第5話 心の欠片『タケノコ料理』②
お待たせ致しましたー
小さめの重箱をジェイクが開けると、二品しかないがタケノコご飯と青椒肉絲の香りが診療所に広がっていく。
ジェイクはどちらを食べようか、始めは悩んでいたがすぐに青椒肉絲の方から口に入れた。
「! これ、僕が好きな味付けです!」
「それは良かった」
初見とは言え、相手の好みの味付けに出来るとは。さすがは、火坑だと美兎は感心してしまう。
ジェイクの箸は止まらず、回復したばかりでも空腹状態だったのでどんどん食べ進めていくのだ。次に、タケノコご飯の方に箸を伸ばした。
「ん!? おこげ……美味し!?」
ちょうどおこげの部分を食べたようで、かつ気に入ったみたいだ。そちらもぱくぱくと食べ進めていくと、あっという間に小さめの重箱の中身が空になっていった。
ごちそうさま、と手を合わせた時に、一瞬だけジェイクの肩が震えた気がしたが体調を崩した様子もないので気にしないでおいた。
それが、間違っていたとすぐに気づいたが。
「……美兎さん、ありがとうございます」
美兎が重箱を火坑に渡そうと手を出した時に、ジェイクにその手を彼の両手に包み込まれたのだ。
「あ、いえ。大したことは……」
「いやいや。……俺のことを気持ち悪くも思わずに介抱してくれた。それだけで十分嬉しかったよ」
少し、いや、だいぶおかしいと感じた。
性格もだが、態度も大胆になってきている。何かまた調子を悪くしたのではと思ったが、顔色は良いし他にもおかしな部分は見受けられない。
だとしたら、心の欠片であるタケノコを食べて何か変化が起きたのか。
「あ、あの……フィールドさん?」
「是非、ジェイクと」
「え……と?」
この展開は、恋愛事に鈍い美兎にでも流石にわかった。どう言うきっかけかはわからないが、ジェイクは美兎に惚れてしまったらしい。
こんな美形さんに好かれて嬉しくないわけがないのだが、美兎が好きなのは後ろにいる猫人の火坑だ。だから、ジェイクが美兎に言い寄ってきも困るだけで……断ろうにも、彼の目の色が真剣過ぎてたじろいでしまう。
「……フィールドさん? 女性を困らせてはいけませんよ?」
「!?」
後ろにいた火坑が美兎とジェイクの間に割り込み、離せないでいたジェイクの手を難なく外してくれた。
ジェイクもだが、美兎もぽかーんとしていると、ずっと黙っていた座敷童子の真穂もジェイクに向かって手を振り下ろした。
「こんの、酔っ払い!!」
「う゛っ!?」
真穂のチョップが脳天にガツンと当たり、ジェイクは診療台に突っ伏してしまう。その上から、真穂はさらに脳天をぐりぐりと肘で押し付けた。
「調理済みとは言え、あんな酒で酔う? 酒気は感じるけど、どんな絡み癖なのよ!」
「い゛っだだだだ!!?」
「真穂様、そのあたりで……」
「言いつけないと、美兎を傷つけるからよ!?」
と言って、真穂はさらに肘を押し付けていく。
十分くらい、ジェイクに肘攻撃を喰らわせた後……正気に戻ったらしいジェイクが診療台の上で土下座するのだった。
「ほ、ほほほほ、本当にすみませんでした!!」
あのアクションが見る影も形もなくなり、ジェイクは綺麗な土下座を美兎達の前で披露してくれた。酔ってたと真穂は言っていたが、一応記憶はあるようだ。
「まったく……美兎に惚れるのは悪くないけど、美兎の気持ちも確認せずに口説くってどーなのよ?」
「ほ……本当に……すみませんでした!!」
「真穂にはいいから、美兎によ。美兎に」
「え、あー」
「本当にすみませんでした、美兎さん!!」
謝罪されても、びっくりした以外に困ったことはなかったので苦笑いしか出来ない。
すると、ジェイクはようやく顔を上げて、シュンっと肩を落とした。
「アルコール成分が飛んだ状態の料理ですら、酔う原因とは面白いですね?」
河童の水藻は美兎達の間を縫うように前に出てきて、ジェイクを改めて診察し出した。
「……すみません。結構……料理に使うだけでも、僕は酔ってしまうんです」
「吐き気や頭痛は?」
「いえ……そう言うのにはならないです」
「直接アルコールを含む場合は?」
「同じ……です」
「ふむ。それならまあ、大丈夫そうですね?」
人間でも珍しいタイプの酔っ払いだが、あやかしでも酒が弱いとは驚きだ。美兎は自分の悪酔いを深く反省するしか出来ないでいるが。
「とりあえず、あとは任せていいなら。美兎、下で飲むわよ?」
「え、でもまだ営業時間じゃないんじゃ?」
「構いませんよ? お出し出来るのに限りがあるだけですが」
「あ、あの!」
美兎達が予定を立てていると、ジェイクが声を上げた。
振り返ると、ジェイクは酒を飲んだかのように顔が真っ赤になっていた。
「?」
「その……酔っていたとは言え、不躾なことをしました。けど、僕の本心は本物です! ですが……今日出会ったばかりですし……その、お友達……はダメですか?」
「……いいですよ?」
「美兎」
「え、ダメ?」
「……まあ、あんたがいいならいいけど」
とりあえず、恋には発展することがないのだとわかれば、ホッとすることが出来たのでよかったと思うくらいだった。
次回はまた明日〜




