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第2話『サルーテのブラックコーヒー』

お待たせ致しましたー

 界隈に移動したが、相変わらずここはいつも賑わっている。


 昼間もだが、夜は特に賑わっている気がするのだ。人間以上に騒がしいのが好きなせいか、勧誘の声がひっきりなしに聞こえてくる。


 美兎(みう)達は、座敷童子の真穂(まほ)や赤鬼の隆輝(りゅうき)がいるお陰で、その勧誘はかけられない。と言うより、真穂が先頭を歩くと道を歩いていたあやかし達が左右に避けて行くのだ。


 まだ数ヶ月程度の付き合いしかないが、真穂については少し偉いあやかしとしかわかっていない。



「真穂ちゃん、真穂ちゃん」



 彼女の後ろを歩いていた美兎は、彼女の服の裾を掴んで軽く引っ張った。



「ん?」

「前から思っていたけど、真穂ちゃんって偉い妖怪さんなの?」

「んー? ぬらりひょんってあやかしと同等に生きているだけってことで有名なだけよ?」

「それだけ?」

「……気になる?」

「なるけど……聞いてもいい?」

「んー? ま、あとは界隈にあるデパートの役員のせいもあるかしら?」

「え」



 それは充分凄すぎるのでは、と思っていると目的地に着いたらしく。


 居酒屋とかではなく、レストランのようだ。『サルーテ』と英語か何かで書かれた大きな緑と白と赤で目立つ看板があり、店はガラス窓に黒と白でメニューのような内容が書き込まれていた。



「ここが、盧翔(ろしょう)の店ね?」

「ろしょー、さん?」

「イタリアンのお店なのよ? 湖沼(こぬま)ちゃんも気に入ると思うわ」

「ちょうど空いてるねー?」



 女性ばかりなので、隆輝が大きなガラスの扉を開けてくれて中へと促してくれた。真穂から順に入ると、外観とは違って、中の雰囲気は黒と白。


 けれど、照明のお陰で暗いイメージはなく、むしろ落ち着いた雰囲気になっていた。


 そして、レジの横を通り過ぎたところで、店員らしき誰かが出てきた。



「いらっしゃいませ」



 出てきたのは男性。


 しかし、見た目はごく普通の男性のようだった。人間に化けているかもしれないが、髪や肌は日本人の平均的な色合い。目は糸目で瞳の色が見えなかった。


 ピアスはしているけれど、それも別におかしくはない。



「盧翔君、やっ!」

「お? 隆輝か? 今日は彼女以外に随分と大所帯じゃねーか?」

「俺とケイちゃんと言うより、今日のメインはこっちの人間の子だよ?」

「んー? って、真穂様!? い、いらっしゃいませ……!!」

「慌て過ぎでしょ、盧翔?」

「すいやせん……」



 盧翔が真穂にもう一度腰を折ってから、広い席に案内してくれた。ソファー席で、黒いソファーに座ると体が沈みそうになるくらい柔らかい。



「とりあえず、飲み物頼もうか? 酒は後にするとして、コーヒーでいいかな?」

「全員ブラックで?」

「いいわよ?」

「大丈夫です」

「かしこまりました。少しお待ちください」



 盧翔がレモンスライス入りの水を置いていってから、隆輝の注文を受けて奥に行ってしまう。


 他に店員がいないようだから、ここは彼ひとりで切り盛りしているのだろうか。火坑(かきょう)とは違い、随分と広々している店なのに。



「で、本題だけど」



 美兎の向かいに座った沓木(くつき)が、思いっきりため息を吐いたのだ。



「湖沼ちゃんが、火坑さんにベタ惚れ状態なのよ? けど自信ないからって諦めようとしてるの。(たか)くんどう思う?」

「んー? 俺やケイちゃんみたいに人間とあやかしが付き合っているんだから、いいとは思うけど……湖沼さん、理由があるの?」

「あの、先輩から聞いては?」

「ううん。ケイちゃんからは相談に乗ってって言われただけ」

「……実は」



 過去の、元彼との辛い思い出をゆっくり話してみた。


 真穂にも直接話すのは初めてだが、何も言わずに聞いてくれていた。思い出したくもない、けど乗り越えなくてはいけない過去。


 火坑は全然違う存在でも、種族の壁だけでなく、隣に立っていていいのかわからない。


 だから、考えてはいても避けていたのだ。



「……そっか。辛かったんだね?」

「違うのは、わかっているんです。でも、やっぱり恋愛をするのが怖くて」

「でも。その様子だと本当に諦めようとはしてないんじゃない? きょーくん……火坑くんの事、本当に好きだって。今日会った俺でもわかるくらいだよ?」

「……そうでしょうか?」



 進み出しても、いいのだろうか。


 まだ数年でも、あの元彼と関わった事で得た傷は癒えていないに等しい。


 けれど、それでも好きになった相手が出来た事は……いい傾向なのかもしれない。報われるかはわからないとしても。



「お待たせ致しました、当店オリジナルブレンドでございます」



 少し俯いていたら、コーヒーの香ばしくい匂いが鼻をくすぐった。目の前にコーヒーのカップを置かれると、より一層香りが強くなっていく。


 美しい黒い液体に、温かい湯気。


 美兎は手前の席に座っていたので盧翔の方を見ると、糸目の目尻が柔らかく緩んでいた。



「あ、ありがとうございます」

「なーに? ちょいと難しそうな話だけど、前を向けそうじゃないか? 恋愛事なら、俺も少し臆病になっちまうとこがあるが」

「盧翔さんが?」

「盧翔君が好きな相手は、きょーくんの妹弟子なんだよね?」

「ちょ、隆輝!?」

「いいじゃん、別に」

「火坑さんの、妹弟子さん?」

「きょーくんが独立して楽庵(らくあん)を作る前にいたとこで、ね?」



 そう言えば、出会ったばかりの時に火坑から少しだけ師匠の話を聞いた。


 であれば、前にいた場所で関わってきたあやかしは多いだろう。それが少し羨ましく思えて、ああ、やはり美兎は火坑が好きなんだと改めて自覚したのだった。


 それを納得してから飲んだコーヒーは……苦味が少なく、まろやかでとても飲みやすい味わいであった。

次回は日曜日〜

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