第九話 おや、怪しいぞ?
はい、連続投稿おわり。ストックが無くなりそうだから(´ω`)
読んでくれてる方、とてもとても、ありがとうございます
中心から円形に人の群れが出来ていて、校門に居た先生方もその一員となって様子を窺っている。
事の発端は知らないが、中心に居る人物をみればおおよその検討はつく。
トファリ姫と身なりの良い男――早速トファリ姫にアピールと言った所だろうか。
我々貴族の男子の中には、トファリ姫から見初められる為だけに学園に通おうとしている者が少なからず居るはずで、あの男もそうなのだろう。
家柄からそこそこ顔見知りは居ると思っていたが、俺も知らない奴だ……となると、王都に住んでない離れた土地から来た奴の可能性がもある。
トファリ姫の噂は他国にも広がっている程だから、あの男が知らないとも思えないが、噂を半分程度にしか信じてないのだろうか。じゃなければ堂々と真正面から戦おうとは思わない、普通なら。
「トファリ様、わざわざ学園なんて通わずともこの私が貴女に相応しい夫となりましょう」
「……誰ですか? 貴方は」
「こほん。私は東の辺境伯リードル家が嫡男、ワーテルでございます」
「そうですか。では、ワーテル様……早速、試させて頂いても宜しいですか?」
貴族の男子なら知っている筈だ。最も早くトファリ姫の夫となる方法――ただ、勝つこと。
だが、それが難しいからあの手この手で貴族の親が贈り物を持って、自分の子供を紹介していたのだ。それが最も安全だからという理由で。
それがこの学園に置いて、トファリ姫は挑んで来る者に対しては一切の責任を負わないと言ってしまっている。
「ふはっ、私の魔法の威力……ご覧、に……?」
――空気が揺れる。トファリ姫がたった一歩、踏み込んで駆け出す。
魔力を淀みなく足に集中させ、踏み込んだ一歩で二人の距離は殴り飛ばすのに丁度良い距離感となる。
「私、誰が相手でも勝負事で手を抜くのは失礼と思っているから」
その速さについていけた者がどれだけ居るだろうか。俺でも完全には反応出来ていない。いつもストレス発散の相手をしていたお陰か……考えるより先に体は反応していたが。
群衆がまだトファリ姫が元々居た位置に視線を向けている中、俺はトファリ姫の振りかぶった拳に未だに反応出来ていない男の前にバリアを発動させた――。
バリバリバリィィィ
耳を劈く破裂音。自分の体より距離が遠くなるとちょっとずつ弱まる俺のバリア。まだ、ギリギリ耐えたみたいでホッとした。
「ひ、ひっ……」
「まぁ、勝負を邪魔するなんて無粋ではありませんこと?」
「もうしないさ」
群衆の中に紛れているのに、トファリ姫の瞳が俺に向けられる。仕方なく中央に向かって歩き出した。
確かに勝負の邪魔をするなんて無粋だし、誰にも得の無い結果としかならないが、流石に戦いとは無縁そうな人達も居る中で流血沙汰となってしまえば、せっかくの入学式が最悪な思い出になってしまう。
「皆さんに言っておきますが、トファリ姫に勝負を挑むのは自由です。罪には問われません。しかし、勝負を挑まずに毒物を用いて危害を加える事は立派な犯罪で、未遂であれその家族共々死刑となります。それだけは注意を!」
「ちょっと! そんな事言ったらみんな怖がっちゃうじゃない!」
「俺のリスクを減らす為だ……学園での俺の役目はやりきるからな」
「せっかく自由に動けると思ったのに!」
群衆が次々と離れていき、気が付けばトファリに挑んでいた男も去っていてトファリ姫と二人になっていた。
「お前に完全な自由なんてあるかよ……まぁ、俺がするのは食事の世話だけだ。そういう意味では今までよりずっと自由だろ?」
「それはそうだけど……こう、何て言うのかしら……ほら、物語に出てくるお姫様って拐われると、王子様とか騎士様が助けにくるじゃない?」
「ん? まぁ……そうだな?」
「そういうトキメキ? を求めているのよ、私は! この学園で!」
「ハハッ、誰がドラゴンを拐えるんだよ……ブベッ!?」
