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第6話 高額の欠片

お待たせ致しましたー

 湖沼(こぬま)美兎(みう)と言う人間は、猫又である氷見子(ひみこ)には好ましく思えた。決して威張らず、誇張せず……ただただ、謙遜しているような。


 とにかく、元補佐官であった猫人の火坑(かきょう)と恋仲であるのに、堂々とはしていないが……なんというか控えめな態度でしかない。


 氷見子にも、初対面だからか馴れ馴れしい態度は取らない。人間の年齢でも成人しているのに、どこまでもいじらしく愛らしい。


 これは、稀代のあやかしの子孫だと思うしかない。美兎が気づいているかはわからないが、氷見子は知っていた。彼女の先祖が何であるかを。



(能力は受け継いでいないが……まさしく、(さとり)御大(おんたい)の子孫……)



 幾度か、彼の妻は垣間見たことがある。色彩の差はあれど、その妻と瓜二つなのだ。この湖沼美兎とやらは。


 最初ほんの少し、彼女が鞍替えしたかとも思いかけたが……霊力や妖気の質の違いに、そのような阿呆な考えはすぐに捨て去った。


 今は、観客用の特等席で、火坑と一緒に氷見子が淹れてきたコーヒーと茶菓子を楽しんでくれている。齢が二桁でもさらに幼いでいる人間でしかないのに、横顔からでもわかる『美味しい』には嬉しくなるものだ。



「金額で言うと、十数万はまだ安い方ですよ?」

「え!? そうなんですか!?」

「心の欠片次第ですが……僕の見解だと、美兎さんのは百万いってもおかしくありません」

「ええ!?」



 人間にとって、心の欠片は紙幣に次ぐ代金としか認識がないようだが。


 人間を喰らう事を止めるのが増えてきた現世で。魂のひと欠片程度でも……人間の一部を喰らえるあやかしには至高の逸品だ。霊力やあやかしと交わっても、魂は人間のままでいる存在の彼らの欠片は美味だ。


 氷見子ももちろん購入する側だが、酒に良く合う。実は美兎のも幾度か食したことがあるが、本当に酒の肴によく合うのだ。最初は塩辛く、最近は甘い。


 欠片の味は、持ち主だった者の心の状態でだいたい決まる。甘いのは……この猫人についてだろう。今は一緒にいるが、人間があやかしと交際するのにはいくらか障害がある。その想いが、欠片の味に出たかもしれない。



「美兎ちゃんと言ったかい?」



 とりあえず、驚き過ぎている美兎に氷見子は声をかけた。彼女は、くるんと可愛いらしく振り返ってきた。



「は、はい?」

「あんたの心の欠片のだが、去年火坑の旦那んとこから買い取りしたのは……どれも一級品で片付けられない。あちきら、あやかしに取っては極上の品揃いだったよ? あの奥のダイアモンドのように輝いているのを見てご覧?」



 氷見子は煙管をふかしながら、美兎に少し奥の心の欠片を見るように促す。氷見子もだが、この買い取り場で初めて美兎のを買い取ったあやかし一同は……思わず拝んだくらいだった。


 それだけの価値ある欠片は、ここ数百年氷見子も目にしてはいない。



「あんな、綺麗なのが……私の??」

「そうさね? そろそろ……競りにかけられるはずさ」



 と言っていたら、司会席の白夜(びゃくや)がそれを術で引き寄せてきた。



「さあさあ、お待ちかね!! ここからは、楽養から暖簾分けされた楽庵(らくあん)の心の欠片!! いい欠片がありますよ!? こちらは湖沼の御人!! まずは、百万から!!」



 だいたい、氷見子の予想の金額が出てくると、美兎の方は飲んでいたコーヒーで盛大に咽せてしまった。



「そ、そそそ、そんな価値が!?」

「だから僕は言ったんです。売り上げにすごく貢献していただいていると」

「下手すりゃぁ、霊夢(れむ)の旦那んとこ以上じゃないかい?」

「……えぇ!?」



 己の価値を、他で評価されると意外しか思わない。


 強欲なのはあやかしもだが、人間でこのように欲のない存在は珍しいだろう。


 二人は、競りの前半を観てから帰って行った。



「また今年も御贔屓に」



 美兎もだが、他にも美作(みまさか)と言う人間のも少ないがあった。美兎には劣るものの、それなりに強い霊力の持ち主。


 その人間の欠片は、競りでも最高値は百万だった。

次回は土曜日〜

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