なまくら剣
『ダラー武器店』に並べられた武器は、全て店主であるダラーが仕入れているものだ。
安価で知られるこの店が取り扱っているのは、中古品と、製品としては失敗作と評される物、それと試作品だった。
客はそれを知った上で購入して行く。
そしてこの『ダラー武器店』の中でもとびきりの”なまくら”と呼ばれるのが、「店に入って左側奥にある部屋、緑の棚の上から3段目、左端から2本目」だ。
人間の胴程の長さの短剣で、剣の横に立てられた小さな札には、鍛冶匠・テムロエヌドバラシャーテが作った物だと説明書きが添えられている。
剣だけではなく、手広く鍛冶を行う彼の長ったらしい名前は大陸一帯に響いており、またその製品の完成度の高さ、確かさでも有名であった。
そんな彼の代物が中古の武器店にならぶ事は通常、無い。中古品として並ぶとしても、飾られるのは客の目に届きやすい場所であり、けして店の奥のにある”捨て値部屋”に置かれる代物ではないのだ。
「仕入れ値はタダ同然だからな、売れたらそれだけでもうけだ」
店主の男の声が部屋に響く。
「けどこの数カ月、1本も売れてません」
続く女の声。
「そ・こ・が、販売員であるお前の腕の見せ所だろうが。5本売ってみろ。そしたら今度の仕入れに連れてってやる」
そして扉に向かう足音がし、扉が開く音がした後、閉じる音が響いた。
「…もう…。無理に決まってるじゃない、こんなガラクタの剣達なんて。せめて鍛え直すとかすれば…。でもそんなお金なんて無いし…売値は変えちゃいけないし…って言ってもこれ以上下げたらタダ同然で売る価値も無いわね…」
残された女は独り言を漏らしながら部屋の中を歩き回る。時々、”ガラクタ”を手に取っては眺め、また棚に戻す音を立てる。
「これは名前だけ見れば売れそうなんだけどな、さすがに青銅製はね…」
女が見ている剣は、剣先をまっすぐ上に向けて棚に立てかかっている。
「でもおかしいわね。あのテムロエヌドバラシャーテがこんな銅の剣を作るなんて、何があったのかしら?昔の物にも見えないけど…。お孫さんが作った物が誤ってテムロエヌドバラシャーテ作品として世に流れてしまったとか?それとも本当は偽物?うーん、偽物って言われた方がしっくりくるわ…」
棚に戻した後も、女は剣の前で呟き続けた。
チリンー。
遠くから、客が店員を呼び出す合図の鈴の音が聞こえる。
「はーい!!」
女はとびきりの大声を出して"捨て値部屋"から小走りで出て行った。
テムロエヌドバラシャーテ作とされるそのなまくら剣は、捨て値部屋の棚にあっても心は常に誇らしく、いつか自分を手に取り外に連れ出す人間を待っている。
なぜなら、そのなまくら剣には夢があるからだ。
勇者になるという、夢が。