第6話 今までにない友達
お待たせ致しましたー
故郷である、四国を出てはや数ヶ月。
はじめは、転勤について不安を覚えるばかりだった。
内陸部への転勤。人間として、二十代半ばと偽りながら……人間達の輪の中で暮らして数年程度だったのに。
あやかしの知人がいない訳ではなかったが……まさか、四国とは違う日差しの強さと暑さにやられて、熱中症になるとは思わなかった。
のっぺらぼうであり、情報屋でも知名度が高い芙美にもだが、まさか人間にまで迷惑をかけるとは思わなかった。
診療所で目が覚めた頃に、その人間はいなかったが……どうやら、名古屋の界隈ではそこそこ名の知れた人間らしい。珠洲も噂だけは聞いていた、前世があの世の獄卒から補佐官に昇進したと言う猫人。そのあやかしの伴侶となる女性だったと。
礼をきちんと言いたかったが、まさか芙美の予想で猫人の営む小料理屋で再会出来るとは思わなかった。
わずかに、あやかしの血の気配は感じたが……本人が知っているかどうかわからなかったので言わないでおいた。それを抜きにしても、意外と気さくな人間だったため、すぐに打ち解けて言葉も崩した。
四国にいた頃もそんなことが少なかったのに……猫人の火坑の恋人だから、というのもあるが人当たりが良いのだ。この湖沼美兎と言う女性は。
今日自分は熱中症になったために酒は飲めないが、彼女の持つ魂の欠片……美味なる『心の欠片』を口に出来たので、珠洲も劣るが欠片で卵の形に出してもらった。
それで作ってもらった山芋焼きは、本当に格別で……今日は珠洲の奢りだと、芙美もまじえて色々食べたり飲んだりしていた。
(……名古屋、来れて良かった)
常に腕などを長袖で隠さないと、数多の目を他人に晒す恐れがあるのでいくらかビクビクしていた珠洲でも。
それでも、避けることなく珠洲に接してくれる美兎が……本当に、良い人間の友達が出来て嬉しく思えた。
まだ口約束ではあるが、いつか四国へ旅行に行こうとも言える友達。
種族関係なしに、そんな約束をする相手だなんて……あやかしもだが、今まで接してきた人間でもなかった。
たしかに、今日は辛い思いをしたが……美兎のお陰で払拭が出来たのだ。
彼女の別の友達とも、仲良く出来たらな……と美兎が言ってくれたので、珠洲もそう思えた。引っ込みがちな今までの自分では考えられないくらいに。
とりあえず、美兎と別れてからは酔い潰れた芙美を自宅へとりあえず運ぶのに背負うことにした。
「芙美さーん、行きますよー?」
「……ぁーい」
上背がある珠洲なので、落とすことはないが界隈で女が女を背負うのはなかなかに目立ったのだった。
次回はまた明日〜




