知ってる様で知らないⅡ
「まだ戻って無いのか」
台に置かれた『すぐ戻ります』のメッセージを見て若い女は言った。
「あれからずいぶん経つぞ…?一度戻ってまたどこかに行ったのか??」
胸で腕を組み、両足を広げて仁王立ちだ。
道ゆく人達は何事かと若い女の方を見ては去って行く。
「…」
若い女は、購入を決めた剣以外のものも眺め始める。
「しかしこうやってみると、なかなか良い品が多いな、あの青銅の剣はどうにもならんが…」
青銅の剣自体、需要がない上、作りが甘く、あれでは物を切るなど不可能に近い様に見えた。
「祭り用にしても微妙だな、魔法剣なのか??」
可能性を口にしては納得出来ずに首を傾げる。
「作者テムロエヌドバラシャーテだと?じい様はいつの間にこんな駄作を??いや、絶対違うだろ…」
「申し訳ありません〜!まさかお客様がいるなんて…じゃなくて、お手洗いが混んでまして!お待たせしました!」
そこに、勢いよく戻って来た店員の女が割り込んでくる。
「ああ、いや、人も多いし…それより、この剣なんだけど」
そう言ってなまくら剣を指さすと、店員の女の表情がみるみる明るくなっていった。
「まあ!」
「いや、まあ、じゃなくて、これってほんとに作者はテムロエヌドバラシャーテなのか?」
「え?」
「テムロエヌドバラシャーテはこんな青銅品は扱わないはずだけど?」
「それは私も思いました。ですが、実は当店のオーナーがテムロエヌドバラシャーテの工房に伺った際に直接取引したようなのです」
「へ?」
「え?」
「あ、いや、へえ?…」
「はい…」
「…」
喧騒の中、奇妙な空気が二人の周りに生まれる。
「ウォン!」
若い女の横に大きな黒い犬がやって来て、なまくら剣に向かって吠え出した。
「ウォン!ウォン!」
「こら、やめないか…すみません、コイツ使えない武器に吠える癖があって…」
「つ、使えない武器…」
「ウォン!」
「あああ、すみません。鍛えがいのある武器に対してというか何というか」
「いえ…いいんです、そちらの武器はもうずっと売れてなくて…。どんな武器でも、必要としてくれる方はいると思うんですけど、その子は中々…」
店員の女は寂しそうな顔をしてなまくら剣を見つめていた。
「あんた…。こういう、中古品とも言えない何とも言えない武器は沢山あるのか?」
「え?は、はい、ここに出してるのはとびきりのやつなので、まだ店舗にはたくさん。数にすれば100はあると思います」
「何でそんなに集めてるんだ?」
「オーナーが変わり者でして…。普通の方にはあまり、いえ確実に需要がない物ばかり好んで買って来るんです。でも、オーナーと同類…、いえ理解して頂ける方が実は結構いまして、そういった方の為にもオーナーはかなりとんがった品を仕入れてくる事が多いです、悪循環と言いますか…その中でああいった、使いようのない武器がやって来るんです」
「なるほどな…。あんたも大変だな。良かったら俺に、その使いようのない武器を全部売ってくれないか?」
「え?」
「オレもそのオーナーと同類なんだと思うぜ」
「…本当に?」
「ああ」
「なんて事!すぐ、準備します!店舗の方で品を確認してもらって…」
「ああ、いいよ。ザーブっていう奴が後で行くから。品もそいつが全部持って帰る。支払いはここに請求してくれ」
そう言って小さなメモを渡した。
「は、はい…!」
店員の女はなまくら剣を改めて見た。
「良かったわね、やっと、やっと買ってくれる人が見つかったわ!」
その様子を、若い女は微笑ましく見ていた。