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第27話 新入生ガルボの恋 7

 校門へ駆ける三人を待ち受けていたのは校内の悲惨な状況だった。


 幸い休暇中であったためか学生の数は少なく、人気はいつもとは比べ物にならないほど僅小であった。

 それを幸運ととらえるべきかは精神的混乱に陥った三人には判断しがたい。

 だが今は無事である自身たちの生存を最優先にただひたすら逃げる!

 そこかしこに倒れている人々に気を取れられたテレサは無意識に足を止めようとするが、僕はつないだ手を離すことなく前へと進む。


 僕は理解した。

 その者達はもう手遅れであるという事を。


 アスカは必死に校門を目指す中でテレサを羨んでいた。


 ガルボはまさに白馬の王子。

 対するテレサはお姫様。

 そして私はただの召使い。


 テレサは何もかもを持っている・・・・・・。


 先頭を走る僕の手に力が入っているのをテレサちゃんは感じていた。

 僕の目線の先にはセポイ教官の変わり果てた姿があった。

「何があったんですか教官!!」

 セポイ教官は答えない。

「あなたほどの達人が・・・・・・!」

 途端に恐ろしくなる。

 さっき出会った男の姿はない。

 しかし男は言った。


『ニガサナイヨ』と。


 奴は瞬間的に移動できる能力を持っている。

 僕たちがいくら逃げまどっていても無駄なのかもしれない。

 だけど。

 僕は諦めるわけにはいかない!

 僕の命は、僕だけの命ではなくなったのだ!


「テレサちゃん。聞いてほしいことがあるんだ。」

 僕が意味深に放ったこの一言にテレサちゃんは胸騒ぎを禁じ得ない。

「僕は君の助けになりたい。君を脅かすすべての障害を取り除く(すべ)になりたい! よく聞いてほしい。あの日あの朝いつもの食堂で君を見かけたとき僕は生まれ変わった。空っぽだった心の中に君は入ってきて満たしていった。それがどんなに素晴らしいことだったか。テレサちゃん、君は想像できるかい?」


 テレサは悔しくなる。


 その言葉のすべてはテレサが考えていたことそのまま。

 彼女が彼にいつか伝えたかった事。


 でも今じゃない。


 これを別れの言葉にはさせない。


 あなたの事を愛しています。



 いよいよ校門に差し掛かったそのとき三人に戦慄が走る。

 目前に迫った校門のそばにローブの男が待ち構えていた!

 男は両手に生首を掴んでいた。

 ガルボはテレサとアスカの目を覆う。

 しかし、男に慈悲は無い。

 両の手の生首を空に放るとある呪文を小さく唱えた。

 聞き取れないそれに困惑する三人。


 その瞬間、赤黒い生首は膨張して破裂した。

 それは、血しぶきと内容物をまき散らしながらもみるみるうちに巨大な影となる。

 舞い散った鮮血は空に丸く意味のある模様を形成する。

 それらは重なり合いながらも複雑に魔法陣を(かたど)っていく。

 テレサとアスカはその魔法陣が何を意味するのかを知っていた。


『ドラゴン!!!!!』


 二人が気付いたのと同時にローブの男は天を仰いで叫んでいた。

 空中に浮かんでいた黒い影の塊は禍々しい魔力を発生させ辺り一面に雷鳴を轟かせる。

「まずい!!こっちへ!!」

 雷と嵐の中、僕は二人に覆いかぶさった。

 吹き荒れる嵐は草木を巻き上げ、周辺の天候を変える程の影響を及ぼす。


「ギィィィィィィィィィィッッッ!!!」


 時空を引き裂いたかのような金切り声が響く。

 それはさながら世界中の不条理をかき集めたかのように暴力的であった。

 今や空中に広がる巨大な影から大きな何かが伸びている。

 それが生物の爪であることを理解するのにそれほどの時間を要さなかった。

 だがあまりにも巨大なそれは、ある巨大召喚獣の一端であるという事実に三人は恐怖することしかできない。


「グオオォォォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!」


 空間が割れる程の咆哮に耳を塞ぐ。

 強靭さを隠すことのない巨大な手、張り詰めた胸、鱗立った背中、大きな金色の瞳。


 褐色のレッドドラゴンが姿を現した。

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                 作者 手塚ブラボー より

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