表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

フリーマーケットⅡ

なまくら剣は、心躍っていた。

「人がいっぱいいる…」


「今日は誰かがボクを買ってくれるかもしれない…」

前の道を通る誰もがその可能性を秘めている。なまくら剣はそれを考えただけで胸が満たされていくのだった。


「めでたい奴だな」


なまくら剣の前に、強者たる元勇者が立っていた。


「き、君は…!こんな所にまで着いてきて、ボクをいじめようって言うのかい」

「おいおい…、冗談じゃねぇぜ。服の落とし前はどうしてくれんのか聞きに来ただけさ。誰かに買われちまったら、もう回収することも出来ねぇ」


「き、君は…!本当に勇者だったのかい!?落とし前とか回収とか…言ってる事が悪徳商人だよ!」

「俺をそういう目で見るな。見方を変えてみろ、元勇者だと思うから今がひどく見えるだけさ」


「…」

「な?」


「汚い髭の情けない男にしか見えないよ」

「お前はそんなに俺に消されたいのか」


店番である店員は、今は席を外していた。手書きの『すぐ戻ります』という紙が小さな会計台に置かれている。

道ゆく人はそれをお知らせとして読んでは去っていく。


「ほら、あの子がこっちを見てる。どいてくれないかな、チャンスなんだ」

「…」


なまくら剣は、店員によってフリーマーケット用に設置された棚に立てかけられていた。

店の中では、上にも下にも棚があるが、ここには無い。

不思議な心地よさがなまくら剣を襲い、思うがままの声が溢れてくる。


「凛々しく…見る者を魅了するように。その手にボクを取りたくなるように」

なまくら剣は呪文の様に呟いた。

「…」

男はおもむろになまくら剣を手に取った。


「って、君じゃないよ!」


なまくら剣の望み通りに手に取った元勇者は、不満げだ。

「お前の声など普通の人間に聞こえるものか」

「そ、そんな言い方ないじゃないか。もしかすると本当の勇者がここにいて、聞こえているかもしれない!」


「なんだ本物って。まるで偽物がいるような口ぶりだなぁおい?」

「…」

元勇者に持ち上げられているなまくら剣は口を閉ざす。強者である元勇者は、そのままなまくら剣を振り上げた。


「わあああ!!」


なまくら剣は悲鳴を上げた。


「なんて声出しやがる…!」

元勇者は片耳を塞ぐのも間に合わず顔をしかめた。


「君は、君はなんて乱暴なんだ!!」

「乱暴?振っただけだろうが、とんだなまくらだな、お前は。そんなんじゃその辺のモンスターも切れないぞ」


「よ、余計なお世話さ!」

「そんなんでどうやって勇者になるんだ?モンスターも切れないなまくらで?」

元勇者はここぞとばかりに責め出す。


「ボクは…ボクは…」

「こないだの服の件もどうなったんだかな?」


「うわあああ!君は最低な元勇者だ!」

なまくら剣は再び叫び、元勇者はなまくら剣を振り上げたままニヤつくのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