第1話 灯矢
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名古屋中区にある栄駅から程近いところにある錦町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三とも呼ばれている夜の町。
東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。
そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。
あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。
小料理屋『楽庵』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。
ここは、何処なのだろうか。
母を探しに家を飛び出しただけなのに、迷ってしまった。
賑やかなところ……けど、匂いも独特である。一緒に住んでいる伯父が時折ふかす、煙タバコのようでいて違うような匂い。
だが、灯矢は嫌いじゃなかった。
母を探すのも勿論だが、この賑やかな場所はいったい何なのか。少し懐かしく感じたが……覗いているうちに不安になってきたのだ。
「お母さん……どこ?」
当初の目的でもある、母親の灯里がいくら探しても見つからない。覗いていたせいで、母の匂いまで薄れてしまった。
これを予想していなかった灯矢は、やはり家で待っていればと後悔してきた。だから、来た道を戻ろうとしたのに……出来なかった。色々覗き過ぎて、その道すらわからなくなってしまったからだ。
「……お、かあ……さ」
か細い声は、周囲の賑やかに吸い込まれてしまう。誰も、あやかしでも子供の灯矢を気にかけてくれる者などいない。
だから、泣いても仕方がない。そうわかって来ても、涙が出てしまうのは弱い子供なので出てしまう。
手で擦っていると、灯矢の前に誰か立ったのか黒い影が出来た。
「あんら〜? 迷子〜ぉ?」
変に間伸びた声。
誰だろうと顔を上げれば、化粧をした男性が灯矢の前にしゃがんでいた。どうやら、灯矢に気づいてくれたらしい。
「あ……の」
「迷子の迷子の子供〜? あんた、どっから来たのー?」
「あ……う、あ」
いきなり知らない相手に声をかけられたので、灯矢はどうしていいのかわからなかった。だから、母に言いつけられていたことを思い出して、すぐにその相手にお辞儀したのだ。
「ん〜?」
「だ……じょ、ぶ、です。ごめんなさい!」
「あ、ちょっと!」
せっかく声をかけてくれた相手ではあったが、少し怖かったのもあって灯矢はすぐに彼から離れるのに駆け出した。
走って走って、似たような角を何回も曲がったら家に着くんじゃないかと勝手に思ったがそんなことはなかった。
逆に、今度は誰かにぶつかってしまい、『わっ』とお互いに声を上げてしまう。
「……大丈夫?」
ぶつかったのは女の人だったようだ。
灯矢を気遣う声に、灯矢自身流しっぱなしだった涙がいよいよ落ち着かなくて、声を上げてその女の人の前で泣いてしまったのだ。
「あら、迷子?」
もうひとり女の人がいたようだが、灯矢は気にする間も無く泣き続けた。
「え、えー? 真穂ちゃん、どうしよう?」
「うーん? こいつ……ま、とりあえず楽庵に連れてくわよ? 大将なら、ひょっとしたら知ってるかもしれないわ。あいつ、真穂よりも顔広いから」
「そうなんだ? 僕、歩ける?」
「ふぇ……」
先程の男性には悪いが、この人達はいい人達なのだろう。
それがなんとなくでもわかると、灯矢は頷き、美兎と呼ばれた女の人が差し出してくれた手を掴むのだった。
次回は17時半過ぎ




