第3話 宴の後
お待たせ致しましたー
その表情はとてもご機嫌さんだった。
「香取さん、いらっしゃい。美兎の写真で見たよりもいい男じゃない? お父さんは心配し過ぎ」
「……そう言う母さんだって。美兎が話題を持ってきた時は疑ってたじゃないか?」
「まあね? けど。わざわざ手料理を持って来てくれたのよ? 出来る人じゃない」
「まあ、そうだが」
「あ、こちらの荷物ですが」
火坑が居間の真ん中に置いた時に、部屋に何か取りに行ってた兄が戻って来た。
「お! 香取さんの手料理?」
「普段は小料理屋を営んでいますが。せっかくのお呼ばれなので、色々作ってみました」
そして、風呂敷包みから出てきた重箱は。テレビとかで見たような、綺麗な漆塗りの。一番上の蓋を開ければ、出て来たのはサーモンピンクが美しい鮭の押し寿司だった。
「うっわ!? すっげ!!」
「蓋には保冷剤まで。……こんな綺麗な押し寿司。会社の会食でも滅多に出ないぞ?」
「あら〜? お寿司取らないで正解ねー? わざわざありがとうございます、香取さん」
「すっごいです!」
「ふふ。表面は鱒寿司と似ていますが。内側には僕手製のいくらの塩麹漬けが隠れているんです」
「手製!?」
「おお!!?」
「お父さん達いくら大好きだものね?」
「はい。美兎さんから伺ったもので、入れてみたんです」
LIMEでやりとりしてた時に聞かれたことを取り入れてくれるとは、さすがは火坑だ。
他の箱には、猪肉の角煮だったり。豆鯵の南蛮漬けだったり、野菜は普通のお浸しかと思えば、と。
食べる前から湖沼家一同を喜ばせてくれたのだった。
「あらあらあら。お母さん、負けちゃいそう。美兎? あなたも自炊とかちゃんとしてるの?」
「……一応」
「ふふ。週に二日くらいは、僕の店に来てくださいますしね?」
「まあ。これだけ美味しそうなお料理に夢中になるのもわかるわ。さ、お酒も今日は解禁!」
「ひゃっほぅ!」
「香取さん……いや、響也君。飲もう!」
「是非」
と言うわけで、半分は火坑の料理に魅了されたことで受け入れてもらえたのだが。
昼に宴を開いたのに夜まで続き。終いには、本来人間ではない火坑が男性二名を酔いつぶしてしまったので。
火坑は介抱。美兎と母親で片付けをすることになったのだ。
(……よかった。無事に紹介出来て)
元彼のせいで、美兎の恋愛事情については散々だったが。それを凌駕する程の素晴らしい存在である火坑がいてくれたお陰だ。
どこまでも真摯で、相手を気遣ってくれている。妖怪であれなんであれ、好きになってよかったと、美兎は本気で思っている。
「いい人を見つけたじゃない?」
重箱の水滴を拭いながら、母が声を掛けてくれた。
「……うん。すっごくいい人だよ」
「あなた、自分の夢に突っ走ってるから男運全然だったのに。合格点過ぎるわ。顔よりも中身ね? 海峰斗よりも年上なのに、ふてぶてしくもないし。やっぱり、自分のお店を持っているからかしら?」
「……そうかも」
実際は人間じゃない、二百年以上も生きている猫の頭と体毛に尻尾を持つ妖でがあるが。その前の生では、地獄で補佐官の一人として務めていた。
目まぐるしい生き方をしていたせいか、あのように落ち着きが出ているのだと思う。
ただし、美兎のこととなると積極的になる愛らしさがあるが。猫顔であれ、響也の顔であれ。どちらも美兎にとっては愛すべき存在だ。
「お料理もお母さん負けちゃったわ。家庭料理に近いように見せてくれてても、手が込んでたし。冷めてても美味しいのがすごいわ」
「うん。常連さんも多いよ?」
「いいわねえ? 一度くらいお父さんと行ってみたいわ」
「え、うん」
「あら、どうかした?」
言い出すと思っていたが、大丈夫。
火坑と打ち合わせした内容を伝えるまでだ。
「えっとね? お母さん達って、目の前で食材捌くの見るのとか苦手??」
「あら、そうね? 小料理屋さんだったら、そうだわ。お料理美味しくて、ついつい聞きそびれていたわね?」
「うん。で、結構エグくて私もまだ正面から見れないんだけど」
「そうね……。私はちょっと……お父さんは多分ダメね? 映画とかの流血表現が少しダメだから」
「ああ……」
だから、昔アニメでも血が出てるのをPVとかでも観たらビクッとしたわけか。
とりあえず、火坑からは店に連れてくる前にその話題を出してから様子を伺えと言われたので。この様子から見るに来るようではなさそうだ。
「多いのは何を使うの?」
「えっと……スッポン」
「スッポン!? 美味しいの?」
「美味しい美味しい!! 実は最初にご馳走になった、スッポンの肝の雑炊がすっごく美味しかったの!!」
「へ〜〜??」
「あの〜、お話中すみません」
料理の話題に華が咲き始めたら、火坑がこちらに顔を出したのだ。
次回は月曜日〜




