第八話 いざ、学園へ!
「――シューゴ、だらしない生活してたら呼び戻すからねッ!」
「はい、母上! 父上、兄さん、ドール……行って参ります!」
十五歳になってしばらく、ようやく入学の日がやって来た。トファリ姫が寮に入るせいもあって俺も学園の寮に入る為、家を出ることとなった。
王都の西の方にある学園。同じ王都にあるからいつでも帰れる距離ではあるけど。
「シューゴお坊っちゃま、馬車の用意は調えてあります」
「ありがとう爺や。ポンちゃんパピー、行こうか」
一緒に学園へと向かう友達と一緒に馬車に乗り込む。
長期休暇には帰ってくるつもりだけど、家族とはしばらく離れ離れになる。少しだけ寂しい気持ちが湧き上がってきた。
「兄ちゃん、しっかりね!」
「家のコトは私とドールに任せて、お前はお前の仕事をやってこい」
「シューゴ……姫様をお守りするんだぞ」
兄弟、父上の激励を受けて馬車は学園へと走り出した。
貴族は貴族寮に入る為、世話係の同行を許可されているが俺は誰も連れて行かなかった。部屋の掃除は誰かにして欲しいという気持ちはあったけど、自由気儘に行動するには一人の方が都合が良い。
それに、ポンちゃんやパピーの世話は他の人にさせたく無いし。
「じゃあ、役割の再確認をしておこうか。俺はトファリ姫の食事の用意はするが、基本的には傍に控えたりはしない。ポンちゃんとパピーは基本的に自由にしてて構わないけど、トファリ姫を見掛けたらちょっと気にしてやってくれ」
『分かった! えっと、人に攻撃されても仕返しちゃ駄目なんだよね?』
「そうだね。すぐ逃げて、一旦俺に言ってくれ……ちゃんとやり返すから」
『私は空からね。仕方ないから良いお肉で手を打ってあげるわ』
入学式の前にやる事がいろいろあるから早めに家を出た。まずは受付で合格者かの確認。次にクラスの確認。そして、寮に荷物を置きに向かわなければならない。
一応送られて来た案内や注意書きや寮のアレコレについては読んで来たから大丈夫だとは思う。要は問題を起こすな、問題を起こした場合、責任は各々で取ることになる……貴族と貴族の争いに学園を巻き込むなというコトなのだろうが、トファリ姫の宣言を受けての注意喚起だったのだろう。
『ねぇねぇ、この学園長って凄い人なんでしょ? ママさんが言ってたよ』
「あぁ、うん。母上が言うには魔法だけならトファリ姫を抑えられる人物とのコトだ。俺は会った事も無いけど……まぁ、化物並の強さだろうねぇ。あと、イタズラ好きだとか……」
『あら、私もイタズラは好きよ? ま、許してくれる相手にしかしないけどね』
「パピーは……そうだね。よくイタズラしてくるね」
『人の言葉なんて分からないのだもの、気を引きたい時は仕方ないわ』
『ふふっ、パピーはシューゴが好きだねぇ~』
『ば、ばかっ! そんなんじゃないわよっ。一般的な動物全般の話をしただけで……私は、別に……』
『僕はシューゴ好き。撫でてくれるし遊んでくれるから!』
『私だって別にシューゴが嫌いな訳じゃ……ふんっ! 飛んでくるわっ!』
人からしても同じ種類の動物がちょっとした違いはあれど全員同じに見える事がある様に、動物達も人をざっくりとそんな風にしか意識していないのかもしれない。撫でてくれるから好き、一緒に居るから好き……それで良いのかもしれない。
一緒に居れば居るだけ愛着も湧いてくる。俺もポンちゃんとパピーが好きだ。
小さい頃に傷付いたポンちゃんとパピーをそれぞれ拾ったのが出会いで、それぞれが何歳で何の種類なのかは……二人も知らないらしいから俺も詳しく知らないが。
『パピーは素直じゃないな~』
「分かりやすいけどね。いつも心配してくれるだろ?」
『確かに~! パピーはよく周りを見てる!』
「そうそう。ポンちゃんも鼻とか耳が優れてるからいつも助かってるよ」
『へへーんっ! もっと頑張っちゃうよ~だからお肉も沢山食べさせてね!』
馬車の窓から街を眺めたり、ポンちゃんと戯れたり、そこそこの時間を馬車に揺られ……ついに学園が見えて来た。
「坊っちゃま、どうやら馬車はここまでの様でございます」
「分かった。ありがとう爺や! また、休みの時に」
「はい……どうぞ坊っちゃまもお身体に気を付けくださいませ」
馬車を降りて学園までの道を真っ直ぐ歩き始めた。
自分以外にも同じローブを着た学生達をチラホラと見掛ける。そして、ポンちゃんが居るからか逆に見られている。
『シューゴと同じ服着てるね!』
「まぁ、同じ過ぎて年上なのかすらも分からないけどね」
貴族とそれ以外とはローブの質感で見分けがつく。あと、男なら坊っちゃん感というのが女の子なら上品さが滲み出ているのが貴族だ。
ただ、それだけが違いで学年での見分け方というのがまだ分からない。ローブの下に着る服は特に指定されていないから、もしかしたら違いは無いのかもしれないな。
「まずは受付からだな。ポンちゃん、パピーも離れないようにね」
今まさに戻って来たパピーにもそう伝える。一人と二匹で学園の校門で受付をしているおそらく先生の前に、他の生徒同様に並ぶ。家に送られて来た合格通知を見せて、確認が取れた人から学園の敷地へと入れるみたいだ。
一人また一人と進んで自分の番が回って来た。
