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第3話『枝豆の寒天寄せ』

お待たせ致しましたー


夏休み企画始動!!

 真穂(まほ)が目を付けただけの、器が備わっている。狗神(いぬがみ)だった蘭霊(らんりょう)にははじめこそは怯えていたが……だんだんと獣とは違う個性に当てられた美兎(みう)は落ち着きを見せてくれた。


 さすが、あの猫人の火坑(かきょう)に惚れただけある。あれは人が厭う容姿をしている訳ではないが、見ようによっては異質と同じ。であるのに、美兎はその容姿を受け入れた上で惚れているのだ。


 つい先日、あやかしの妖術を駆使して、火坑が人化の術を磨いたと言うのに、その容姿で惚れ直したわけでもない。猫の獄卒からの輪廻転生を得た、ありのままの火坑を好いているのだ。多少恐ろしい容姿の獣の神だった蘭霊に慣れるのも早くて道理。


 奴の師匠である、『ジョン』の霊夢(れむ)の美声については腰砕けそうになったが。それもまた一興。


 ひとまず、相談内容をきちんと告げれば、霊夢は面白い情報を得たかのようにニヤッと口角を緩めた。



「あの猫坊主に惚れた嬢ちゃん? しかも、人間たぁ驚きだなあ?」

「ふふ。真穂が直々に守護に憑いたお墨付きよ?」

「お前さんが自ら望むとはよっぽどの嬢ちゃんなんだなあ?……嬢ちゃん、あいつのどこに惚れた?」

「え、え、え…………っと」

「早く言いなよ?」



 自分が話題の中心となり、かつ火坑の話題となると美兎は少し縮こまった姿勢になった。過去の元彼のせいで自分に必要以上の自信がないそうだが、こう言うところは初々しくて可愛らしい。


 火坑も美兎を想っていると自覚したばかりだが、奴からは動こうとしない。故に、真穂は外堀から埋めようと今日はこの『楽養(らくよう)』に美兎を連れてきた。火坑の、今世の育ての親であり師匠である霊夢に認めさせれば、奴もきっと動くからだろうと。


 とりあえず、美兎は出されたほうじ茶の湯呑みをしっかり持ちながら口を開けてくれた。



「最初は……猫さんでも優しい妖怪さんだと思ってたんです」

「うんうん」

「まあ、人当たりはいい奴だしな?」

「でも……猫さんのお顔でも、優しい笑顔だったり。美味しいお料理を作ってくれるのが……今まで出会った男の人とは全然違うんです。酔い潰れて、真穂ちゃんと契約した時にお部屋にお邪魔したんですけど……その時に、火坑さんの隣に誰かがいたりするのが自分じゃなきゃ嫌だって思って……真穂ちゃんに言われてから『好き』って気づきました」

「ほぉ……嬢ちゃん、ちゃんと今のあいつを見てんだな?」



 霊夢が言いたいのは、火坑が前世で地獄の獄卒をしていた事で、身分を知った上で惚れてないのに感心したのだ。


 たしかに美兎は、閻魔大王や第一補佐官の亜条(あじょう)と出くわした時も彼らにほの字になる事もなかった。それだけ、火坑に対しては本気の証拠。


 しかし、自分が惚れられている対象には見られていないだろうと言う、大きな不安を抱えてしまっている。人間にしてはそれなりに可愛らしい容姿を持っているのに、平凡だと思っているのだ。まだ真穂が教えていない、『ある理由』を告げていないから……余計に自信が持てていない。今日言うべきかはまだ真穂も迷っている。



「けど。人間ですし、これと言って特技もないですし……お料理は火坑さんの方がずっと凄いですし」

「そうか? 嬢ちゃんのようにかわいこちゃんなら、あいつも一発で落ちると思うぜ?」

「え、そんな!?」

「ねーねー、なんか食べながら話そうよー? 真穂、お腹空いた〜!」

「へーへー、色気がねー事で」

「勝手でしょー?」

「……私も、仕事終わったばかりで」



 すると、美兎から『きゅー』っと可愛らしい腹の虫が暴れた音がしたのだ。


 これには、控えていた蘭霊まで腹を抱えて笑ってしまう。



「そりゃ悪かった。おい、蘭。お通し出してくれ」

「はいよ」



 まず出てきたのは、夏では少し目立つが時期外れらしい……枝豆の寒天寄せだった。美しい緑色が映える一品。美兎と一緒に手を合わせてから箸を伸ばした。



「美味し!?」

「相変わらずねえ?」



 本来ならデザートに出すような一品なので、甘いが優しい甘さ。手製なので、潰した枝豆の食感も感じて口に入れる度に舌の上でホロホロと崩れていく。


 美兎も気に入ったようで、ぱくぱくと食べていた。無くなる前に、今度は雪女の花菜(はなな)が出来上がった料理を持ってきてくれる。



「お、お待たせ致しました。銀杏の茶碗蒸しで……す」



 真穂の前だから緊張しているだろうが、初めて会う美兎にも緊張しているのだろう。真穂は長い年月を生きた座敷童子なので、まだまだひよっこの花菜では上下関係が瞬時に決まってしまう。


 だが、ここでは今客と店員でしかない。礼を言うと、彼女は軽くビクビク震えながらも深く腰を折った。それから、手に嵌めている特殊な雪のあやかし専用の青いゴム手袋越しに、熱い茶碗蒸しをゆっくりと真穂達の前に置いてくれたのだ。出したら、まだやる事があるのかさっさと裏に下がってしまったが。



「さ。食ってやってくれ。あいつに今出せるのはそれくらいだからな?」



 霊夢が認めたのなら、それなりに美味いのだろう。雪女が茶碗蒸しとは少し滑稽だが。

次回はまた明日〜

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