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第5話『想いのスノーボールクッキー』

お待たせ致しましたー

 美兎(みう)は少し緊張していた。


 来たる、沓木(くつき)とその彼氏である隆輝(りゅうき)と……想いを寄せている猫人の火坑(かきょう)とのダブルデート。


 火坑に告白をするつもりはないでいるが、一緒にお出かけだなんてウキウキしてしまう。だが、手ぶらで行くわけにはいかない。かと言って、隆輝の店に行って見繕うのも何か違う気がした。


 だから、思い切って手作りの何かを用意しようと決めたのだ。しかし、プロの料理人とパティシエに敵うわけがないので、本当にささやかな品物でしかないが。



「よーし、やるぞ!」

「おー!」



 今日も定時から帰って来られたため、材料をスーパーで買ってきてから美兎は守護に憑いてくれている座敷童子の真穂(まほ)と一緒に作る事にした。


 自炊も出来なくはないが、お菓子を。


 冬間近にちなんで、『スノーボールクッキー』を作ることにしたのだ。


 初心者向けでもあるし、出来上がった見た目も可愛いらしいからである。と言ってくれたのは隆輝ではあるが。



(……けど、これだけでいいのかな?)



 材料が、意外に少ないのである。薄力粉、砂糖、サラダ油に粉砂糖。


 たったこれだけで、クッキーとは出来るものなのだろうか。LIMEを交換してくれた隆輝に送ってもらった、プロのレシピを疑うわけではないけれど。



「時間も限られてるし、チャチャっと作るわよ?」

「うん」



 大人サイズになってくれた真穂の手伝いも借りて、とりあえず美兎は作る事にした。



 ①まずは、振るった薄力粉に砂糖とサラダ油を入れてまとまるまで混ぜる。




「根気よ、根気!」

「うん!」




 ②綺麗なクリーム色になり、生地がまとまったら2cmサイズになるようにちぎってから丸めていく。



 ③②を170℃に予熱したオーブンかオーブンレンジで20分焼く。



 ④焼けたら、完全に冷める前に粉砂糖をまぶす。



 そうして、出来上がったのが雪の玉にも見えなくないスノーボールクッキーの完成だった。あまりにも簡単に出来てしまったので、ついでにビターテイストのココア味も作ってみたが。



「いい出来じゃない?」

「簡単過ぎて、あんまり実感湧かないけど……」

「気持ちがこもっているじゃない? 火坑の大将のために作ったんでしょ?」

「…………うん」



 大好きな人のために作った。それは嘘じゃない。


 だから、完全に冷めてからピクニックに行く全員分にあげれるようにラッピングをして、その後に試食を兼ねて食べてみることにした。


 真穂は、なんの迷いもなく口に入れてくれた。サクサクと小気味良い咀嚼音が美兎の部屋に響き、彼女もすぐに笑顔になってくれたのだ。



「上出来よ、上出来!」

「よ……喜んでくれるかなあ?」

「あんまり甘過ぎないし、大将も美味しいって言ってくれるわよ」

「……うん」



 美兎もプレーン味をひとつ口に入れた。


 卵は使っていないが、サクサクとしているのに、ほろっと解けていく感覚が楽しい。味も、甘過ぎずくどくもない仕上がりになった。


 ココア味も苦過ぎずに程よい甘さが舌の上に広がる感覚が堪らない。甘いものが好きな美兎でも食べやすい味になっていた。きっと、火坑にも食べてもらえる。そう思うと、明日会う時が楽しみに思えてきた。



「んー? 美兎、スマホに通知来てるわよ?」

「はーい?」



 手分けして片付けをしている時に、真穂が教えてくれた。手を洗ってからリビングのローテーブルに置いたままにしたスマホを手に取る。通知の内容はLIMEから……しかも、グループではなく個人で、火坑から連絡が来たのだ。




『明日のお出かけ、楽しみにしています。湖沼(こぬま)さんのお好きなお料理、色々と考えていますので頑張りますね?』




 簡素なメッセージではあったが、このような内容を好きな相手から送られて嬉しくないわけがない。隆輝にグループLIMEの招待を受けて、初めて火坑のLIMEの連絡先を知れただけでも天国に昇天しそうだったのに、個人で普通知らせてくれるだろうか。


 思わず、二度見どころか三回以上確認してしまい、しまいには真穂に見て見てと頼む程だった。



「どしたのよ?」

「ま、ままま、真穂ちゃん!? 火坑さんから!! 火坑さんからメッセージ届いたの!!」

「グループ?」

「う、ううん、個人! 見て、見て!?」



 スマホの画面を向けてやれば、真穂は美兎から受け取って眺めてくれたが。少しして、妖艶な微笑みを見せてもくれた。



「ふーん? わざわざ美兎にねえ?」

「こ、こここ、これ、どうしてかなあ!?」

「まあ、美兎の予想通りに思っていいんじゃなぁい?」

「え、え、え?」

「まあ、落ち着きなさい? 明日を楽しみにしてればいいのよ」

「……うん」



 期待しないわけがない。


 けれど、もしただの社交辞令だとしたら……少し悲しいと思わずにいられなかった。

次回は火曜日〜

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