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第3話 ろくろ首・盧翔

お待たせ致しましたー

 そして、ブラックコーヒーを飲み終わった後に。


 夕飯もまだだった四人全員のお腹から、豪快だったり可愛らしいものまで音が店内に響き渡って行ったのだ。


 その音を聴くと、美兎(みう)もだが真穂(まほ)達まで声を上げて笑い出した。



「まだなーんにも食べてないものね?」

「そうですね? 盧翔(ろしょう)君、お任せで色々頼める?」

「はいよ! 苦手なもんとかあるかい?」

「! キノコ!…………は、ダメです」

湖沼(こぬま)ちゃん、そんなに嫌い?」

「ダメなんです!!」



 あの食材の事を考えてしまうと……と、強く拳を握って立ち上がった瞬間。何かが当たってポーンと飛んでいく感覚を感じたのだ。


 なんだと思っていると、盧翔の方に変化があった。



「威勢の良いお嬢さんだなあ?」

「!?」



 頭が、首が。


 首が必要以上に伸びていて、その上で頭がくねくねと動いていたのだ。


 あやかしに詳しくない美兎ですら、その正体はよくわかった。



「ろ……くろ、首……?」

「そーそー。ちょっと今のアッパーは効いたなあ?」



 と言って、ひゅるんと盧翔は首を元に戻した。その姿を見ると、他は相変わらず人間と同じだったが……もう美兎は正体を見たので同じには見えない。



「ご……めん、なさい!」

「いいっていいって? で、キノコ以外に苦手なのは?」

「……こんにゃく」

「あー、大丈夫。俺んとこにこんにゃくはないから」



 と言うと、作りに行くからとまた店の奥に行ってしまった。


 彼が行ってから、真穂はさらにケラケラと笑い出した。



「ほんと、美兎はその二つはダメねー?」

「ダメなの! 給食であれが出てから、もうずっとダメなの!!」

「……湖沼ちゃんの嫌いって結構根深いわね?」

「ほんと、ダメなんです!」



 見た目もだが、香りも。


 加えて、食感も。くにくに、ぐにゃぐにゃするし食べにくいのもあるが、強烈な香りが口に広がる感覚が慣れないし不快に感じる。


 みじん切りにすれば、とか。こんにゃくならゼリーにすれば、と食べられなくはないが基本的には毛嫌いしているのだ。


 どちらも、家の料理より学校給食で嫌いになったのである。



「はっは! そりゃ根深いなあ?」



 すると、もう何か出来たのか盧翔が戻ってきた。トレーには、赤と白が美しいトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ。


 人数分あるので、取り合いにはならないようだ。丁寧に運ばれたそれを、美兎達の前にそれぞれ置き、真ん中にフォークなどのカトラリーを置いてくれた。



「こう言うのなら、大丈夫だろう?」

「大好きです!」



 キノコとこんにゃくがなければ、美兎は大抵の食材は口に出来る。


 盧翔に礼を言うと、彼は糸目を緩ませてから次の料理を作りに行く。


 と思ったら、小さめのテーブルと丸い生地を持ってきたのだ。



「?」

「お、久しぶりに見せてくれるの?」

「初回さんもいらっしゃるからなあ? 客も他にいないし、今からピッツァ実演くらいしましょうか!」

「わーい!」

「久しぶりねえ?」

「え、え?」



 つまりは、目の前でピザを作ってくれると言うことか。


 そのことに少しワクワクし出した美兎は、思わず拍手してしまう。それに盧翔は口端を上げて、一緒に持ってきた粉の入ったボウルに手を入れて、両手にまんべんなくつけた。



「今宵作るのは、マルゲリータ!」



 粉を少し載せた台の上で、生地を潰す。ある程度広がったら、両手の間でさらに広げていき。そこからが、早かった。


 上に向かって飛ばしたかと思えば、手の上に落として遠心力などを使って、薄く……大きく伸ばしていくのだ。数分も経たないうちに、ピザの生地が出来上がってしまったのである。



「よ! さすがはイタリア仕込み!」

「やんやー!」



 真穂達が拍手をするのを見て、美兎や沓木も拍手をした。


 仕上げとトッピングとかは流石に厨房でするようだったが、美兎はそこで盧翔に提案してみたいことがあった。



「盧翔さん!」

「んー?」

「心の欠片って、出せますか?」

「へ?」



 提案はしたが、どうやらダメかもしれない。ついつい、楽庵(らくあん)のつもりで口に出してしまったが、引き出せるあやかしとそうでないあやかしがいると聞いてはいたけれど……盧翔は後者なのだろう。糸目と眉毛をへの字にしていた。



「ダメですか?」

「んー、あれ出来る奴が限られているからなあ? 俺もその食材扱ったことないし」

「んじゃ、真穂が出してあげる」

「へ?」



 と言って、美兎の手を掴んだ真穂がぽんぽんと叩くと……立派なモッツァレラチーズが出てきたのだ。



「これで美味しいマルゲリータ作ってよ?」

「い、いいいいいいい、いいんですか!?」

「代金もこれで充分でしょ?」

「もちろんですよ!!」



 慎重にチーズを受け取った盧翔は、はしゃぎながら奥に行ってしまった。



「すっごい、心の欠片ですよね?」

「私はあんまり詳しくないけど、湖沼ちゃんのは凄いの?」

「うん、俺が奢る予定だったのに……あいつの一日の売り上げ以上だよ、あのチーズ」

「あら……」



 相変わらず心の欠片の基準はわからないが、役に立てたようで何よりだ。

次回は水曜日〜

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