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お前もプリンセスかよっ!  作者: テラェフカ
第一章 英雄姫は止まらない
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第五話 英雄の話


九話まで5日連続で投稿しちゃいます()

その後は書けたら投稿です(´ω`)


 

 ――頭の中でイメージを作る。材料を思い出して、一つ一つを作り上げていく。

 焼き上がりの時間や混ぜたりする工程を省略出来るのがこの魔法のメリットだ。

 そして、わずか十数秒――魔法の発動まで整った。


「……いきますっ! 召喚(サモン)! ショートケーキ!」


 必要の無い言葉をわざわざ口にしたのはただの演出。魔法をより魔法っぽく見せる為だけの演出。

 お姫様の目の前、クッキーの置いてある皿の上に瞬間的にショートケーキが現れる。これが俺の大大大好きな食魔法の力だ。


「な、何……これ?」

「ふふふ、これも魔法ですよ。ちょっと噛み砕いて言うと、魔力を食べ物に変換する魔法にございます」

「…………(ゴクリ)」

「どうぞ、毒物とかじゃ無いので……そこは信じて貰うしか無いですけど」

「あむっ…………ッッ!? こ、これ……言葉に……ならない、わ……」


 ただ、表情にはよく出ていた。年相応の女の子の可愛い笑みというやつが。


「魔法や体術をちゃんと学びたくなったらいつでも我が家にお越し頂けましたら、我が母上がしっかりと王女様に合ったトレーニングを施してくださると思います。さっさと諦めてしまいましょう……考えず、言いなりで良しとする自分なんかは」

「……もう一度聞かせてください。貴方のお名前は?」

「シューゴ・イル・ライトにございます」

「そう……先程は失礼致しました。貴方の母君を悪く言った非礼を詫びます」


 わざわざ立ち上がり、深々と頭を下げるお姫様。ハキハキと話し、礼節を弁えているその姿に彼女の背負っている人生の重みを少し想像してしまう。

 本当の俺の五歳の頃なんて、遊ぶことしか考えていなかった。国とかそんな大きな話は自分と関係が無いと思って過ごしていた。貴族になった今は少し責任というモノを考える様にはなったけれど……それでもまだどこか国単位の話に実感というのを持っていない。


「いえ……そんな。ただの護衛がでしゃばりました。任務に戻ります」

「そう……でしたね。ですが……その、出来れば街の話など聞かせて頂けると嬉しいのですが。私はあまり城から出れませんので」

「そういう事でしたら。お時間までの間、お話相手を務めさせて頂きます」


 母上のせいでより城から出れなくなったお姫様に対しての責任として、知っている範囲の街の様子を教えてあげる。食べ物や大道芸や市場、なるべく貴族の世界から離れた場所にある一般的な話を中心にして伝えていく。

 よく街へ出掛ける犬のポンちゃんや鳥のパピーから面白い話を教えて貰っていたのが、ここで役に立った。俺の話を聞くにつれ、好奇心が止まらないトファリ姫。勝手に城を抜け出すなんてマネはしないと思うが……そうしそうな勢いで話をグイグイと聞いてくる。

 そのお陰で暇を潰せたと言って良いのか、あっという間に準備をしなければならない時間となった。


「では、一度失礼致します」

「憂鬱ね。貴方と話しているとまるで大人の方と話しているみたいで楽しかったのに……」

「買い被り過ぎですよ。もう幾つか歳を重ねれば私なんて平凡極まりない存在となるでしょう。同世代の子息子女との交流も大切な職務ですよ」

「そういう所が落ち着くと言っているのよ? まぁ良いわ……何にも無いとは思うけど、護衛よろしくね」

「はい。失礼致します」


 トファリ姫の衣装チェンジの為、一度退室する。入れ替わりで綺麗なドレスを持った侍女さん達が何人か部屋へと入って行った。

 とりあえず、ドアの外で待機する兵士さん達の横に立って着替えが終わるのを待つ。


「坊主、お前さん年は幾つだ?」

「五つになります。兵士さんはお幾つですか?」

「二三だよ。こっちは俺の部下で歳は二〇だ」


 怖い人なのかと思っていた兵士さん達だが、話してみると気さくで明るい人達だ。職業柄キリッとしておかないといけないらしく、息が詰まる思いで仕事をしているらしい。

 お互いに自己紹介を済ませると、今度は俺の愚痴を聞いてくた。


「本来は俺もパーティー出席側だったんですが、家が家なもんでして、こうして裏方に来たんですよ。となると、トファリ姫に媚を売りに来る貴族にも目を付けられるじゃないですか……」

