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第3話 美兎の過去

お待たせ致しましたー

 美兎(みう)は追い詰められていた。


 会社の休憩スペースの一角で、しかも二年先輩の沓木(くつき)桂那(けいな)と同期の田城(たしろ)真衣(まい)の二人によって。


 昼休みになった途端に、少しぼーっとしていたら二人に脇を抱えられてここに連行されたわけである。それから何も言わずに、怖い顔で美兎を睨むばかり。怒っていると言うよりかは、何か言いたいのを堪えているようであったが。



「あ、あの……?」



 思い切って声をかけると、二人揃っていきなり大きくため息を吐いたのだった。



「……先輩、これ自覚ナシっすね?」

「そうね? まったくの無自覚のようだわ……」



 ため息の意味も、今の発言の意味もわからず美兎は首を傾げるだけしか出来なかったが……今度は田城が急に美兎の肩を掴んできたのだ。



「真衣ちゃん……?」

「美兎っち。直球で聞くけどいい?」

「うん?」

「好きな人とか出来た?」

「へ?」



 なんでその事を、と恥ずかしさが込み上がって来てあたふたとしていると……向かいにいる二人は大きくため息を吐いた。



「確定」

「っすね?」

「誰? 新入社員トップ3に入るうちのかわい子ちゃんの心を射止めたのは??」

「営業の高遠(たかとお)さんとか?」

「あいつはダメダメ。接触ないわけじゃないけど、湖沼(こぬま)ちゃんのタイプじゃないとは思うわ」

「ん〜? 秘書課の牧野(まきの)さん?」

「それ、田城ちゃんの好みでしょ?」

「えへー?」



 どうやら、火坑(かきょう)についてはバレていないようだが……誰かを想っているのは身近な人達にバレてしまったようだ。勝手に他の部署を予想し合っている二人だが、美兎の好きな相手はあの猫人の火坑なのだから。



「あの……なんでバレちゃったんですか?」



 その質問に、予想し合っている二人はぎゅりんと音が聞こえそうなくらい首を動かして、美兎の肩にそれぞれ手を添えてきた。



「ため息の吐く回数が、日に日に増えて行ってる」

「休み時間が常にぼーっとしてるよ!」

「仕事に支障はないけど、ちょっと心配になってきたのよ」

「だもんで、今日先輩と聞こうって決めてたの!」



 どうやら、火坑を想う態度が会社でも出てしまっていたようだった。かと言え、正直に二人に言えるはずがない。沓木の方は聞きたいことがずっとあるが、田城の前では切り出せないのだ。


 けれど、心配はかけてしまっていたし、多少の情報程度なら言ってもいいだろう。



「あの……好きな人は、いま……す」

「社内!? 社外!?」

「えと……行きつけのお店の店長さん」

「料理人ねぇ? 胃袋掴まれちゃった??」

「先輩、それ女が男に使うんじゃないすか?」

「最近じゃ逆もあるわよ? 私もそうだったし」

「いいな、いいなぁあ!」

「とりあえず。湖沼ちゃん、その人が好きなのね?」

「はい……」



 人間の姿で出会った時もだが、猫人の姿でも包み込んでくれるような優しさが、とても心地良かった。ただの店主と客の関係であれ、楽庵(らくあん)にいる時間は好きだ。


 夏に吸血鬼から告白されかけた事はあったが、あれはあれでもう終わったことになっている。時々ではあるが、ジェイクとは楽庵でご飯を食べる仲にはなっていた。



「え〜? けど、美兎っち告ったりしてないの?」

「しないよ!?……迷惑……だろうし」

「先輩、突撃しませんか!?」

「気持ちはわかるけど、落ち着きなさい? 湖沼ちゃんが一歩踏み出せない理由があるんでしょう?」

「…………私、元彼がきっかけで。恋愛には……勇気が持てないんです」



 この会社に就職が決まってから、少し気持ちに余裕が出てきた頃。大学内で出会った元彼と……はじめは意気投合して普通の男女の恋愛をしていた。


 手を繋いだり、デートをしたりなどと。


 しかし、だんだんと素の部分は顔を出してくるもので。美兎に金銭面で負担をかけたり、扱いも粗雑になってきた。それから、彼が美兎に対して気に食わなかったら手を出してきたり。


 それを繰り返すうちに、美兎の心も疲れてきてしまった。全部キラキラしていたわけではなくても、男女の恋愛関係とはこう言うものか……と。


 そうして、一線を無理矢理越えようとした時に嫌で逃げ出して……偶然美兎の家に来ようとしていた兄に助けられた。


 一発だけ彼を殴った兄は、二度と美兎に関わるなと怒号した。それで彼も何か目を覚ましたのか、謝罪してからは卒業までも、今までも美兎とは接触していない。


 しかし、美兎の心は……今は癒えてもそこから前を向けていなかった。


 火坑を好きな気持ちはあっても、また同じ目に遭うのが嫌だからだ。元彼と火坑が全然違う存在ではあっても。


 それを火坑があやかしである事以外は全部話すと、二人にはぎゅっと抱きしめられた。



「美兎っち〜〜!!」

「そんな最低男……お兄さんのお陰で別れられてよかったわね?」

「けど。美兎っちの今好きな人……一緒じゃなくても怖いの?」

「…………私自身が、怖い」



 気持ちを押し付けたりとか、甘え過ぎてはいけないとか。


 もし、気持ちが通じた後が怖いのだ。

次回は土曜日〜

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