第5話 閻魔大王達と対面
お待たせ致しましたー
随分と、愛らしい人間の女性が二人程やってきた。
閻魔大王と、その第一補佐官である亜条の予約は楽庵で為されていたはずだが、貸切にはしていなかったようだ。
もしくは、人間には亜条達の気配を察知出来なかったせいか。だが、傍らに座敷童子の真穂がいるのが亜条の目に写ったので、おそらく態とだろう。
座敷童子の中でも、かなりの長寿である彼女がこちらの気配を察知出来ないわけがないのだから。
「ん? おや、何やら愛らしい女達じゃな?」
カレーを食べようとしていた手を止め、閻魔大王も彼女達に振り返った。閻魔大王の顔を正面から受け止めると、真穂のすぐ隣にいた女性もだが……鬼の霊力を感じる女性も頬を朱に染め上げた。
亜条もだが、閻魔大王もなかなかの美丈夫なのだから、人間の目には良過ぎるくらいの保養になって当然。
だが、鬼の霊力を感じる女性の方はすぐに赤みを引っ込めた。
「はじめまして。今日は貸切だったのかしら?」
「お久しぶりですね、沓木さん。……いえ、貸切ではないのですが。僕の以前の上司方がいらっしゃっているんです」
「え……っと。火坑さんは前世が地獄のお役人だったかしら?」
「そうじゃ。儂が閻魔大王。こっちにいるのは第一補佐官で火坑には先輩だった亜条と言う」
「亜条と申します」
「あら。生きている内に閻魔大王に出会えるだなんて思わなかったわ?」
「閻魔ー、やっほー?」
「そこに居るのは真穂か?」
沓木と言う女性は飲み込みが早いようだ。鬼の霊力を感じるあたり、現世にいる鬼の伴侶か恋仲か。でなければ、このように堂々と出来てはいないはず。
逆にまだ名乗っていない女性からは、座敷童子の真穂以外にもあやかしの気配を感じる。微か過ぎて、補佐官である亜条にも察知するのが難しいくらい。
沓木とは対照的に、閻魔大王と真穂の会話に顔色を青く赤くと交互に変えている様子が、酷く愛らしい。面白くて見詰めていると、火坑の方から視線を感じた。
彼の方に振り返ると、笑顔ではあるのだが伏せている猫目がちっとも笑っていない。こんな表情は、あの世で共に仕事をしていた時ですら見たことがなかった。
いったい、なんの変化があったのか。考えを巡らせていると、楽庵に来る直前の閻魔大王の言葉を思い出したのだ。
『儂が可愛がっていた猫が美味い馳走を振る舞うのじゃぞ? それと、気になる噂もある』
気になる噂。
あの世でも、現世の情報は常に流れてくるもの。
あやかし達の住む、界隈の世界の方も同様に。
そこから、火坑の気になる噂も流れて来ていたのだ。必要以上に気にかけている人間の女性が常連になった事を。
それがおそらく、この女性なのだろう。
「湖沼さん、沓木さん達も。お席によろしければ」
「は、はい!」
「いいのかしら?」
「構わん。今日は私用故に無礼講だ!」
「そうこなくっちゃ! 真穂も飲むー!」
「真穂ちゃん、その姿で飲むの?」
「ふふん? 真穂はこう見えて千年以上生きてるわよ?」
「なーる?」
三人が加わった事でカウンターの席は満員になったが、嫌な空気が流れるわけではない。
むしろ、華に囲まれた感じでいい気分にはなる。
火坑は酒の注文を受けてから、せっかくだからとカレーの方だけは量を調整して三人に出してやっていた。
「火坑、儂が食う分はまだあるのか?」
「大丈夫ですよ、大王? 寸胴鍋にはまだまだありますから」
「おお!」
「相変わらずねえ、閻魔?」
「二十年ぶりなのだぞ? いつでも来れるお主らとは違う!」
「ま、ねー?」
この二人の友人のような物言いも久しい。
だからこそ、最近守護に憑いたと噂になっていた女性である湖沼にべったりなのか。湖沼はまだ表情をコロコロ変えて、緊張しているようだった。
「さ。冷めないうちにカレーの方をどうぞ。女性の皆さん、ハンバーグにチーズを入れるのはお嫌いではないですか?」
「好物」
「女なら、好きですよ!」
「だ、大好き! です」
「では、カレーをお召し上がりの間に作りますね?」
火坑が話題を逸らすためか、料理のためか。
たしかに、カレーもだがハンバーグも熱いうちがいい。もう一度全員で手を合わせてから、亜条はスプーンで米とカレーを掬い上げる。
少し冷めて湯気が少ないが、実は猫舌な亜条には有り難かった。
口に入れれば、市販のルゥのようで全然違う、甘口寄りのスパイシーな味と香りが口いっぱいに広がって行った。
次回は金曜日〜