ビンタされた。
トファリ姫は人を惹き付ける。揺れる金髪、深紅の瞳、綺麗な姿勢……物怖じしない性格は格好良い。その上で美形でカリスマ性すらある。んで、強い。
これだけ魅力があるからこそ、お見合いが次々と舞い込んで来ている訳だが……恋に恋するトファリ姫の謎の『乙女心』が全てを台無しにしてしまっている。
トファリ姫自身が強くなればなる程に、理想までもが高くなってしまっている。
「お前さ、すぐ手を出すとこ直した方が良いぞ……ご令嬢達のお茶会に呼ばれないのは我慢が足りないからだろ」
「うるさいっ! だいたいお茶を飲んで『ウフフ』って笑ってる花を愛でてる時間があるなら訓練した方がマシでしょ」
「淑女みが足りてないよ、淑女みが! お前は知らないだろうけどな……王子様や騎士様はな、みんながみんな花を愛でてる様な女の子が好きなんだぞ?」
「……なん、ですって……嘘でしょ?」
よし、ちょっと凹ましたから俺の頬のダメージとトントンとしておこう。
だが実際、トファリ姫に婚約者が居なくて同世代の他の女の子に次々と結婚相手が決まっていくのはそういう理由も大きいと思う。
まぁ、貴族なんて政略結婚が多いからみんながみんな相手に満足しているとは思わないけど。
「……こほん。トファリ姫、入学式の時間がせまってますから寮に行ったら遅れずに校舎内の大広間へお願いしますよ」
少し気を緩め過ぎたとローブのシワを伸ばして、気持ちを切り替える。
護衛と認識されるのは良いが、親しげと噂されるのは状況を考えるとあまり良くない。貴族の嫉妬は厄介だからな。
「男って……みんな……そうなの?」
騙され易いのもちょっとした欠点……いや、ピュアと捉えれば美点になるだろうか。どちらにしても、こいつは恋愛にはあまり向いていないタイプには違いないだろうな。
「さっきのはもちろん、嘘だぞ? じゃなきゃ母上が結婚出来る訳がない」
「シューゴ! 一回、ちゃんと殴らせてっ!」
「ははは、バーリア」
そのまま俺は先に入学式の開かれる大広間へと逃げて、そのまま始まるまで椅子に座って静かに待機した――。
◇◇
静まり返る大広間。たった一人の声が聞こえている。
今年の受験生は昨年を遥かに上回り、当然、入学生も増えたらしい。噂では、学園長が国に設備資金をかなり支給させたとか先生を各所から引き抜いたとか、いろいろと。
しかしながら、やはり目玉となるのは何と言ってもトファリ姫だ。本来なら俺達貴族からしても王族にはそうそう会えない。
普通に暮らしている人からすれば、建国祭の時に遠目で見えるかどうかというレベルだろう。それが今、登壇して、入学生代表の挨拶を行っている。
「――この学園に入学できた事を喜び、今後における人生を豊かにしていけるよう精一杯学んでいければと思います。これにて、生徒代表挨拶を終わりと致します」
ペコッとお辞儀をして、降壇する。沸き上がる拍手喝采にも慣れているのか堂々としていた。
「ホッホッホ……学園長のユゼですじゃ」
一人のとても綺麗なエルフがトファリ姫と入れ替わる様に登壇した。ただ、その話し方に違和感を感じる。見た目の美しさはまるで神秘的ですらある。整った顔のパーツに色素の薄い肌、最大の特徴とも言える長く尖った耳……なのに、お婆ちゃんみたいな喋り方をしている。
エルフは長命種だから、人間の感覚とはまた違っているのだろうが、エルフも歳を取れば容姿は変わっていくし、若い見た目でお婆ちゃん口調というのがやはり違和感だ。
だが、その違和感の招待は近くに座っていた他の生徒の会話を盗み聞きして、解消された。
「私、学園長ってお爺さんって聞いたけど?」
「俺は三〇くらいの女性って聞いたぞ?」
(あぁ、そうか――これも、イタズラ好きと噂の学園長の魔法か)
目と耳を守っているバリアの内、目のバリアを外す。すると、柔和な笑みを浮かべているお婆さんの姿が俺の目に映った。
(姿を変える魔法じゃなく、違った姿に見せる魔法……か。無駄に凄いな)
