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第3話 火坑に相談

お待たせ致しましたー

 中区は意外と徒歩で移動しやすい。歓楽街、オフィス街、繁華街に少しの住宅街。碁盤の目のように、区分けされている広小路のお陰で歩道は広く。車道も混雑は多いがそれも想定内。


 夕方もそれなりに混んでいるが、美兎(みう)には関係ない。たまにバスで、ほとんど電車通勤だからだ。都会だからこそ出来る移動手段のお陰である。


 丸の内から(さかえ)には地下道があるので、夏の暑い日差しを遮るにはちょうどいい。昼間ほどではないが、日差しが強い名古屋の暑さを舐めてはいけない。美作(みまさか)が以前それで熱中症になったケースもあるくらいだ。日傘や日焼け止めをしっかりしていても、油断は禁物。


 だから、夕方でも美兎は地下道を使って栄に向かう。途中何度かは地上に出なくてはいけないが、冷房完備で快適に過ごせる地下道は冬も夏も過ごしやすい。



(お菓子は買わなくてもたくさんあるし……あの女の子にも会えたらいいけど)



 楽庵(らくあん)火坑(かきょう)に相談したところで、解決するかはわからない。けれど、昼間に三田(みた)に相談した時にもらったアドバイスを無駄にしたくはなかった。


 何もせずに、無駄にはしたくない。火坑にもきちんと話した上で、あの女の子の手掛かりが欲しかった。迷惑ではないが、少々やり過ぎだと。夢喰いの宝来(ほうらい)から得た吉夢(きちむ)以上の状況になっているからだ。


 そう考えているうちに、界隈に通じる入り口を通り過ぎそうだったので、慌てて戻った。



(……細いビルとビルの隙間をゆっくりと通り抜けて)



 抜けたら、あっと言う間にあやかし達がたむろする界隈に到着。


 最近は近道を教えてもらったので、すぐに界隈に入ることが出来るようになった。教えてもらったのは、夢喰いの宝来にだが。


 そこから角を二回くらい曲がれば、雑居ビルが並ぶ一階に楽庵の看板が見えた。


 美兎は営業している立札を見てから、引き戸を開ける。



「こんばんは〜」



 中に入れば、やはり時間が早いせいかまだ客は誰もいなかった。



「いらっしゃいませ、湖沼(こぬま)さん」



 白い毛並みに形の良い猫耳。


 オーシャンブルーのような水色の瞳に、均一に伸びた白い髭。そして人間のような笑顔で出迎えてくれた、店主の火坑。


 最初に心の欠片を渡してから、人間の姿ではなく本来の猫と人間が合わさったようなあやかしの姿で、美兎の目に写るようになったのだ。



「あの……いきなりですけど。相談したいことがあるんです」

「僕にですか?」



 冷たい麦茶の湯呑みを美兎の前に置くと、彼はゆっくりと首を右に傾けた。


 聞いてくれそうな雰囲気に、美兎は麦茶の半分を飲んでから切り出すことにした。比較的快適な道を通ってきても、外気温は暑いので冷たい飲み物はやっぱり嬉しかった。



「あの……美作さんとお会いした帰りに。妖怪さんの女の子に出会ったんです」

「ええ」

「多分なんですけど…………その子にお菓子をあげてから、自分と周りの仕事が順調過ぎて。ちょっと……どうしたらいいかなって」

「順調とは……湖沼さんにとってですか?」

「はい。こうして定時上がり出来て、ここにすぐに来られるくらい。それと新人なのに、色々仕事が認められ過ぎてて……なんだか、実感が湧かないんです」



 きちんと火坑に告げると、彼も只事ではないからと思ってくれたのか腕を組むのだった。



「宝来さんの吉夢での効果はもう済んでいますしね?……その女の子。なにか特徴はありましたか?」

「え……っと。見た目は小学生くらいで。髪型はおかっぱでした」

「服装は今時の子供らしくない?」

「え、わかったんですか?」

「はい。考えられるとすれば」



 すると、火坑の話を遮るかのように、後ろの引き戸が開いた。



「……真穂(まほ)の幸運。迷惑だった?」



 おかっぱ頭で、黄色のシャツに赤いスカート。


 この前と服装は多少違うが、真穂と自分で名乗ったからあの時と同じあやかしか。


 美兎と目が合えば、真穂はへにょんと眉を下げた。



「お姉ちゃん……真穂のおすそ分け、迷惑だった?」



 今にも泣きそうな表情に、美兎はさすがに慌ててしまう。



「め、迷惑、じゃなくて!! ちょっと、色々思うことがあって!!?」

「おや、お久しぶりですねえ、真穂さん?」

「火坑さん、お知り合いですか!?」

「ええ。彼女はあやかしだと有名ですよ? 座敷童子はご存知ですか?」

「ざしきわらし?」



 なんとなく、だが聞いたことがある気がした。


 幸運がどうのこうの言っていたので、相手にいいことを与えていく妖怪だと。美兎がそう口にすると、火坑もだが真穂も手を叩いた。



「ふふ。真穂の目に狂いはなかったわね?」



 そうして、子供らしい雰囲気が抜けて、もっと大人びた雰囲気になってしまったのだ。


次回は月曜日〜

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