「坊主、若ェのにそんなコトまで考えてるんだな。俺等みたいな一般兵からすると全く分かんねェ世界だぜ」

「そうですね……坊や強く生きるんだぞ」


 少し歳上のムードンさんと若い方のウープさん。二人とも平民出身らしい。

 貴族ではなく平民出身でトファリ姫の待機する部屋の守りを任されている事を考えると、当然強いだろうし、立場もそれなりなんだろう。下手に貴族出身の者を近付けさせるとダメなのかもしれないが……。

 騎士団だって平民と貴族の縦社会だろつし、それを考えると(うと)まれそうなものだが……二人とも優しい人だ。


「我が家の見立てでは賊が来るだろうとの事ですから……お互いに死なない様に頑張りましょうね……」

「安心しろ坊主、少なくとも東側からの侵入はねェぜ! 俺とウープの隊が守るからよ」

「……それは安心ですね。隊長……いえ、もしかして団長さんですか?」


 カマを掛けるという程のモノじゃないが、いろんな条件を考えてみると一個師団の一隊長というよりはむしろ団長の方がしっくり来る。

 鍛えられた肉体や対峙した時の圧、母上の様に人を見抜ける訳では無いにしてもそれなりに判断は出来る。


「ムードンさん。少し口を滑らし過ぎですよ。いつどこで……」

「まぁ、良いじゃねェの! 改めて、第十一騎士団団長のムードンだ。こいつは副団長のウープな」

「はぁ……。坊や、シューゴ君。我々は本来、素性がバレるのは良くないんだ。なのにムードンさんったら……」

「なるほど。なら、ムードンさん、ウープさん、シューゴというただの護衛三人が知り合ったというコトで……」

「話が早くて助かるよ。おっと……お姫様の着替えも終わった様だ。じゃあ、我々はここで。しっかりねシューゴ君」

「はっはっは! 女の子一人守れないかったら笑われるぜェ!」


 軽く手を振って離れて行く二人。まだ何か秘密がありそうな気がするけど、そういうお仕事なら踏み入れず一線を引くべきだな。


「お待たせ致しました」


 その声に振り返ると、瞳の色と同じ赤のドレスに着替えたトファリ姫の姿があった。

 わずか五歳でこれ程までの魅力を出せるのかと、あまりの驚きに目が釘付けになった。お人形さんみたいに整った造形はむしろ狙われる可能性が高まってしまう。


「お嬢様の傍にはシューゴ様と気配を消した護衛が付く手筈になっておりますが、念の為に申し上げておきますと、お嬢様に何かあった場合は一番傍にいらっしゃるシューゴ様、及びそのご家族様が……」

