出会い
薄暗く埃っぽい部屋の中で、男の声だけが空気を震わせている。窓の外は清々しい程に天気が良く、そこから差し込む光が埃をくっきりと映し出していた。
「何、どうしてくれんのさ?」
「…」
「この服高かったんだよね」
「…すみません…」
「弁償してくれんの?」
「…今は持ち合わせが…」
「てか金持ってんの?」
「いえ…」
「じゃあどうするつもりな訳?」
「…ボクにはどうする事も…」
「…なめてんの?」
「…ううっ…」
弱者たる子供の声が静かに漏れ続け、強者である男の深いため息がそれに絡む。
「おいおい…泣く奴なんて初めてなんだけど?」
「ううっ…あなた様は勇者ですよね、勇者がこんな…」
「も、と、だ。元。今は勇者でもなんでもねぇ」
強者たる男は、だらしなく生えた無精髭をなでながら言い切った。
「そうですよね、その外見から勇者だと思う人は誰もいないでしょうけど…」
「ああ?」
強者たる男は弱者の少年に触れるくらい顔を近づけて威嚇する。
「ひっ。やめて下さいよ」
弱者は情けなく声を出す。そんな様子に、強者は顔を離してはまた深くため息をつくのだった。
「どうしてこんな人が…」
弱者たる子供は、離れた強者をその身に映しながら言い、それに対し強者は睨みつける。
「どうしてこんな人が勇者なんだ!ボクだったら…ボクが勇者になれたら…」
強者の視線が鋭くなっていく。
「今すぐ悪者を退治しにいくのに…!」
弱者が絞り出した言葉に、強者の視線は突然緩み、そしてバカにしたように笑いだした。
「お前…本気で言ってんのか?めでたい頭してんな」
強者は棚に立てかけられた弱者に向かって吐き捨てると、踵を返して遠のいて行く。
部屋の出口である扉が開く音がして、そして閉じる音がした。
無音となった部屋で再び、足音が弱者に近づく。
「あの人…独り言すごかったわね…」
弱者に、背の高い女が映り込んでいた。
「このなまくら剣、買ってくれるかと思ったのに…」
呟いた女の左胸には『ダラー武器店』の小さなプレートと、『マール』というプレートが付けられていた。