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第5話『クリームシチューでドリア』②

お待たせ致しましたー

 洋風の出汁の香りに加えて、クリーミーな牛乳のような香りが楽庵(らくあん)の店内に広がっている。


 それと、昼間にこの店に来たのも随分と久しぶりなので不思議な感じでいた。前は、吸血鬼のジェイクへの差し入れの時だったか。彼とも冬に近づいてからは、この店では会っていない。大須(おおす)の方にもプライベートでも仕事でも最近は行けていないからだ。


 美兎(みう)はキリキリとした冷えが強い名古屋の寒空には、ありがたいくらい温かな空間に居られるのが心地良かった。それと、その空間を提供してくれたのが……想いを寄せている相手の店なら尚更。


 熱いくらいのおしぼりで手を清めてから、先に火坑(かきょう)が出してくれた、これまた熱めのほうじ茶で体を温めた。ここに来ると梅酒のお湯割りを飲みたくなるが、今日は我慢だ。美兎の体調を気遣って、の食事なのと昼間から飲むわけにはいかない。



「お待たせ致しました。特製のクリームシチューです」



 温め直していたのか、いつものお通しもなくてすぐに出てきた。


 洋物の器もあるこの店では、シチュー用の深皿もきちんとある。洋食のレストランとかとは違うが、綺麗な陶器の器にはゴロゴロと野菜に鶏肉が見えたり隠れたりしている。


 クリームシチューにはキノコがあったりなかったりしているが、火坑は美兎の好き嫌いを知っているので入っているようには見えない。一緒に渡された木製のスプーンを使い、シチューをすくう。


 とろとろと、美兎の好みのとろみ具合に期待が高まっていく。息を何度か吹きかけてから、一緒にすくい上げたじゃがいもを口に運んだ。



「ふぉふ!?」



 そこそこ冷ましたつもりでも、じゃがいもの芯の部分にはまだ熱がこもっていたようだ。少しの間、はふはふしていたが……熱さに慣れた頃には、その熱さが逆に堪らなくなって、次は肉、次はにんじんとスプーンを動かす手が止まらない。


 シチューの部分はとてもクリーミーで、母親の味よりも手製で作ったとわかるルゥの部分が堪らない。一度、母親と小麦粉とバターを使ったクリームシチュー作りに挑戦したが、あれは見事に失敗した。


 初心者には無理があったのもあるが、市販のルゥよりも優しい味わいのこのシチューは、火坑の料理人としての腕前が見事に現れている。ぱくぱくと食べ進めていると、隣にいる座敷童子の真穂(まほ)らからはくすくすと笑われた。



「そんな勢いで食べれるんなら大丈夫そうね?」

「そのようだね?」

「あ……」



 まるで子供のようながっつきを他人に見せてしまい、さすがに恥ずかしくなってきた。そして、空になった皿を見ると……いかに自分が火坑の料理に夢中になっていたのかよくわかった。



「ふふ。お腹の勢いが目覚めたのなら、良かったです。でしたら……次は、このシチューを使ってドリアなどはいかがでしょう?」

「さーんせい!!」



 美兎が驚きの声を上げる前に、真穂が飛び上がった。彼女は今は元の子供の姿でいるので、本当に子供のはしゃぎ様にしか見えない。



「? シチューとドリアは別物。であるのに、米とシチューを組み合わせるのかな?」

「ええ、ブラックさん。人間達はあまりものを活かす料理の手法を持っているのです。シチューが中途半端に余ると味付けしたご飯などにかけて、チーズと一緒に焼き込むんですよ」

「なるほど、興味深い」

「準備はほとんど出来ているので、すぐに焼きますね?」



 カウンターから見ていると、火坑は耐熱の器にケチャップライスの上にシチューをかけて……さらに山盛りのとりけるチーズを載せて。黒い金属の皿に乗せたら……後ろにあるオーブンのような箱に入れて焼いて行った。


 焼くのに時間がかかると思っていたが、タイマーを使った妖術を使うようで、美兎らの目の前で数秒立つと音が鳴り響いたのだった。


 そして、店内にはチーズの香ばしい匂いに加えてシチューの温かな香りもしてきた。



「ほぅ……悪くない香りだね?」



 ブラックサンタクロースは、界隈に戻ってくるとまた黒いサンタクロースの服を着ているが……慣れてくると可愛く見えた。けれど、赤いサンタクロースも昨夜見てしまったとは言え、二人はどう違うのか。真穂らに聞いたけれど、実感が沸かない。



「さ、熱いですので器にはあまり触らないでください」



 火坑が三人の前に、出来立てのドリアをひとりずつ置いてくれたので。その出来栄えに、美兎はついさっき考えていた事が彼方にまで飛んで行ってしまったのだった。

次回はまた明日〜

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