第2話 養父との再会
お待たせ致しましたー
栄の界隈に、昼間から行くのは久しぶりだったが。
美兎は、楽庵に到着すると……貼り紙を見て、少しガッカリしてしまった。
『仕入れのため、少しの間不在です』
昼間は仕込みをしていると、以前火坑から聞いてはいたのだが……まさか、今仕入れに出かけているとは思わなかった。
手土産も途中で用意したのに、どうしようとLIMEで連絡しようかどうか悩んでいると……後ろから、肩にぽんぽんと誰かから手を置かれた。
「久しぶりじゃないか、お嬢ちゃん?」
魅惑的過ぎる低音ボイス。
まだ数回程度しか聞いたことはないが、間違えようがない。
腰砕けになりかけたが、気合いを入れて振り返れば……真っ黒な毛並みに覆われた豹のようなあやかしが立っていた。
「こ、こんにちは……霊夢さん」
美兎の恋人である、火坑にとっては料理の師匠でもあるが……同時にあやかしとしての育ての親らしい。らしいと聞いたのは、あまり火坑が自分の過去について話さないからだ。
嫌がっている風はないが、基本自分については自慢するようなことがないので。
とにかく、久しぶりに会う霊夢に対して、美兎は軽くお辞儀をした。
「よぉ? 火坑の奴に会いに来たのか??」
「……はい。ちょっと相談に乗っていただきたくて」
「相談??」
「えっと……」
道端で話せる内容ではない。
霊夢に雨女からもらった玉のことは打ち明けてもいいだろうが、こんな往来であの貴重な玉を見せびらかしてはいけない。
あやかし事情に詳しくない美兎ですら、そう思うくらいバックに入れてあるそれを出そうか迷ったのだ。
「……お嬢ちゃん、うちの店に来な?」
美兎が『あー』とか『うー』などと言っていると、霊夢が今度は頭を軽く撫でてくれて……ちょいちょいと毛に覆われた人間のような手で手招きしてきた。
少し驚いたが、美兎は反射で頷くと彼の後をついていく。
然程、離れていない楽養にはすぐに着き……ただ、蘭霊や花菜はいなかった。
「花菜ちゃん達は……??」
「今日はうち休みなんだ。俺は、ここの二階に住んでっから……まあ、常時いるんだよ」
「……なるほど」
テレビ番組とかでも、人間が店の建物の二階などに居住しているのは聞いたことがある。なら、霊夢も同じと言うことか。
「んで? お嬢ちゃんは、火坑に何を相談しようとしてたんだ??」
「……聞いてくれるんですか??」
「つーか。ちぃっと、レアな気配してたんでな?? 心の欠片以上のもんだ。狙おうとしてた連中もいなくねーから、ここに連れてきた」
とりあえず、カウンターに座れと促されたため、美兎はバックの中に入れていた……布で壊れないようにくるんだ虹の玉を霊夢の前に見せた。
「……去年、雨女さんにいただいたんです」
布を丁寧に取り払うと……家で見た時よりも神々しく輝いた、虹の玉の光が店中に広がった。
「……雨女の作れる、月虹の玉か。どう言う経緯で手に入れたんだ??」
「実は……」
簡単に去年、灯矢を保護した御礼にもらったことや使い道を説明すると……霊夢はかかっと声を上げて笑い出した。
「なるほど。雨女にはお見通しだったが、お嬢ちゃんはその使い道に使わなかった。んじゃ、好きに使うにも……火坑に聞こうか悩んだってとこか??」
「だいたい、そう……です」
「望みが叶っているんなら……そりゃ、悩むか??」
欲がないなあ、と霊夢が柔らかく微笑むものの。美兎にも、望みは多少あった。
だが、それは美兎があやかしと人間の垣根を越えてしまうことになる。まだまだ仕事を続けていきたい望みもあるので……男女の一線を越えたい望みは、叶えてはいけないのだ。
次回はまた明日〜




