第11話 大きな穴
『教祖』
・・・・・・ある宗教・宗派を開いた人。(Google調べ)
「おい芳田、俺は何かの宗教を開くのか?」
今更ながらこんな質問をなげかける。
そもそも何の信念も無い男が一体何を説こうというのだ。
俺は、というかうちは代々無信教(厳密には浄土真宗)だし特に神も仏も信じちゃいない。
ごく普通にクリスマスは迎えるし、お正月は初詣にだって行くけどな。
ただ深い意味合いなんか考えたこともないし、ちゃんとした戒律?流儀?そんなのも知らない。
ほとんどの国民がそうであるように、ただのイベントごとでしかない。
仮に神様だの仏様だのがいたとしても信用はしないね。
助けてくれねーし。
魔力が備わったわけだし、魔王とか悪魔とかそんなのは居るのかもな。
現実味はまだないけど。
「何の心配も要りませんよ。『教祖』なんて名ばかりですから。我々のように大所帯になってくると実態を隠蔽するのは難しくって困るんですよ。だからあえて体裁を取って宗教団体として存在させているんです。よって団体は単にここでのカモフラージュでしかありません。」
SUVの運転席から芳田が答えた。
助手席のミキはうんうんと頷いている。
「ここでのカモフラージュ?」
ここでの?ほかにどこがある。外国か?
「ええ。ここでの。そして今から向かうのがここでは無いところですよ。」
いやに含みのある言い方だな。
それよりも気になるのは魔力のことだ。
芳田は魔力についての解説を始めた。
「以前に、何かのきっかけで覚醒すると伝えましたよね? 恐らく、井上さんの心的ストレスによって閉ざされていた魔力の蓋がこじ開けられたことになります。それから、われわれの組織は強力な魔力を手掛かりに井上さんを見つけ出したんです。魔力はもともとあなたの体に潜在されていたもので、電気的信号を基本としています。『ライトニング』を披露したのもイメージをつけやすくする為です。『ライトニング』の原理としては、体内に流れる電流を増幅させて放った、といった感じでしょうか。ほかにも炎の『バーニング』、水の『ウォーター』、氷の『アイス』などの初級魔法があります。空気中の元素に電気信号で干渉して化学反応を呼び起こすのが基本的な考え方です。呼び名は、まあ、なんていうか・・・・・・そのまんまですけど。」
助手席のミキはうんうんと頷いている。
漫画かゲームの世界だな。
そうこうしているうちに、車はどんどん森の中へ突き進んでいった。
しばらくすると道路は砂利道に変わり、無舗装になった。
それでもSUVは悪路など物ともせず突き進む。
標高が上がり緑は青々とし、ミズナラや白樺の木が目だってくると、芳田は林内に停車した。
「ここからは徒歩で行きましょう。」
ミキはピクニックにでも向かうかのように楽しげだが、歩きなれない山道に俺は額の汗を袖で拭った。
おじさん疲れちゃった。
「着きましたよ。」
そこには山肌に空いた大きな穴があるだけだった。
「穴じゃん。」
「穴ですよ。」
「おっきい穴だよっ。」
おっきいとか穴とか言わないの、はしたないっ!
「入りましょう。」
芳田とミキは飛び込むように真っ暗い穴の中に突き進んでいった。
「待ってくれよー!」
俺は得体のしれない深い闇の中へ二人を追いかけた。
一瞬強い光を浴び井上は目を閉じた。
「!!!」
恐る恐る目を開けると、石畳の上に立っているのに気づく。
石畳には赤い塗料で、風変わりな、見たこともない模様が施され、残留した魔力が青白く鈍く光っている。
顔をあげるとそこには5人の人影がこちらに向かって膝まずくように並んでいる。
皆一様に同じローブを纏い、それぞれに奇妙ないで立ちをしている。
馬の顔の被り物をしている者、白目をむいたカラーコンタクトをつけた美女、逆に黒目しか見えない大男、ほかにもよくわからん奴ら。
なかなか工夫された歓迎だなー。
会社員時代の忘年会の余興を思い出す。
しかしよくできてるなー。
作り物には到底見えん。
その中の一人の馬頭が口を開いた。
「お待ちしておりました。新たなる我らが主。新世界の魔王様!!」
「んんん?」
俺は芳田を探した。
芳田とミキは並んで拍手をしていた。
パチパチと。
二人はとてもいい笑顔をしていた。
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作者 手塚ブラボー より