「……はい。シューゴ・イル・ライト君ですね。入学おめでとうございます。寮は平民と貴族とで別れてありますので、貴族寮の方へお願いします。ここから右へ真っ直ぐ進んでください。看板を立ててありますのでその方向へ……寮の部屋や決まり事は寮母さんにお尋ねくださいね」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げて、言われた通り寮へ向かって進んでいく。校門を通って正面にはまるで美術館の様な頑丈そうな建物――おそらくメインの校舎だろう。
左の方にはグラウンド的な場所が見える。奥がどれ程あるのかはパピーに見て貰えば早いけど、やはり自分で確かめないと落ち着かない。護衛の仕事がもう身に染みてしまっている証拠だろうな。
「こっちか……」
看板に従って進んで行くと、まるで貴族の屋敷かの様な大きな建物に辿り着いた。ここが貴族が借りられる男子寮で間違いないはずだ。看板によると、もっと奥に貴族以外の生徒が入る寮はあるらしい。
もっと普通の宿みたいな場所を想像していたから、お屋敷みたいな建物にちょっと驚く。まぁ、お金はその分払っている訳だし使えるモノは何でも利用させて貰うけど。
屋敷のドアを開けるとロビーの様な広々とした空間で、奥に上に行く為の階段が見える。管理人室は入口の近くにあって、とりあえずそこで待っているお姉さんに声を掛けに行った。
「すみません。入寮予定のシューゴ・イル・ライトですが」
「はいはい、入学おめでとうございます。ライト家のシューゴ様でございますね~」
ペラペラと用紙を捲り、何かしらの確認作業を終えたのか顔をこちらに向けたお姉さんが改まって祝いの言葉を掛けてくれた。
「入学おめでとうございます。シューゴ様の部屋は三階の三号室になっています。こちらをどうぞ……部屋の鍵となっています」
「……薄くて四角い」
まるでカードの様な形をした白くて何も書かれて無い物を渡される。普通の家でも宿でも内側から原始的な施錠するのが普通で、こんなハイテクなシステムはかなり珍しい。
執事やメイドさんのいる貴族の屋敷で育ったから鍵の管理をするなんてずいぶん久しぶりの気がする。
「使い方の説明をしますと……」
俺が物珍しそうにカードを見ていたからか、お姉さんが説明をしてくれた。ドアノブあたりに当てれば自動で解錠させる……まるでホテルみたいなシステムは懐かしさすら感じる。そんな所に泊まったコトは無いけど。
どうやらこれはこの学園の学園長が作り上げたらしい。……トファリ姫に続き、転生者じゃないかと疑ってしまう。ただの天才なのかもしれないが。
「次に寮の説明をしますと、門限は特にありません。部屋の掃除を希望される場合は管理人室……ここでこちらの用紙に部屋と名前を前日の就寝前にご記入ください。貴族同士の問題につきましては介入致しませんが……他の方への迷惑行動があれば寮から出ていって頂く事もございますのでよろしくお願いします。何か質問はございますか?」
「ペットは大丈夫なんですよね?」
「はい。ただ、シューゴ様がご一緒では無い場合、ご自身のお部屋から出されない事をお勧め致します」
「食事は……どうなります?」
「食堂は本校の建物内にございます。おそらく入学式の後に案内があるはずですので、そこで確認ください。ここはあくまで就寝の場とお考えください」
「なるほど。分かりました……ありがとうございます」
頭を下げて管理人のお姉さんにお礼を伝え、さっそく自分の部屋へ行ってみる事にした。
階段を上がって、一応二階の様子を見てから三階へと向かった。基本的な構造は二階も三階も変わり無さそうで、等間隔で部屋が造られている。
三階の三号室の部屋の前に立ち、試しにドアノブを回して見たが……握った状態から右にも左にも動かない。
「どういう仕組みなんだろうか……」
魔法的な仕掛けがあるのだろうが、そうなってくると俺にはもうさっぱり分からない。先程貰ったカードをドアノブの少し上に触れさせると、カチッと音が鳴った。
「……開いたな」
今度は簡単にドアノブが回って、部屋に入る事が出来た。
このシステムだと、カードを盗まれたら強盗がドアを壊さないで入れてしまうから事件を立証出来なくなる恐れがある。
カードを無くしても最悪だし、盗まれない様に管理しておかないといけないな。
(さっき質問しておくべきだったな……後で時間のある時に聞いてみよう)
部屋に入ると、大きめのベッドにテーブルと椅子、棚や魔力で点く灯りまで、生活に必要な道具に関しては一通り揃えてあった。
この部屋の他に二つドアがある。一つはトイレ、もう一つは風呂だ。宿でこのレベルの部屋を取ろうものなら、一晩で金貨を払わない借りられないだろう。
「風呂はまぁ、別に使わないけど……流石貴族の部屋って感じだわ」
『ひろ~い!』
『このベッド、中々に良いんじゃないかしら?』
ポンちゃんとパピーも部屋を気に入ってくれたみたいだ。
「荷物は後で片付ければ良いか……ポンちゃん、パピー、俺は入学式に行かないといけないから部屋で休んでて。いつ戻れるか分からないからご飯の用意はしていくね」
ポンちゃんとパピーのご飯を食魔法で一瞬で用意して、荷物の大部分は部屋に置いて、必要な物を幾つか入れた鞄だけを持って部屋を出た。
まだ時間的な余裕はあるとはいえ、自分がこの学園に来た理由を思い出して少し急ぐ事にした。従者の一人も付けずに学園に来るという張本人が暴れない様にするのが俺の役目……損過ぎる。
寮を出て校門の方に戻ると……早速、何か騒ぎが起きている様子――何故かは分からないが、何かが分かった気がして自然とため息が漏れ出た……。