第6話 ダイダラボッチ③
お待たせ致しましたー
愛らしい、愛らしい……混じりはあるが、愛らしいヒトの子。
ダイダラボッチの更紗は、本当に呼ばれた気がしたのだ。己の恋仲である狐狸のチカの近くにいるのはわかったが……媒介越しに、この愛し仔である湖沼美兎に。
染めたと思われる、茶の髪色。
あやかし程ではないが、愛らしい顔立ち。
はじめは更紗にも驚いていたが、今は普通に接してくれている。更紗の、神事などではない平素の態度でいるからか……親しみを持ってくれたようだ。わざとではあるけれど。
「さ。さっちゃんは何飲むー?」
とりあえず、立っているのもなんだろうとチカ以外はカウンターの席に座ることにした。
「ん〜? 甘いの〜。生クリーム入りで」
「わかったわ〜。いつものね〜?」
チカは、仕事となると目つきなどが変わり、真剣にカクテル作りに勤しむ。材料をシェイカーに入れ、蓋をしたら慣れた手付きで振っていく。その、普段のなよっとした雰囲気からかけ離れて、男らしい姿に見えるから……更紗は好きだ。とは言っても、普段の彼も嫌いじゃないから告げてはいないが。
それから、出来上がった青いカクテルを受け取り、更紗はひと口含んだ。
(うん……美味しい)
適度な甘味、適度な酸味。
お互いを相殺していない味だ。はるか昔、更紗が紹介して弟子にしてもらったチカの師匠に近い……良き腕前となっている。カクテルが日本に伝来してきたのは、現世はともかくまだまだ日は浅い。
なのに、ここまでとなったのは……やはり、チカの生来の気質もあるだろう。
更紗は本来なら、勢いで飲み干せるのをゆっくりと楽しんでいく。
「チカ〜、次テキーラサンライズぅ」
「あら、強めね?」
「んで、美兎にはここのカルーアミルク飲ませてあげて?」
「はいはーい」
座敷童子でも、特異と評されている真穂。風の噂では、ヒトの仔の守護に憑いたと聞いたが……美兎なら、少し納得が出来た。
かのあやかしである覚の血をいくらか継いでいる、人間であれば年頃の女。
さっと、チカが作った白と黒の層が美しいカクテルを、ゆっくりと受け取っていた。
「可愛い……!」
「カルーアが度数高めだから、ゆっくり飲んでねん? まだ残ってるレーズンバターと交互にね?」
「はい」
そして、美兎には真穂の気配以外に……覚えのある気配を感じた。かつて、地獄では補佐官を務めていた希少な猫人となったあやかし。
久しく訪れていないが、この界隈でチカのように店を営んでいる猫人の気配。纏うというよりも、内側に取り込まれているような……であれば、この仔と契りこそないとは言え、想いを交わしたのか。
(……望みを、僕が感じ取ったのかも〜?)
ヒトの都合のいいように解釈され、ヒトの都合の良いように畏れられてきたダイダラボッチ。
紙一切れの媒介越しではあったが、美兎とやらは悩んでいるのだろう。
相応しいかどうか。
この先の行く末なども。
そのわずかな憂いを、更紗に伝えてしまったのだろう。
今は美味しそうにカクテルを飲んでいる美兎に、更紗は手を伸ばして軽く撫でてやった。
「? 更紗さん?」
「ううん? 可愛いなあって」
「美兎だもの?」
「ね〜?」
真穂は気づいただろうが。
これも何かの縁だと思い……滅多にすることのない、ダイダラボッチからのささやかな祝福をこの人間の仔に与えたのだ。
活かすも、くすぶらせるのも美兎次第だが。
この仔であれば、間違った方向にはいかないはずだ。
その日は、更紗の奢りでwishで飲み明かすことになったのだった。
次回はまた明日〜




