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第1話 猫人の家①

お待たせ致しましたー


 名古屋中区にある(さかえ)駅から程近いところにある(にしき)町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三(きんさん)とも呼ばれている夜の町。


 東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。


 そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。


 あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。


 小料理屋『楽庵(らくあん)』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。








 何処へと行くのだろうか。


 そう言いたくても、掴まれている手の……人間とは違う猫の手の熱さに、美兎(みう)はただただ胸がドキドキしてしまうのだ。ぬらりひょんの間半(まなか)に言われたせいもあるだろうが、猫人の火坑(かきょう)は無言で美兎を何処かへと連れていく。


 ただ、急ぎ過ぎず美兎の足が追いつかない速度で歩いてくれるのが……このあやかしなりの気遣いなんだな、と、ときめいてしまうのだ。そして、到着した場所は楽庵ではなく。



(え……火坑さんのお家!?)



 一度だけだが、真穂(まほ)と契約した時に使われたあのマンション。あやかし達の住まいである一角に連れて来られたのだった。



「……行きましょう」



 振り返らずに、それだけを告げた火坑はオートロックを片手で解除してから美兎の手を引いて、エレベーターに乗った。


 美兎はどう会話していいのかわからず、久しぶりに訪れる想い人の住まいに来ることが出来たのに……緊張しないわけがないし、ときめかないわけがない。


 猫の手だと汗をかかないのか、火坑の手はただただ熱かった。


 そして、人生二度目の訪問となった今回。


 また片手でロックなどを解除すると思いきや、火坑は美兎の手をあっさりと離して……扉を開けていった。その時の寂しさが、心にまで響いていく。


 間半に言われたとは言え、なんて浅ましい想いを抱いているのだろうか。そんな都合のいいことだなんてないのに。拓哉のことで、期待し過ぎるのを諦めたのに……火坑は全然違う存在だからと、いつのまにか期待してしまっていた。



「どうぞ」



 入るように促されたので、美兎はハッとしてから軽くお辞儀をして玄関へと入らせてもらった。『お邪魔します』と告げ、火坑以外誰もいない空間は初めてだから、緊張感が高まっていく。


 出会ったばかりの頃は、こんな気持ちにならなかったのに……この一年近くで、彼に胃袋もだが心臓も掴まれたせいか。だが、決して不快ではない。


 靴を脱いでから、リビングに行くように促され、先に行くと大きめのこたつがリビングの大半を占めていた。



「結構寒がりなんですよ、僕」



 美兎が突っ立っていると、後ろから来た火坑が照れ臭い声音でそう言った。



「猫……だから、ですか?」



 口に出来た言葉は、あとから思うと失礼な言葉だと気づいたのに。振り返った時に見えた猫の顔には、やはり照れ臭そうでしかなかった。



「それもありますね? スイッチ入れるとすぐに温まりますので、入ってください」



 美兎の失言を気にしていないのか、火坑はいつも通りに見えた。

次回は日曜日〜

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