表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/204

第4話『姫竹の天ぷら』②

お待たせ致しましたー

 次……次、へと口に入れてしまう。


 今まで口にしてきたタケノコももちろん美味しいが、この姫竹と言うタケノコはまた違う。タケノコの天ぷら自体をあまり食べてこなかったせいだが、旨味が違うのだ。



「……美味しいです」



 最後のひとつまで美味しくいただいてから、ジェイクは火坑(かきょう)に頭を下げた。



「いえいえ、お気に召していただけたなら何より。それではひとつ、姫竹で牡丹肉の味噌鍋はいかがでしょう?」

「賛成ー!」

「……ぼたん肉??」

「イノシシの肉のことだよ、ジェイくん」

「! イノシシ……」



 日本育ちの吸血鬼であるジェイクだが、まだ数える程度しか口にしたことがない。山の幸ではあるが、気弱なジェイクでは本性に戻っても倒せるかどうか。それを、自分達あやかしよりもひ弱な人間が狩猟出来るのもまた凄いと思う。


 もともと準備していたのか、カウンターの向こうからすぐにお味噌のいい香りがしてきた。



(……香ばしい……これは、赤味噌?)



 名古屋に移住してきてからは、口にしたことがないわけではないが……味噌汁よりは味噌煮込みうどんの方が好きだった。


 独特のクセに辛みがあるが、うどん仕立てではない鍋は初めてだ。かつて、両親と過ごしていた時は京都だったので、味噌鍋などはあまり口にしたことがなかった。



「きょーくんの料理は何だって美味しいよね?」



 また瓶ビールを追加していた隆輝(りゅうき)は、楽しそうに飲んでいた。彼を見ていると、少し飲めるのを羨ましく思うが飲むと人格が変貌してしまうジェイクは控えておかないと。



「ありがとうございます。しかし、イノシシもですが。この姫竹は取るのに命懸けだと一部の地域では言われているんですよ」

「……タケノコなのにですか??」

「ジェイクさんは、タケノコがどのような場所にあるかご存知ですか?」

「……お恥ずかしいですが、あまり」

「こちらは通常のタケノコより、細長く……少し背が高いんです。そして、葉は熊笹と呼ばれるくらい竹でも低い位置に群生しているんですよ」



 火坑の話はこうだった。


 奥地に多く群生する姫竹は、時期になると熊と遭遇するような地帯で自生するらしい。それを覚悟してもその土地の人間は姫竹を収穫するのに山に入るそうだ。わざわざ、命をかけて。



「……その方々のお陰で、こうして……僕も食べられる」

「その通りです。人間が命……あるいは心を込めて、勇気を出して相手に自分の気持ちを打ち明けたんです。その勇気を無駄にするようなことは……相手に失礼ですよ?」

「きょーくんも、ちょっと臆病だったもんね?」

「……お恥ずかしいことですが」



 と言って、隆輝の前にも出してくれた小鍋は……肉も姫竹もたっぷり入った味噌鍋があったのだ。



「……美味しそう」

「締めは、名古屋らしくきしめんを考えています」

「さっすが、きょーくん!」



 ジェイクは、かつてのライバルでも……相談を持ちかけて良かったと思えた。

次回はまた明日〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