フリーマーケットⅡ
なまくら剣は、心躍っていた。
「人がいっぱいいる…」
「今日は誰かがボクを買ってくれるかもしれない…」
前の道を通る誰もがその可能性を秘めている。なまくら剣はそれを考えただけで胸が満たされていくのだった。
「めでたい奴だな」
なまくら剣の前に、強者たる元勇者が立っていた。
「き、君は…!こんな所にまで着いてきて、ボクをいじめようって言うのかい」
「おいおい…、冗談じゃねぇぜ。服の落とし前はどうしてくれんのか聞きに来ただけさ。誰かに買われちまったら、もう回収することも出来ねぇ」
「き、君は…!本当に勇者だったのかい!?落とし前とか回収とか…言ってる事が悪徳商人だよ!」
「俺をそういう目で見るな。見方を変えてみろ、元勇者だと思うから今がひどく見えるだけさ」
「…」
「な?」
「汚い髭の情けない男にしか見えないよ」
「お前はそんなに俺に消されたいのか」
店番である店員は、今は席を外していた。手書きの『すぐ戻ります』という紙が小さな会計台に置かれている。
道ゆく人はそれをお知らせとして読んでは去っていく。
「ほら、あの子がこっちを見てる。どいてくれないかな、チャンスなんだ」
「…」
なまくら剣は、店員によってフリーマーケット用に設置された棚に立てかけられていた。
店の中では、上にも下にも棚があるが、ここには無い。
不思議な心地よさがなまくら剣を襲い、思うがままの声が溢れてくる。
「凛々しく…見る者を魅了するように。その手にボクを取りたくなるように」
なまくら剣は呪文の様に呟いた。
「…」
男はおもむろになまくら剣を手に取った。
「って、君じゃないよ!」
なまくら剣の望み通りに手に取った元勇者は、不満げだ。
「お前の声など普通の人間に聞こえるものか」
「そ、そんな言い方ないじゃないか。もしかすると本当の勇者がここにいて、聞こえているかもしれない!」
「なんだ本物って。まるで偽物がいるような口ぶりだなぁおい?」
「…」
元勇者に持ち上げられているなまくら剣は口を閉ざす。強者である元勇者は、そのままなまくら剣を振り上げた。
「わあああ!!」
なまくら剣は悲鳴を上げた。
「なんて声出しやがる…!」
元勇者は片耳を塞ぐのも間に合わず顔をしかめた。
「君は、君はなんて乱暴なんだ!!」
「乱暴?振っただけだろうが、とんだなまくらだな、お前は。そんなんじゃその辺のモンスターも切れないぞ」
「よ、余計なお世話さ!」
「そんなんでどうやって勇者になるんだ?モンスターも切れないなまくらで?」
元勇者はここぞとばかりに責め出す。
「ボクは…ボクは…」
「こないだの服の件もどうなったんだかな?」
「うわあああ!君は最低な元勇者だ!」
なまくら剣は再び叫び、元勇者はなまくら剣を振り上げたままニヤつくのだった。