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お前もプリンセスかよっ!  作者: テラェフカ
第一章 英雄姫は止まらない
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第七話 お出掛け

明日も18時!


 


「申し訳ありませんお客様。今日は少々……その、王族の方がいらっしゃいまして……」

「貸し切りみたいな感じですか? もしトファリ姫でしたら、シューゴ・イル・ライトが制服を作りに来たと伝えて頂けませんか?」

「ライト家のッ!? 少々お待ち下さい!」


 ポンちゃんもパピーも賢いから外で待ってますと言わんばかりに入口付近で待機してくれている。

 学園の服――首から足元までの長さの学園の模様入りローブ――を作っているお店はここだけでは無く、他にも探せば幾つか存在している。貴族用の生地の良い物から貴族以外でも買える値段の生地まで。

 違いなんてその程度だが、それでも貴族は貴族の見栄でわざわざ高い物を買わなければならない。


「お待たせ致しました。どうぞ、お入り下さいませ……」


 ふたりを置いて店内に入っていく。するとこちらを見ている二人の女の子が居た。

 一人は深紅の瞳をした見目麗しい少女。そしてもう一人は、少し幼くまるで可愛いが具現化したプリティな女の子。


「シューゴ、もしかしなくともアンタも学園に? というコトはアンタも私……」

「――シューゴ様! お会いしとうございましたわっ!」


 トコトコと駆け寄ってくるプリティな女の子。綺麗なブロンドヘアーにまん丸な瞳。外行きのドレスを纏ってぬいぐるみを手に装備している。本当にもう……可愛いの一言だ。


「これはこれはパフェリ姫! 今日も今日とてなんと可愛らしいのでしょうか……よしよししてさしあげましょうね」

「えへへ~、シューゴ様も学園へ入られるのですね」

「うんうん。パフェリ姫のお姉様のせいでね? 本当にもう毎回やらかしてくれるよね?」

「……ちょっと! 人の話を聞きなさいよ! それに、何できつもパフェリには甘いわけ?」


 それはパフェリ姫が可愛いから……だけでは無く、初見殺しの危険さを俺に教えてくれたからである。

 見た目は可愛いパフェリ姫だが、その才能はトファリ姫程では無いにしても凶悪とも言える能力を有していた。


「御姉様、少々静かにして(・・・・・・・)くださいな」

「――――!?」


 まるで金魚や鯉の様に口をパクパクさせるトファリ姫。しかし、声が聞こえて来ない。いや、声を発せなくなっている。

 これがパフェリ姫の能力――『強制傀儡(ヌイグルミ)』だ。勝手に俺がそう呼んでいるだけだが。

 俺も最初にお会いした時に操られ、パフェリ姫が敵であればどうなっていたか分かったもんじゃない。ただ、そこで活躍したのが対物対魔に効果のあるバリアだ。

 瞳の前に薄いバリア、耳にもバリアを張っている。臭いなんかの空気を伝って催眠状態にされたらどうしようもないが、今のところは声と催眠光線には対応可能となった。それもこれもパフェリ姫が気付かせてくれたお陰である。


「パフェリ姫、後でお土産にお菓子を用意しますね」

「やったぁ~! シューゴさんのお菓子は甘くて美味しいから好き~……あ、御姉様。もう良いですよ?」

「あ、あ、あ~……コホン。ちょっと! シューゴがパフェリを甘やかすから躊躇(ちゅうちょ)無く魔法を人に使うようになったのよ!?」


 良いことだと思う。自分の身を守る為に使える能力は、誰を相手としても使えるようにしておいた方が絶対に良い。

 特にパフェリ姫の魔法は、その価値を知られれば欲しがる低俗な輩はきっと多い。だからこそ、自分の身は自分で守る為にも実姉に遠慮せずに使えるのは良い傾向だ。もっとその魔法の使い方を教えて差し上げねばならない……素直なパフェリ姫だから覚えも早いし教え甲斐がある。