仮に学園もが自分の姿を変える魔法を使っていたのなら、俺のバリアがどうこうという問題では無い。
だが、今回の無駄に凄い魔法は、生徒全体の認識を変えるというもので、だからこそ俺のバリアが対応した訳だ。無駄に凄い……。
そうなるともう学園長のお話は耳に届かず、俺はバリアを使って学園長をただ見て遊んでいた。
そして、入学式は恙無く終わっていった。
「はい、生徒は速やかに教室へ移動してください。教室に着いたら張り出してある席順で座って待っておく様に」
この学園は主に騎士科、魔法科、商業科、冒険科の四つ、多い所でランクの順に上から一組、二組、三組と分けられている。
騎士団や魔法師団の訓練学校が今の学園のスタートらしく、授業内容も座学より実践が主と聞いた。
そして今学年だけ特別に貴族科というものが新設されている。貴族贔屓というよりは、纏めておいた方が楽という学校側の対応だろう。
プライドの高い貴族はもちろん貴族科へと行くだろうし、俺みたいな奴は騎士科のランク別けで一番下のクラスへと入ったり……目的に合わせて貴族もいろいろだ。
これは入学試験の時の面談でそれぞれが希望を聞かれている。魔法がからっきしで貴族と一緒のクラスとか地獄だと考えた俺は、騎士科、商業科、冒険科で迷った末に無難な騎士科が良いと伝えていた。
「……よく見ると他種族も結構居るな」
「シューゴも気付いた?」
「……急に背後から話し掛けてくるんじゃないよ」
「細かい事はいいでしょ? 我が国と親交のある国とはいえ、獣人やほら……妖精族なんて珍し過ぎるわね。人拐いが出てもおかしくないぐらいよ?」
「確かに。これもトファリ姫の影響力だな……持ち込まないでくれよ、厄介事を」
「失敬ね。それと、もう同じ学生なんだから……その、トファリとかお前で、良いのよ? 私もシューゴって呼んでるし?」
たまに可愛い事を言い出すからこの姫は油断ならない。
「時と場合で使い分けるよ」
「ん。まぁ、良いわ」
宿屋のユキちゃんが入学しないという事を知ってから絶望的だったけど、周りを見渡すと種族問わず可愛い子が沢山居るから少しテンションは上がってきている。
いつまでも近くに姫がいると変な目で見られかねないし、早々に離れて貰おうか。ついでに言うと、自分のクラスで友達を作り、面倒を起こさないでいてくれると最高だ。
「トファリ、お前も早く自分の教室に……そうだ。魔法科のカリキュラムが分かったら俺にも教えてくれ、お前の事は全部把握しておきたい」
「ぜ、全部!?」
「当たり前だろ? お前の事を守る為だ」
「…………」
護衛の仕事は単純だ。守るコトが全て。その為には対象者の行動パターンを把握しておくのは当然だ。
放課後の時間を奪うとか、休みの時間を奪うとか、休日を奪おうとしている訳ではなく、知っておけば何かあった時にすぐ行動に移しやすいから。
「えっと、騎士科の三組はこっちか。魔法科の一組はあっちだろ? 終わったら待ってるか、こっちに来てくれ。帰る前に昼飯の用意するから」
「わ、分かったわ」
「……どうかした?」
「ど、どうもしてないわよっ! ふんっ!」
よく分からないトファリは置いておいて、よし俺は俺で青春とやらを謳歌していかないとな。
(ポンちゃんやパピーの話題を持ち出せば獣人の子と仲良くなれそうな気もするし。獣人と獣の関係性は知らんが)
騎士科の教室に向かって自分のクラスに入り、張り出されていた自分の名前が書いてある席に移動した。
すると既に、長机の隣の席に位置する場所に誰か座っていた。
「……(ぷかぷか)」
「――(う、浮いてるぅぅ!? ちょっとだけ浮いてるぅぅ!? 妖精族の子だっ! すごぉぉぉ!)」
羽をパタパタと、絶対にその速さでは浮かないだろうというスピードで動かしている子が浮いている。人よりも小さい背丈の少女が椅子に座っているかと思わせて、ちょっとだけ浮いていた。
(あれも魔法か? ちゃんと座った方が楽だろうに。暇潰しに浮いてるとかかな?)
