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第5話『抹茶フォンダンショコラ』①

お待たせ致しましたー

 パニックになりかけたが、本来の目的を忘れそうになったので……真穂(まほ)は咳払いをしてから、海峰斗(みほと)の腕を掴んだ。



「……まほちゃん?」

「ミホ。ちゃんと話せる場所に行くわ。ついて来てくれる??」

「うん?」



 だが、微かな妖気をまとう以外に能力が開花してないであろう海峰斗の手を離すわけにはいかない。パッと見親子とか親戚の関係に見られるかもしれないが、下手に人化しておくと真穂よりも海峰斗に危険が迫る可能性が高い。見目も良く、妖気も交えた海峰斗が悪どいあやかしに連れて行かれないとも言い切れないから。


 だから真穂は、本来の座敷童子の姿でいるわけである。海峰斗も最初は真穂との身長差に足がもつれそうだったが、今はゆっくりとついてきてくれていた。



「ここよ」



 真穂が連れてきた場所は、季伯(きはく)が営む喫茶『かごめ』であった。客は今の時間帯だと誰もいないのか席はがらんとしていた。


 中に入るように促すと、店内は香ばしいコーヒーの香りが漂っていた。



「凄い……いい香り」



 海峰斗も興味を持ってくれたようで、ひとまず息を吐けた。



「いらっしゃいませ。真穂さん……とお客様は初めてですね??」



 季伯がいたので、真穂は海峰斗の腕を引いてから奥のソファ席へと彼を連れて行く。



「季伯、真穂にはいつもの。この子にはスペシャルブレンド」

「かしこまりました」

「え、まほちゃん??」

「話を聞いてもらうんだから、これくらい奢るわ」

「奢るわ……って、あ、そか。子供でも子供じゃないもんね?」

「そうよ? 真穂は座敷童子。さっきのマスターも真穂の兄弟の子孫よ?」

「え」



 驚きまくっているが、ここからが本題なのでソファ席に到着したら、真穂達は向かい合わせに座った。海峰斗が少し店内を眺めていたが、やがて真穂をきちんと見てくれた。



「……思った以上に驚かないのね??」



 多少のはしゃぎっぷりはあっても、海峰斗はほとんどいつも通りだった。それに、真穂の正体を半分以上は見抜けていた慧眼の持ち主。妹の美兎(みう)にはほとんど見受けられなかったのに。


 真穂が聞くと、海峰斗は首を左右に振った。



「いや、結構驚いてはいるよ? 今も夢じゃないかって」

「残念ながら、夢じゃないわ。ここは、あやかし達……ミホにわかりやすく言うと妖怪が住まう異世界。真穂も……さっきも言ったけど、座敷童子ってあやかしなのよ」

「座敷童子って、あの有名な?」

「そう。昔……あんたや美兎に近づいたのは、別の理由だけど」

「けど。まほちゃん、なんだ?」

「まさか、あんたが今でも覚えているのは予想外よ?」

「覚えているさ」



 力強い言葉。


 人間なのに、その力強い言葉に、真穂は海峰斗から目を離せなくなってしまった。だが、その空気を壊したのは季伯で、真穂のホットカフェラテなどと一緒に……抹茶のフォンダンショコラを持って来てくれた。



「お話中、申し訳ありませんでした。ごゆっくり」



 その後、海峰斗は顔を赤くしながら黙っていたが……やがて、真剣な表情になって顔を上げてくれた。



「俺の……初恋の女の子を忘れるわけがないよ?」

「は?」



 流石にその言葉は予想していなかったので、間抜けた返事をしてしまったが。海峰斗には苦笑いされただけだった。



「嘘じゃないよ? 今も……」



 嘘だ、と返事をしようとしたら海峰斗に先読みされてしまった。



「大人の姿の『(さかき)さん』もだったけど、まほちゃんのことも好きだよ」



 その真っ直ぐな言葉に、真穂は心臓を鷲掴みされたような感覚になり……ソファ席じゃなかったらひっくり返りそうになった。代わりに、ずるずるとずり落ちたが。



「え、まほちゃん!?」

「ごめ……こっちが驚いて」

「……驚いた、だけ?」

「…………それ以上よ。わかるでしょ?」

「……ふふ。俺、自惚れてもいいのかな?」

「…………ばか」



 かっこ悪い告白の展開になってしまったが、悪くないとも思う真穂だった。

次回は火曜日〜

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