第1話『色々おでん』①
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名古屋中区にある栄駅から程近いところにある錦町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三とも呼ばれている夜の町。
東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。
そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。
あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。
小料理屋『楽庵』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。
クリスマス当日は、半分が災難。半分が嬉しい出来事ではあったけれど。
金曜日の今日、美兎はうきうきしていた。クリスマスではダメになってしまったが、座敷童子の真穂の提案で……錦の界隈で開催されるクリスマスのイルミネーションイベントに行くことには決まった。
猫人であり、今の美兎が想いを寄せている火坑と。あの時の体調はもう万全。元彼へのトラウマについても火坑の料理で落ち着くことが出来た。ならば、仕事にも復帰出来た今は、そのお出掛けに向けて頑張るしかない。
断固として、デートではないと自分に言い聞かせて。真穂も一緒だから、そもそもデートではないのだからだ。
定時過ぎに上がることが出来た美兎は、雪はもうないがビル街特有の突き刺すような風に耐えながら……丸の内から久屋大通。次に栄へとゆっくり足を進めて行く。
イルミネーションイベントの時間は午後の九時以降らしく、先に火坑が腹ごしらえをするのに料理を準備しておくと言ってくれたのだ。なので、今日は実質美兎と真穂が楽庵を貸し切り。
体調は戻ったので、前回とは違って心の欠片を手渡せる。前回のお礼も兼ねてたくさん渡したいところだが、美兎の心の欠片は至高の品らしく売り上げに大きく貢献出来ているらしい。
だからか、渡し過ぎも良くないと真穂には注意されているのだ。とりあえず、界隈の入り口を抜けていくと……二日前にクリスマスは終わったと言うのに、界隈にはまだイルミネーションの装飾などが残ったままだった。
美兎も簡単に話を聞いただけだが、今日のイベントのためかもしれない。
あやかし、つまり妖怪達のイベントは人間を模倣した事から始まっているそうだが、どんなイベントになるのか興味はある。あやかし達だから、きっとあの魔法のような妖術を使うかもしれない、と。
そうすると、ファンタジー感満載のイベントになるのなら。
火坑と見に行くだけでも、きっと楽しい。寒いのに自然とスキップになり、楽庵まであっという間に到着した。着いた時に、影から出てきた真穂には少し呆れられたが。
「その勢いで、大将に告白でもしなさいよ?」
「……無理」
それとこれとは別だと、首を横に振れば真穂にはさらに呆れたとため息を吐かれた。
とりあえず、中に入るとお出汁のいい香りが店内に充満していたのだった。
「いらっしゃいませ」
カウンターから、火坑がひょこっと顔を出してくれた。その表情はとても生き生きとしている感じである。
「たーいしょ! 今日のご飯はなーに?」
「クリスマスは終わりましたが、冬はまだまだ続きますからね? なので、おでんです」
「おでん!?」
「わーい!!」
ただ、大嫌いなこんにゃくが入っているかと思うと少し憂鬱になってしまう美兎である。
次回はまた明日〜