何をしている訳でも無い隣の席の少女。珍しい種族だから人が集まりそうなものなのに、みんな遠慮しているのかどう接すれば良いか分からないからなのか、妖精族の少女は一人で何もしていなかった。
(せっかく隣の席なんだし、思いきって話し掛けてみようかな? ちっちゃいけど、可愛いしな)
指定された自分の席に座り、肩掛けの鞄を机の下に置いてから隣の少女の方に顔を向けた。
「こ、こんにちは~」
「むきゅ? あたちですか?」
「あ、うん。その……隣の席のシューゴです。よろしく」
「おぉ~、これはご丁寧に。あたちはミーニョです」
差し出された手がちっちゃくて、可愛い。握手を交わすと、飛ぶのを止めてちゃんと座ってくれた。一人称がめちゃくちゃ可愛い。
纏ってるローブもおそらく特注で、羽がローブから出せる仕様になっている。水色の髪がクルンとなっていて、パッチリおめめもザ・妖精感を増していてそれも可愛いポイントになっている。
「ミーニョさんは妖精族……で合ってます?」
「そですよ~、シューゴさんは大きいので人族ですね?」
「いやまぁ、妖精族からしたらみんな大きいと思うけど……あっ、いろいろ質問してゴメンね? もう一つ良い? 妖精族なら魔法科の方が合うんじゃない?」
「えへへ~、魔法は出来るのでわざわざ人に学ばないですよ~。あ、でも学園長は別格ですね~」
何だかよく分からないけど、ミーニョさんと話していると時間がゆっくり流れる様に感じる。ポワポワした雰囲気だからだろうか、それともまったりとした喋り方のせいだろうか。
「あ~……なんか、変に凄いコトしてたよね」
「おやぁ? 人族でアレを見破れるですか~、驚きですね~」
「……まぁ、たまたまね。魔法って相性があるから。逆に攻撃魔法とか使えないもん」
「うふふ~英雄さん以外にも面白い人に会えるとは~やっぱり来て正解でした~」
何か意味深なコトを言っているが、これ以上踏み込むと厄介そうな臭いを感じたのでテキトーに切り上げておく。
多くの人がトファリを目当てだとは思っていたが、男子からのみならず、女子生徒からも狙われるとは……英雄トファリはやっぱり凄い存在なんだと改めて舌打ちしておく。
「はーい、全員席に着いてるわねー」
担任となる先生が登場してからは特に面白い話もなく、今後の授業についてのお話。その後は学園内の案内の時間となりいろんな場所を見回って、教室に戻ってくるなり放課後となった。本格的な授業は明日から……流れが元居た世界と似ていて、今だにそういうのに直面すると懐かしさを感じる。
「シューゴさん、シューゴさん。大変です……あたち、妖精族のお金しか持ってないでして~」
「どうやって生きてたの……?」
「食べ物はありまして~入学資金は護え……コホン。入学の時お金の心配は無かったのですが~……しかし、今日からはこの国のお金が必要なんです」
「あ~そういえば、他国とか遠くから来てる人って収入とかどうすんだろ? バイトとか?」
「ですです~学費は家から出して貰えますが~食費は休日に働かないといけません~」
思ったよりシビアというか、大変な思いをしてまで学園に通う理由を少し想像してしまう。
「俺にしてやれる事なんて少ないが……とりあえず妖精族のお金とこの国のお金の両替ならしてあげられるぞ?」
「助かります~では、確か、これが金貨一枚分だったかと~」
「金貨……? もしかしてミーニョさんって妖精族のお偉いさん?」
「あ、あたちが姫とか……そ、そそそそんなわけ無いですよ~」
「…………(姫なん?)」
ポケットからゴソゴソ慌てふためきながらとミーニョさんが取り出したのは、めちゃくちゃ何処にでもありそうでちょっと大きめの木の実だった。言った手前……交換してあげたけどさ。
おそらく目的は英雄トファリなんだろうが、わざわざこの国にまで来た理由の謎が深まるばかりだな。
◇◇
何かおかしな所とか、ご意見があれば言って貰えると助かります。
まぁ、変えられる所しか変えませんが(´ω`)