第3話 真夜中のデパート
お待たせ致しましたー
夜の九時。
大型デパートでも営業時間はコンビニやファストフード店に比べれば終了は早い。
その営業終了の時間以降が、現場設営組の本番だ。美兎らは細かい部分しか出来ないが、モニュメントなどの大掛かりなものはだいぶ前から進めてはいる。
今も、美兎ら広告代理店の新入社員らが上司の案内で設営組の現場近くまで来ると……大型デパートではよく目にする巨大なクリスマスツリーが間近まで見えていた。
このツリー設営まで、美兎ではなく沓木らがデザインを考えた。いつか、は美兎も携わりたい。設営途中でもそう意気込むくらい、素敵なツリーだったから。
(そのためにも、今は雑用でも頑張らなくちゃ!!)
美兎が小さく拳を握っていると、上司から指示を出されるところだった。
「明日がクリスマス本番。このデパートの総仕上げが今晩だから、皆にもそれを手伝うことで現場の大変さを理解してほしい。手分けして、広告の差し替えやポスターの貼り替え……皆頼むよ?」
『はい!!』
いつもはぐーたらしがちの田城もやる気に満ち溢れている。彼女とは分担が別れたので、ここで手分けして行うことになった。美兎は大きさはバラバラだがフレームに入れるタイプの広告の差し替え。
分担しているので数はそう多くはないが、時間が限られているためゆっくり作業は出来ない。先に広告は取ってもらっているから、空になったフレームに指示表通りの広告を差し込んでいく。
「……しかし、怖いなあ」
夜の学校などと騒いでいたこともあったが、夜のデパート……ほぼ無人のフロアは音もなく静かだ。エアコンは美兎ら外注先の人間もいるので稼働しているが寒さよりも不気味さが勝る。
最近は行けていないが、錦の界隈で妖怪変化らの姿を目にしているのに、不気味に思うのも変な気がするが。
「こんな暗闇、大したことないでしょ?」
美兎がまたひとつ広告を貼り替えていたら、影から座敷童子の真穂が出てきた。このフロアには美兎しかいないとは言え、何故出てきたのか。
「な、なんで出てきたの??」
「人間達には聖夜とか何とか言っているけど。真穂がいるのに、寄ってくる馬鹿な奴らがいるからよ?」
「え、馬鹿?」
「真穂が守護に憑いているから、美兎にも視えるはずよ? 奥の暗いとこをよーく視てみなさい?」
真穂がケラケラ笑いながら言うので、言われた通りに目を凝らして奥の様子を見てみる。すると……何やら、ドロドロした黒とか紫のヘドロのようなものが見えたのだ。
「な、な、なにあれ!?」
「怨念の集まり。特に、ヒトが騒がしくしていると集まってくる馬鹿な連中よ? 真穂の領分じゃないけど、美兎のためだからさっさと祓うわ」
「ま、真穂ちゃん出来るの??」
「あやかしであれ、自分にとって不利益な輩を祓う術程度は身につけているものよ? さっさと終わらせるわ」
子供の姿の真穂は、そのドロドロしたものになんの躊躇いもなく近づいていく。美兎は怖くて近づけないが、真穂に頼むしかない。
真穂がヘドロの部分の手前まで近づくと、右手を前にして素早く横にスライドさせた。
「!?」
一瞬、のことだったが。
美兎の目にも、ヘドロがチリのように砕けて消滅していくのが見えた。
やがて、完全に消え去ってから真穂はくるっと振り返ってから、美兎に向かってピースをした。
「楽勝楽勝〜。早く終わらせなきゃでしょ?」
「う、うん。……ねぇ、他の場所にもいるのかな?」
「さあ? けど、美兎の霊力に惹かれて大多数集まってた感じだから大丈夫じゃない?」
「そ……そう、なんだ?」
なんにせよ、危機が去ったのなら手早く済ませてしまおう。
終わって、田城とも合流しても、彼女からは真夜中のデパートが遊園地のお化け屋敷みたいに見えたなどとはしゃいでいただけだ。
美兎は多少怖がりだが、彼女はホラー系統が全般平気なのを思い出した。
こちらも夏休み企画終了
次回は月曜日〜




