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第3話 道真と仔猫

お待たせ致しましたー

 平安の世。


 道真(みちざね)がまだ人間だった頃のこと。


 牛車(ぎっしゃ)で仕事から屋敷に帰ろうとしていたところに……少し薄汚れた白い仔猫がとおりにうずくまっていたのだ。



「すぐに追い払います」



 使用人がそう言うと、道真は窓から顔を出して仔猫を見てみた。薄汚れていたが、目鼻などは実に愛らしい。白毛の異端とも言われる青い目をしていたけれど……道真は興味を持った。この仔猫を拾ってやろうかと。


 なので、使用人に軽く土ぼこりなどをはらわせてから、道真の方へ渡すように命令した。



「にゃーん」



 鳴き声まで愛らしい。道真は犬や鳥も嫌いではないが猫の方が昔から好んでいた。だが、内裏(だいり)に参上するようになり、妻や子も出来たのだがなにか愛玩目的で獣を飼うことなど考えていなかった。


 知人達の仔猫を貰うことも出来ただろうが、なんとなく道真はそれを受けなかった。だからこそ、今手元にいる……まだ少し薄汚れている仔猫を手元に置きたいなどと……これまでの道真なら受け入れなかっただろう。



「……さて、屋敷に帰ろう」



 牛車に揺られながら、揺れにいささか驚いた仔猫をあぐらの間に乗せ。


 ゆらゆらと揺れながら、牛車は道真の屋敷へと向かって行く。いくらか時間が経っても、仔猫は道真のあぐらの上が気に入ったのか……うとうととしていた。今までどのような生活をしていたかわからないが、野良だとしたら、随分と気力が足りない。なら、どこかの貴族の屋敷で生まれたのを追い出されたか。


 青の瞳は、ひとによっては異端でしかない。大陸の向こうでは、ひとでも青の瞳がいるそうだがこの国にはいない。道真も見たことがないが。


 屋敷に帰ってから、家長に猫を預けて……よく手入れするように告げてから、妻らにも猫を拾ってきた事を言おうと部屋に向かった。



「あなた様が猫を?」

「おかしいかな?」

「いいえ。珍しいことだな……と」

「……青い瞳の子なんだが」

「まあ。きっと綺麗なのですね?」



 妻は異端を嫌わなかった。


 もとより、妻は学者である道真に似合いのように、舶来物などにも興味がある。その縁もあり、通い婚から今に至るのだ。



「今洗わせている。軽く飲んで待とうじゃないか」

「そうですね、ただ……」

「父上〜!!」



 とたとたと音を立てながら、息子が駆け寄ってきた。この様子だと、道真が帰ってきた事を知らされるついでに。



「ただいま」

「父上! 猫を拾ってこられたと!!」

「今洗わせているからね? 待ちなさい。それと……目の色が変わっていても疎まないように」

「はい、父上!!」



 言い聞かせる必要もなく、その後綺麗に整えられた仔猫は……家族もだが、屋敷中の人間を虜にするほど美しかった。


 雄猫であったのと、外に出かけることもなかったので猫が増えることもなかった。


 猫が増えたことで、屋敷の中に神の訪れがあったかのように……温かな優しさに包まれた。



(……あの時が来なければ)



 謀叛だと思われ、道真もだが家族も何もかもが都を追放され……太宰府に左遷される前に、猫もいつの間にか……どこかへ逃げ去ってしまった。それに気づかぬくらい、道真は堕ちて堕ちて……結果、死して悪霊となり、鎮められたら神へと昇格したのだ。


 家族達は無事に転生したらしいが……道真はその輪には入れず。末端とは言え、神の一員となったのちに……あの仔猫は地獄で獄卒をしていた事を知った。


 いつしか、補佐官になったことも。



(名を与えては……いなかったが)



 おそらく、閻魔大王あたりが名付けただろうが。『火坑(かきょう)』などとは、随分と酔狂な名だ。


 地獄の火の穴。


 欲望などの恐ろしさ。


 愛らしくも、凛々しさがある猫人に転生した今もその名を変わらず名乗っていると言うことは。


 何か、罪を犯したのかと……今更であるが道真は梅酒を飲みながら、そんな風に思えたのだ。

次回は日曜日〜

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