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第2話 名前呼び

お待たせ致しましたー

 いきなり名前など、ハードルが高いように思えたが……火坑(かきょう)は呼んでくれないかと綺麗な眉を少し下げてしまった。


 その表情に弱い美兎(みう)は、綺麗な顔立ちが可愛く見えて思わず息を飲みそうになる。沓木(くつき)達も真穂(まほ)もまだなので、今なら言えるかもしれない。


 少し深呼吸をしてから、美兎は火坑に向き直った。



響也(きょうや)……さん」

「はい、美兎(みう)さん」

「え?」

「いけませんでしたか?」

「い、いえ!」



 美兎に名前呼びをお願いするだけでなく、美兎のことも名前で呼んでくれた。嬉し過ぎて、天まで昇っていきそうな勢いだったが……今日は沓木達との紅葉狩りデートだ。昨日作った、スノーボールクッキーも渡さなくてはいけない。



「お待たせー」

「ちょっと場所取りもしてたから、遅れてごめんね?」

「おはようございます、沓木さんに隆輝さん」

「あら、そっちが火坑さん?」

「はい。沓木さん、この姿の時は香取(かとり)響也でお願いします」

「わかったわ」



 沓木は火坑の美形っぷりにもたじろぐ様子がない。それは隆輝(りゅうき)のお陰かもしれないが。二人が横に並ぶと、イケメンと美形が凄過ぎて目が潰れそうになる。ここが(さかえ)などの街中でなくてよかった。でなければ、逆ナンで大変なことになってしまうから。


 とりあえず、立っていても寒いので沓木が隆輝の腕に自分の腕を絡ませてから出発となった。自然と出来るその関係を、美兎は羨ましく思う。元彼とて、一度もそんな接触をした事がなかったから……いいな、とつい考えてしまった。


 出来れば、隣を歩いてくれている火坑とそうなりたいが、火坑には火坑の心情がある。いきなり美兎を名前呼びにしてくれたからって、脈有りとは限らない。


 憶測で……自分が傷つきたくない弱さもあるが。


 目的地である名城(めいじょう)公園に到着すると、手前の木から既に紅葉が広がっていた。



「わあ!?」



 今まで、景色に感動したことなどあっただろうか。


 (くれない)のカーテンのように、あちこちが真っ赤に色づいた紅葉(もみじ)の群生。銀杏(いちょう)も少し見え隠れしているが、紅葉の方が圧倒的に多い。


 名古屋城などはスポットとして有名ではあったが、ここもなかなかに穴場であった。なのに、訪れている人々は少ない。教えてくれたろくろ首の盧翔(ろしょう)には感謝しなくては。



「綺麗ですね……」



 景色に見惚れていたら、火坑の事を少し忘れてしまっていた。だが、真穂も沓木達も思い思いに楽しんでいる。美兎は火坑の方を少し見ると、バックに紅葉があったために、化けている人間の姿との美しさも相まって……どこかへ消えてしまうような気がしたのだ。


 思わず、彼のコートの裾を掴んでしまう。火坑にも驚かれたので、慌ててすぐに離したが。



「す、すみません!」

「いえ……。どうかしましたか?」

「そ……の」

「?」



 言っていいものか、拒絶されないか。


 不安と恐怖で心がいっぱいになるが、変な誤解も与えたくはない。勇気を出して、美兎は火坑の顔を見て言うことにした。



「その……きょ、響也さんが消えてしまうんじゃないか、って……思って」

「僕がですか?」

「……紅葉と響也さんが似合い過ぎて……けど、ちょっと怖くなったんです」

「ふふ、僕は消えませんよ?」



 拒絶がなかった、引かれたりもしなかった。


 ただ、不安はないと優しく言葉を返してくれただけ。その言葉の温かさに、思わず涙をこぼしてしまいそうになったが、美兎は堪えた。だから、素直に『はい……』とだけ口にする。



「んふふ〜? らぶらぶじゃない?」

「ひゃ!?」



 絶対わざとだろうが、真穂が後ろから抱きついて囁いてきたのだった。

次回は木曜日〜

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