第5話 黒豹のジョン
お待たせ致しましたー
座敷童子の真穂がスマホに連絡を入れてきた時は驚いたものだ。
ポケベル、ガラケーからスマホ。
短い期間で、人間達は随分と文明の機器を進化させてきたものだ。そのスマホにも使い慣れて一、二年経った今日に、日本に来てから古い知り合いになっていた真穂から連絡があったのだ。
個別のメールと言うか、LIMEと言う電子アプリの通話などを介して。
『面白い子を連れて行くわ。あんたも気にいると思うわよ?』
とだけあったが、話を聞いてやる相手が、まさか義息子である猫人の火坑を想っているとは予想外だった。しかも、わずかだが真穂以外の妖気を感じる人間の女だとは。
たしかに、面白い女だ。
人化と言う人間を装った姿ではなくて、猫と人間の間を象った姿を好いていると言う。まったく、面白くないわけがない。
あれが地獄からあやかしに転生してきて、行き場のないところを気まぐれに引き取って育てただけだが……浮き名もひとつもなく、弟子から独立してあの店を切り盛りしていくだけで、誰とも結ばれることがなかった奴が。まさか、近代の日本になって、若い人間の女から想いは寄せられるようになるとは意外過ぎだ。
だが、真穂の様子を見る限り、火坑もそれなりに気にかけているのだろう。でなければ、幸運の象徴である座敷童子の能力を使って、さっさとくっつけるなりなんなりしてるのに。わざわざ守護に憑くだけあって、宿主の幸せを考えているのなら。
外堀を埋めるのに、師匠であり、義父である霊夢の元に来ないわけがない。
霊夢とて、人間達には化け物などと恐れられていた中国大陸のあやかしではあったが。気まぐれで日本に飛んで、居着いたら黒豹に化けて界隈などに溶け込んでいた。それだけの存在が、二百年程前に火坑を拾い。育てて一人前の料理人にするくらいの甲斐性はあった。
それが、奴を好きだと言ってくれる人間の女とまで出会うとは。移ろう時代の流れも悪くないと思った。あれをきちんと姿形だけでなく、性格なども受け止めた人間など稀有そのものだ。
霊夢は、美兎と言う人間から取り出した心の欠片である『ヒラメ』を捌きながら、機嫌良く調理していく。いつか、義娘となってくれるのなら美兎のように相手を尊重してくれる心根の優しい娘がいい。
人間ではあるが、妖気も感じるのならどこかのあやかしの子孫なのだろう。もし火坑と結ばれれば、人間を捨てることになってしまうが。
それを今聞くわけにはいかないので、霊夢は調理が終わった料理を二人の前に出してやった。
「お待ち。ヒラメの骨唐揚げと、野菜餡を掛けた唐揚げだ」
「わあ!?」
「相変わらず早いわね?」
一部の切り身は換金用に取って置いてあるが、それを残しても有り余る切り身と骨が出てきたので、手早く美味しい料理にとその二つを選んだ。米が欲しいか聞くと美兎は遠慮するようで、真穂には出してやった。
ちょうど今日は、一番弟子の蘭霊の気まぐれで牛蒡と鶏肉のかやく飯を炊いたのだった。その香りがすると、美兎も食べたいと言い出したので出してやる。
素直だが、少し自信がない感じが。危ういけれど、火坑となら足して二で割ってちょうどいいかもしれない。
明日辺りに、あの二番弟子兼義息子のところに顔を出してやろうかと、霊夢は蘭霊に店を任せようかと決めたが。
「師匠、俺も行きたい」
真穂達が帰ってから、蘭霊の方もそう言い出したので……せっかくなら、三番弟子の花菜も連れて、店は休みにすることにした。
次回はまた明日〜




