第4話『クリームシチューでドリア』①
お待たせ致しましたー
火坑に連れられ、彼の店である楽庵の二階にある河童の水藻の『水端診療所』にゆっくり……けど、急いで手を引かれて行く。
好きな相手に手を握られるだなんて思わなかったが、肉球のない手は猫のような毛に覆われているせいか温かかった。
そして、水藻に診察してもらうと。
「精神的なストレスによる、一時的な過呼吸ですね?」
火坑の前で、元彼の事を話すのは正直言って苦痛でしかなかった。しかし、あんな症状は二度と起こしたくないので、水藻にもきちんと話した。ブラックサンタクロースと真穂は美兎が話し終えた後にやってきた。
「……先程、美兎さんが話していただいた昔の恋人が原因でですか?」
「ええ。我々あやかしでもありますが、人間は短命ですから特に……好きでも嫌いでも相手の事に固執する傾向があります。湖沼さんの場合は、トラウマを植え付けられた相手。まだ数年前とは言え、女性の心には重い症状となったのでしょう」
「わかりました。処方などは……?」
「見える外傷がないので、下手に秘薬などの薬はやめておきましょうか? 代わりに、僕から大将さんにお願いがあります」
「僕に……ですか?」
「はい。湖沼さんは昼食を食べていないようですし……僕の診断書を渡すので、彼女の会社には提出出来るようにします。湖沼さんに美味しいお料理を食べさせてやってください」
「え」
「わかりました。僕で出来るのであれば」
「なので、真穂様には湖沼さんの付き添い。それとブラックサンタクロースさんには人化していただき、事情説明を湖沼さんの会社にしてくださいませんか?」
「了解したよ」
などと、あれよあれよと今日の予定が立てられてしまい。
火坑以外の面々で、西創に真穂の妖術でひとっ飛びして行った。ブラックサンタクロースは、人間用の名刺を美兎の上司に渡して事情説明を代わりにしてくれて……今日の美兎の仕事は無理に続けられない理由を明確に話してくれたのだ。
水藻の人間用の診断書にも、きちんと詳細が記されていたお陰か……精神科にかかる事態にならなくて済んでほっとしたのか、上司は美兎のところに来ると肩を軽く叩いてくれた。
「昨夜も頑張ってくれたんだ。今日の仕事は無理に急ぐものはない。有給にはまだ一年目だもんで出来ないが、休暇届にしておくよ。ゆっくり休みなさい?」
「……はい」
まだまだ新人なので、自分で仕事を続けるだなんて言えない。美兎は頷いてから、ブラックサンタクロース達と界隈に戻って楽庵へと戻って行く。
扉を開ければ、とてもいい香りがした。
「おかえりなさい、皆さん」
いつもの『いらっしゃい』ではない、温かい言葉に。
美兎は、またこの猫人が好きなんだなと実感出来た。
「……ただ、いまです。会社には休暇届にしていただきました」
「それなら良かったです。寒いですし、刺激物はやめておいたほうがいいかと思って……クリームシチューを作ってみました」
「! あ、心の欠片」
「いいんですよ。美兎さんの治療も兼ねてなんですから、代金はお気になさらず。水藻さんの指示もありましたが、僕からのお節介だと思ってください」
「……ありがとうございます」
水藻への代金も真穂が払ってくれたので、あやかし達は本当に良い人達ばかりだと思わずにはいられない。
とりあえず、ブラックサンタクロースとも一緒にカウンターに腰掛ける事にした。
次回はまた明日〜




