第6話 再びケサランパサラン
お待たせ致しましたー
兄の海峰斗もどうやら猫人の火坑には文句も言うつもりはなかったようで。しかし、両親には当分の間はお互いの恋人の本性を言えないな……と黙っておくことにした。
帰る前に、いつも美兎が頼む火坑お手製の梅酒をお湯割りで締め括り。
「これどう作んの!? 教えてもらえない!!」
と、妹よりもどハマりしてしまったのだが。
「そうですねえ? 材料の一部が少々高値ですが」
「やっぱり、こう言う味にすると手が込んでたりとか??」
「うーん。僕も師匠に教わったのを自分なりにアレンジしたとかもありますね? お酒は焼酎もしくはホワイトリカー。砂糖は氷砂糖よりは黒砂糖。あと、風味漬けに杏と高麗人参を入れてます」
「……あの漢方とかでよく聞く?」
「私も初めて聞きました!」
「あとは寝かす時間もですね? 今飲んでいただいたのは十年ものですし……若い女性には喜ばれるので、梅の旬には大量に仕込んでいます」
『十年!?』
「人間の時間だと、結構長いわね〜??」
真穂達あやかしにとっては、大した時間ではないにしても……美兎や海峰斗達人間にとっては人生の半分近くもかかるくらいの長い時間。
彼らと本当の意味で結ばれて、彼らと同じ時間を生きる事が出来るようになるかは……美兎はまだ自信が持てないが、海峰斗はどうだろうか。あとで聞いて、教えてくれるのか。
梅酒を飲みながら、少しそんな事を考えてしまった。
去年のクリスマスに、一度とは言え拓哉とすれ違った事で……傷口が開いた。もちろん、すぐにブラックサンタクロースや火坑に出会った事で落ち着きを戻したが。もし……次出会ったとしたらどうなるか。美兎には、はっきり言ってわからない。
(でも……今はひとりじゃない……)
火坑もだが、真穂達もいてくれる。他のあやかし達もだ。彼らが支えていてくれるから、今の美兎がいるのだ。がむしゃらに走って生き急ぐ理由はもうどこにもなかった
「う〜ん……十年かぁ。俺どーなってんだろ??」
「心配なら、真穂が養ってあげるわよ〜?」
「それは魅力的だけど、ダメ! 俺は店長にも負けないスタイリストになるんだからな!!」
「ファイト〜」
兄もいくらか悩んではいるが、迷いながらも夢は変わらないらしい。そう言えば、彼が専門時代の頃に髪を切る以外のヘアスタイルは海峰斗がやってくれた。あの頃は、少しばかり髪型を誇らしく思ったものだ。
梅酒を全員で飲み終えた頃に、楽庵から出ることになり。火坑はまだ仕事があるので、入り口で見送りに来てくれたのだが。
「……雪??」
海峰斗が外に出た途端、声を上げたのだが。
全員で外に出た途端、それは違うと真穂や火坑が声を上げた。
『ケサランパサラン……』
「え、これが!?」
「……なんで??」
名城公園の時もだったが、界隈でケサランパサランを見るのは初めてだった。
美兎もだが、海峰斗も手を伸ばしてみると溶けることのない綿毛はすぐに二人の手に降りてきた。
「ふわふわ……可愛い!」
海峰斗は初めて見るので、子供のようにはしゃいでいた。
美兎もツンツンと指先で触れても、今回は弾けることはない。
「不規則とは言え……美兎とかを気に入ったからかもしれないわね?」
真穂が小さく笑いながら、美兎の顔を覗き込んできた。いつもより年齢を上げているせいか、彼女が美兎をかがんで覗き込む形になったのが少し不思議だ。
「気に入った?」
「あんたにはまだ言ってなかったけど……あんた達湖沼の人間には、あやかしの血が混じってんの。真穂があんた達に近づいたきっかけはそれ」
「は……えぇ!?」
「言ってた言ってた。サトリってどんな妖怪?? 俺とか美兎にも血縁があるかもって」
「お兄ちゃん知ってたの!?」
「真穂ちゃんと付き合う時に聞いた」
「あんたにも今日くらいに言うつもりだったの。けど、霊力以外はあんた達の妖気は微々たるもんよ?」
「えぇえ!?」
火坑を見ても、彼は苦笑いしているだけだった。
知っていても、いつ言うかタイミングを見ていたかもしれない。けど、不思議と嫌には感じなかった。彼と、真穂達とも心を通わせたお陰か。
「まだ生きているわよ? あんた達の先祖は。いつか会えるかもしんないわね??」
真穂がそう言いながら、ケサランパサランの雨の中でくるくるしていると……一種の幻想的な風景に見えた。彼女があやかしだからか、触れても弾けることがなかった。
「俺達のご先祖か〜?」
「会える……のかな?」
「会えるかもよ? この先、生き続ければ」
「! そうだな!」
海峰斗は会う気になったのか、真穂に抱きついた途端……いくつかのケサランパサランが弾けた。
「会えますよ、いつか」
美兎の隣にも火坑が来ると、今度はにこにこと微笑んでいたので美兎もつられて笑ってしまう。先祖に合うとかはともかく、この先も隣にきたあやかしと過ごしたいからだ。
次回は日曜日〜




