第1話 赤鬼・隆輝
お待たせ致しましたー
新章・赤鬼編スタート‼️
名古屋中区にある栄駅から程近いところにある錦町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三とも呼ばれている夜の町。
東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。
そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。
あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。
小料理屋『楽庵』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。
秋も深まってきた今日この頃。
湖沼美兎、職業は新人デザイナー。先日やっと見習いを抜け出したばかりのかけ出しではあるが、今日もまたため息を吐いていた。
仕事についてではない。……いわゆる、恋の悩みだ。
今年の春に深酒から介抱されて出会うことが出来た、あやかしである猫人の火坑にだ。あの整った猫の顔立ちに涼しげな笑顔に、優しい物腰。
すべてが、人間ではないのに惹かれてやまない。
人間とあやかしが交際するのは珍しくないと、守護に憑いてくれている座敷童子の真穂には言われたりしても……告白する勇気だなんて持てないのだ。
火坑自身に迷惑をかけてしまうとか、そうすれば楽庵に通えなくなるとか。色々堂々巡りしてしまい、同期達に心配をかけたようにため息が増えていくのだった。
今日も今日でその事を考えながら休憩していたら、先輩の沓木が美兎の肩を強く掴んできたのだ。
「湖沼ちゃん、今日は私に付き合って!」
「……先輩?」
「今の湖沼ちゃんに、いいアドバイスしてくれる人のとこに連れていくから!!」
「……どなたなんですか?」
「私の彼氏」
「え」
つまりは、閻魔大王らと楽庵で会う前に教えてもらった沓木の彼氏であるあやかし。
場所は人間界の栄ではあるが、いきなり会いに行ってもいいものか。美兎は彼とはまだ会ったことがないので、少し不安だったが……沓木には連絡済みであるし、今日あちらは早上がりだと分かったため食事も一緒にしようと半ば強引に決められた。
そうして、終業時間が過ぎて沓木と栄に出向き。
今日も女性で店の中もだが外まで溢れかえっている、焼き菓子とマカロンの専門店である『rouge』が見えてきた。
パステルピンクにパールホワイトの色合いの建物が目立ち、然程大きくはないが激戦区の栄を含む中区では人気の洋菓子店として有名である。手土産用のお菓子も豊富なので、お持たせ商品も充実しているから客には社員なども多いのだ。
そこのお菓子を手がけるパティシエのひとりが、まさかあやかしであるだなんて誰も信じられないだろうが。
沓木は店の近くの通路で止まってから、スマホでLIMEの通話をし始めた。
「隆くん。私だけど……湖沼ちゃんも連れてきたわ」
『あ、ほんと? 俺も今着替えたからすぐ行くよ』
「裏口から近いとこにいるから」
『わかったー』
彼氏を君付けで呼ぶのは珍しくないが、沓木のようにスタイリッシュな雰囲気の女性がそれを実行すると、なんだか新鮮に見えた。
タカくん、と呼んだ男性は人間には化けているだろうがどんな男性か気になって待つこと少し。
植え込みのフェンスがいきなり開いて、そこから背の高い男性が現れたのだ。
「ケイちゃん、お待たせ」
「うん。あ、こっちが例の湖沼ちゃん」
「あ、そうなんだ?……あ、真穂様の力感じる」
「は、初めまして!!」
背の高い男性は、どう見ても鬼には見えない。
夏に出会った吸血鬼のジェイクもだが、あやかしは必然的に人間に化けると美形が多いのだろうか。火坑は違ったが、少しタレ目が印象的な好青年風の人間に化けていた。
髪は綺麗な少し長めの黒髪、肌は健康そうな小麦色。手足は素晴らしく長く、十一月も半ばで冬の装いに近い普段着の上からでもわかるが……筋肉が腕も足も凄い。鬼だからか肉体労働をしているからか、理由は明白ではないが。
「はじめまして。ケイちゃん、俺の事ってどれくらい話した?」
「種族名程度ね? 場所変える?」
「うん。俺んちとか界隈に行く?」
「大人数なら、界隈がいいわよ?」
「真穂ちゃん!」
相変わらず、神出鬼没な守護をしてくれるあやかしである。瞬時に影から出てきたにも関わらず、見た目は二十代くらいの美女に変身していた。
その真穂を見ると、タカくんは軽く腰を折った。
「お久しぶりです、真穂様」
「隆輝も久しぶりね?」
「りゅう……? あれ、先輩はさっき」
「あ、それ俺の人間名。相楽隆仁って名乗っているから」
「……なるほど」
人間界で働くあやかしは、本名をいじっているのだろう。火坑も人間界に仕入に行くらしいからどんな名前か。
気になって仕方がなかった。
「とりあえず、どーする?」
「真穂ちゃんがそう言うのなら、界隈にしましょう? タカくん、ロショーくんのお店とかいいんじゃない?」
「あ、そだね? そうしようか?」
「じゃ、しゅっぱーつ!」
そのための移動手段としては、いつもの真穂が使う襖を利用した妖術であった。
次回は木曜日〜