「魔法は演出が大事ですからね、パフェリ姫」

「分かっていますわっ! 指をこう……パッチンですわね」

「完璧です。……それよりトファリ姫、貴女がやらかした事についてお話があるのですが」

「……何もやらかしてないわ、別に。私だって部屋から出して貰えなかったのよ? もちろん、出ようと思ったら幾らでも方法はあったけど……ちゃんと大人しくしていたのよ?」

「当然の結果ですよ。そんな事よりもご覧の通り、俺も学園へと通わざるを得ない事になりました」

「シューゴさん、御姉様のお婿さんになるのですか?」


 普通に考えたらそこに行き着くのかもしれないが、違う。トファリ姫の雑用係としての役目がある。

 言わば護衛。言わば執事。言わば……パシりである。青春に忙しいくなる予定だから本当はやってられないが、そういう指令が与えられてしまったから遂行しなければならない。成功報酬はナシ、失敗すれは極刑である。ハイリスクノーリターンだ。


「ハハッ……。俺はただのトファリ姫の世話係ですよ。毒物が込められているかもしれないので、食事の用意は全て俺の役目になります。贈り物等も全て俺を通して貰います。それもこれも……護衛も侍女も必要無いと言って押し通した誰かのせいで……」

「……別に頼んで無いんですけど」

「トファリ姫の意思なんて関係ないですよ。姫が民を守りたいと思っている様に、みんなも姫を守りたいんです」

「英雄としてのトファリ姫を、でしょ?」

「それもこれも全部含めて姫でしょうよ……はぁぁっ。また鬱憤を溜めてるご様子。この後ウチに来ます? 制服代とこれからの俺への迷惑料を払ってくれるなら相手しますよ」

「金取るとか……パフェリ、悪いけど声が届く範囲に居る人をどうにかして」

「分かりましたわ! 皆さん! 少しお眠りくださいな~」


 パフェリ姫の……いや、パフェリの指パッチンと一声で、店員さんと隠れていた護衛の人はゆっくりと床に伏して眠りに就いた。

 貴族には序列がある。自分の地位よりも高位の相手には態度を考えなければならない。それが出来ない者はただの無能と貴族社会では嗤い者にされてしまう。

 相手側が良いと言ったとしても、人目のある時には丁寧に恭しく接しなければならない。


「ありがとうパフェリ」

「いえいえ~」


 ただ、誰も見ていなければ――。

 お互いに小さい頃から知っている者同士で、歳も同じだから……周りの視線さえなければ遠慮なく軽口も叩けるようにはなる。もちろん、トファリがそうして良いと言ったからだけど。

 貴族と王族という絶対的な立場の違いを無視して、普通の少年少女として会話できるのは正直に言うとありがたい。


「シューゴ、もう敬語は不要よ」

「ふぅ……。それは助かる。ありがとうねパフェリちゃん」

「どういたしましてですぅ~」

「パフェリ、ちょっと学園のコトでシューゴと話があるからちょっと二人にしてちょうだいね」

「分かりました。服でも見ていますね」


 パフェリがトコトコとドレスを見に行って、トファリと二人になる。


「シューゴの言う通り、ちょっと不満が溜まっているのは事実よ。私が学園に通う理由については聞いているのかしら?」

「まぁな。何が自分から婿を探しに行くだよ……真正面からお前に勝てる同世代がそうそう見付かるとは思えんぞ?」

「私は別に勝てとは言っていないんだけどねぇ……私が認める強さを示してさえくれればそれで良いの。戦う前から逃げられては認める以前の問題になるでしょう?」


 そう言えば、と思い出す。確かにトファリは自分に勝った者を婿にするとは言っていない気がする。

 強さにもいろいろあると知っているからこその発言なのだろう。

 知力も発想力も手先の器用さでも……強さはいろいろ存在している。そういう意味では、本当に頑張っていけば誰でもトファリの婿になれるチャンスがあるという訳だ。みんなが武力を示さないといけないと思い込んでいたのは、トファリがトファリだから仕方ないのかもしれない。

