな』
え?それはどうして!?
テレサを探すな。それじゃあ生きてる意味が無いじゃないか。
僕は生き返って彼女のそばに居たい。彼女もそう望んでいるはずだ!!
『テレサ、変わった・・・・・・。ガルボ、見ても気が付かない。月日が変えた』
月日?僕が死んで月日が経ったのか。
それは一体どのくらいなのだろうか。
『厳密には分からない。ただ、魔族の感覚にして、約10年と言われる期間。』
10年。
それが僕が一瞬にして過ごした時間。
僕は10年後のテレサを想像した。
彼女は幸せになっているだろうか。
10年前の恋人が急に現れたところで・・・・・・彼女に何を期待しているのだろうか。
『テレサに伴侶がいたら? ガルボどうする気。 身勝手な感情』
きつくそう言い捨てると、導く者は暫く黙っていた。
ガルボは考えを巡らせていた。
自身に訪れた災厄、それに伴った死。
そして大切な恋人との別れ。
不条理なこの世界。
僕は一体何のために生まれたんだろう。
黒の魔人を倒せだと・・・・・・。
・・・・・・使命。
魔王復活の使命。
それを遂げた時僕はどうなるのだろうか。
導く者は黙っている。
・・・・・・どうすれば倒せるんだ?
導く者はガルボの瞳を覗き込んだ。
さっきとは異なる光がそこには宿っている。
今まで出会ってきた生物たちの覚悟の光。
生きようとする決心の輝き。
『特別な力、与える』
特別な力で魔王を復活させ、黒の魔人を倒せ。
そういう事らしい。
突然ガルボは白い光に包まれた。
そして、新たな力を受け現世に蘇るのであった。
与えられた能力は『心眼』。
心の音を聞く力。
ガルボは復活を遂げた。
それから長い年月が経った。
ガルボは魔王軍参謀へと成りあがることになる。
魔王復活と、黒の魔人の撲滅を心に誓って。
すべて終わった時、その時はテレサちゃん、
「君を探しにいくよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よーしーださんっ」
ミキの声が聞こえた。
僕は周囲を見渡したが誰の姿も無かった。
ここは僕の仕事場。
小さな部屋には机が一つ。
応接用のソファセットがあり、そのほかには何もない。
殺風景な部屋で唯一目を引くのが壁に掛けられた世界地図。
僕は一人でいるときそれを眺める。
遠くにいるはずの誰かに思いを馳せているように。
バン!!!
ドアが急に開かれた。
そこには手作りの大きなケーキを持ったミキの姿があった。
クッキーで作られたプレートに『お誕生日おめでとう』の文字。
甘い匂いが部屋に充満した。
ニコニコと輝く笑顔のミキの背後には幹部たち面々、そして居心地の悪そうな井上が立っていた。
せーの、
「芳田さん!誕生日おめでとう!!」
鼓膜が破れるか思うほどの大声。
ずかずかと踏み込んでくる仲間たち。
「あれー?芳田さんひょっとして甘い物苦手でした?」
甘い物・・・・・・。
僕は少しだけ涙ぐんで答えた。
「・・・・・・好きですよっ」
「うっわ!芳田、お前泣いてんじゃねえよ」
無神経な井上が笑う。
ソファセットに腰かけた面々は勝手にケーキを切り分けて騒ぎ始めたのだった。
みんなの笑顔を見ていると救われた気がした。
「ベリーもーらいっ」
まったく子供ばかりなんだから。
「ちょっと! 僕の分残しておいてくださいよ!」
導く者。
今の僕ならできそうです。
いや、彼らと一緒なら。
《 大魔族士官学校篇 完 》
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作者 手塚ブラボー より