第4話 猫人の恋
お待たせ致しましたー
人間界ではクリスマスではしゃいでいるかと思われがちだが。
あやかしの界隈でも、人間達の行事などはよく取り入れているのだ。天皇などと呼ばれている人間をあやかった祭日についても、概ね休日を取り入れるきっかけにはしている。
かと言え、飲食を営む店についてはあまり意味がない。
小料理屋の楽庵を営む猫人の火坑もそんな感じであった。
「またのお越しを」
常連であるあやかしのひとりが、小さな宴会席にと楽庵を選んでくれた。クリスマスの装いは楽庵だと似合わないのでしていなかったが、それでも年中行事を理由にして他の客を招いてくれたのだ。
随分と飲み食いして足もふらついていたが、連れてきた客が担いで行ったので不安はない。人間もだが、あやかしとて酒の強い者がいるわけでもなく。
こんなのんびりとした時間をずっと過ごしてきたのに。明日の個人的な楽しみを思うと、火坑とてそわそわしてしまう。
(……女性とお出かけなど。猫畜生の時とて、あったはずなのに)
地獄にいた頃とは違う。
地獄にも獄卒とて休暇はあった。その時期に、女性の獄卒と出かけたこともあったのだ。しかし、あの人間の女性のように、好意を抱いていたわけではない。逆も然り、あの時の彼女らも火坑が猫だからと可愛がってくれていただけ。
補佐官になった時も、同じであった。
そこから転生を得て今の身なりにはなったが、あやかしの女性に誘われても心惹かれず。ただただ、師匠である霊夢の元で修行をして、暖簾分けをするまで兄弟子の蘭霊らとたまに飲む程度。
雪女の花菜が加わっても、それは同じで。
だから、今年になって。迷い込んでから始まった、あの湖沼美兎と言う人間が常連になってくれたことで、少々変わってきた。
新たな、若い人間の女性や男性客の常連が増えただけでなく。
あの偏屈で有名だった、座敷童子の真穂が守護に憑いた事。それに、そんな彼女が気にいるくらい……良質な心の欠片を得る事が出来たため、店の売り上げも不景気の割にはうなぎのぼり状態だ。
最近は界隈でも大雪が目立つので、休みにしてもいいかもしれないが、その理由は知っている。
妹弟子の花菜が、長年想いを寄せていたろくろ首の盧翔と結ばれたのだ。だが、長年溜め込んでいた雪女特有の冷気を放出するのに……界隈もだが人間界にまで百年ぶりとも言っていいくらい、名古屋全域に大雪を降らしたのだ。
火坑も雪掻きを頑張ったが、そのお陰か予約の客はさっきのを含めて順調に来てくれた。今はもういない。雪掻きのこともあったので、軽く下ごしらえをしてから早仕舞いにしようとも考えた。
だが、すぐに。
美兎と呼ぶようになった彼女の事を考えてしまう。あの常連の女性のことを、火坑は……自覚するまで時間がかかったが、惚れているのだ。
イルミネーションに誘ったのは、彼女となら一緒に観たいと思っただけの事。かと言って、下心がないわけではなかった。
出来れば想いを告げたいとは考えても、迷惑かもしれないと思うのだ。
猫畜生出身で、今も術がなければ人間のような姿を取れない猫人だなんて、好きだと言われても迷惑だろう。紅葉狩りの時は、見栄を張っていつも以上に着飾った人化をしたとは言え、彼女はどう思ったのか。
気にはなるが、逆に知りたくないとも思う。
恋と言うのは、こんなにも厄介で胸が熱くなるのだなと、妹弟子が長年抱えていた事を今なら理解は出来た。
「……けれど。明日のイルミネーションは断られなかった」
それだけは、本当に心から喜びを感じている。
少しでも、拒否をされなかったのが嬉しかった。とりあえず、何か手土産を持っていこうと久しぶりに菓子作りでもしようかと、店に戻る前、に。
「ほっほ。猫人でも一端の悩みを抱えているのお?」
閻魔大王ではない。
赤い服装、豊かな銀混じりの白い髪に髭。
こちらが安心出来るような、優しい微笑み。
「御大? お仕事の最中では?」
彼は正確にはあやかしではないが、人間でもない。
この時期を中心に、子供達の元へプレゼントを届けに行く……サンタクロースなのだ。
次回は木曜日〜