 だが、やはり……みんなが真っ当にトファリに挑むとは思えない。ドラゴン退治を例に挙げても、大人数で武器や罠を揃えて計画に計画を練って挑むのが当たり前だ。


「うん……やはり甘いな! 甘い甘い。誰もが強敵に対して真正面から戦うとは思うなよ? お前は今までそうして来たのかもしれないが、普通は強敵に対して不意討ちや罠を使うのは当たり前だ。今度はお前が狙われる番になるんだぞ?」

「ふふっ、すべて返り討ちにしてやるわよ!」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、得意気な顔をして言い返してくるトファリ姫。誰が尻拭いをするのかとか、だれが未然に防いでいるのかとか、全く考えていない顔をしている。

 そう考えるとドヤ顔に一発拳を叩き込んでやりたいが、眠らされている護衛の人達の苦労を考えると俺も拳を我慢することにした。俺だけスッキリするのも申し訳ないし。


「待ってなさいよ~学園! 強い人がどれだけ居るか楽しみだわ!」


 天真爛漫で傍若無人。天下無双の強さで一生懸命に頑張れるトファリだからこそ、どれだけウチで暴れようと誰もトファリを嫌いになんてなっていない。きっと護衛の人達も大変だけどトファリの事は嫌いじゃないはずだ。


(結局は俺にシワ寄せが来るんだけどな……)


 自分の命が懸かっている訳だから、学生という身分になったとしても下手な仕事はしない。護るモノは死んでも護る。それだけだ。

 トファリの飯の準備は、栄養も考えて提供しないといけないから気を配り続けなければならないからちょっと面倒だけど、やるしかない。


「はぁ……トファリ。お前に何かあれば俺は(責任を負わされて)死ぬ。だから、お前は大人しく俺に守られててくれ」

「……っ!? そ、そそそ、え? ちょっと……そんな急に……ッ」

「……ん? どうした?」


 目が泳ぎ出すトファリ。大人しく守られててくれれば俺も楽だか……コイツに限って大人しくしているとかは無理だろうけど。なんか慌てているし。


(何しでかしても対応出来るようにしないとなぁー……)


 この国に居られなくなる事態とかは避けたいし、ライト家にも迷惑を掛ける事もしたくないから失敗は出来ない。

 どうしてこう……俺にちょくちょく異常な程にリスクの高い依頼が来てしまうのか。

 全部……トファリのせいなんだよな。


「――な、何でも無いわよ! アンタが私の食事の準備をしてくれるならそれはそれで好都合よ。……パ、パフェリ! コイツの家に行くわよ! 早く来なさいパフェリ!」

「おい、トファリ。急にどうした? 勝手に話を切り上げようとしてくれるな。まだ言いたいコトは沢山……」

「う、うるさいっ!」

「シンプルな罵声!?」

「お金は置いておくから採寸して支払い済ませたらすぐに帰って来なさいよ! なんか……心が、変だから……アンタをぶん殴るわッ!」


 勝手気儘に予定を決めて、台風さながらの早さで荷物を纏めて去っていく。パフェリに寝ている人達を起こさせてから去って行ったから、一応は冷静だったと思うが……なんか様子が少しおかしかった気がする。


「あ、あれ……私はいったい……」

「すみません。ローブの採寸をお願いしても良いですか?」

「え……あ、はい! かしこまりました。こちらへどうぞ!」


 予定通りにローブも買い付けて、入学までの準備はほぼ終わった。あとは入学の日を待つだけである。

 家に帰ると、ウチの従業員相手に暴れているドラゴン姫が居たが、一度無視してパフェリと食魔法で作り出したパフェを一緒に食べて優雅な一時を過ごした。

 英雄の暴れっぷりを見るに……こいつ、結婚する気が無いのではとパフェリと一緒に笑いあった。


 ◇◇◇

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