「――大丈夫よ。そうでしょう、シューゴ?」

「お、お嬢様が殿方のお名前をッ……!?」


 侍女さん達が少しザワつく。だが、気にしない。気にしていられない。

 問われた相手、トファリ姫の貫く様な瞳からは目を逸らせない。そして、出来ませんと言うことも叶わない。


「命に変えましても」

「ふふっ。では参りましょうか……笑顔の準備は出来ていますわ」


 母上が英雄と評する一部が見えた気がした。五歳にしてこの胆力、頭の回転、秘めた力……英雄(バケモノ)になるまで数年も要らないのかもしれない。



 ◇◇◇


 トファリ王女誕生会襲撃事件の伝説(・・)から早いもので、もう九年の月日が流れた。

 今もなお語り継がれる英雄が目覚めた日の話――ただ、その真実を知る者は世界にたった二人だけ。

『王女トファリが賊を圧倒的な魔法で賊をやっつけた』それが大衆の知る事実。しかし、実際には『バリアという不思議な盾が魔力暴走から国民を守った』が真実である。


「――兄ちゃん! 兄ちゃん! 兄ちゃん! 早く来てよ! もう誰も止められないよぉ!」

「ドール……? 護衛が持ち場を離れるとは何事……むにゃむにゃ」

「訓練だから良いの! というか、アレじゃあ訓練にもならないよ!」


 弟のドールも今や立派に仕事をこなしている。それだけの実力がある。そんな弟が止められないという事は……また来たのだろう。紅い瞳の悪魔が。


「ったく、仕方ない……」


 庭を荒らされても困ると愛犬のポンちゃんを連れてドールと現場へと急いで向かう。

 すると、そこには我が家の従業員と悪魔トファリ姫が対峙していた。既に何人もの従業員が地に伏している。

 みんな母上の教えを受けているから決して弱いなんて事は無い。あの悪魔が……強過ぎるのだ。

 トファリ姫は五歳の誕生会の後、母上に頭を下げて教えを請いに来た。あの頃の俺が余計なコトを言ったせいで今現状でこうなってしまって……みんなには申し訳ない。

 最初は自分の才能を扱えずにいたトファリ姫だったが、次第にコツを掴んでメキメキと実力を伸ばし始めた。

 恐ろしいのがその成長速度で、母上も面白がってトファリ姫の才能を開花させてしまった。


「あっ……みんなシューゴさんが来てくれたぞ!」

「や、やった……これで解放される」

「死ぬかと思った……」


 心が折れているみんなに下がる様に指示を出して、相変わらず怖いほど美しい顔をしたトファリ姫と対峙する。


「貴女はもうここに来ちゃイケない! 自分の住処へと帰りなさい」

「……っ。またドラゴン扱いしてくれているわねッ! 昔はもっと丁寧に話してくれていたのに、いつからそうなってしまったのかしらァ?」


 それはもちろん、トファリ姫が英雄(バケモノ)に進化した一歩目からである。母上の教えを受けて一年、トファリ姫が六歳の頃……彼女はゴブリンの群れを単独で壊滅させる事件を起こした。

 街は、ある意味でパニックになった。しかし、それだけじゃない――それはただの一歩目に過ぎない。

 七歳でそこそこの冒険者が束になっても負ける巨大魔狼を単独撃破。八歳で街で暴れた魔族を単独で拘束。九歳にしてワイバーンをこれまた単独で撃破。

 母上はこの前俺に言ったのだ「十四になったがあれはまだ開花しきって無いさね」……と。そして俺は思ったのだ……彼女は悪魔やドラゴンみたいな幻獣の類いの転生者なのでは……と。

 それ以来、俺はトファリ王女を『人族』というカテゴリーからは外して接している。


「貴女はもう十五。そろそろ(つがい)を貰って落ち着くべきですよ?」

「……あははっ。結婚相手の強さを確かめようとちょっと決闘を申し込んだらみんな逃げたわよ? ……逃げたわよ?」


 ヤバい。目が死んでいる。

 トファリ姫の何がヤバいかと言えば、結婚相手に求める条件に自分よりも強い男という意味不明な事を言っている部分だ。

 普通の女騎士ならそこまで変な話でも無いが、トファリ姫が言うことによって、乙女チックと笑い飛ばせないレベルになってしまう。

 それは流石に冗談だろうと、第二王女らしい数の縁談は舞い込んで来るのだが……冗談じゃないから申し込んだ側から(たちま)ち逃げられて無かった事にされている。


「だかと言って、ウチの従業員達を相手に暴れられても困るんだけど?」

「しょうがないじゃない! ここの人達くらいしか相手してくれないんだもん……」

「もん、と言われても……はぁ。ウチで何て呼ばれてるか知ってるか? 深紅の悪魔だぞ?」

「なっ……!? み、みんなそんな風に……?」

「いや、それは兄ちゃんだけだよ?」


 ドールは純粋な子で、嘘が下手くそだ。良く言えば真面目で素直なのだが、遊び心が少し足りてない。

 そんなドールのせいでどうだろう……目の前に蜃気楼かと思うくらい歪んだ魔力が溢れて視認(・・)出来ている。


「ヤバい、逃げろ!」

「巻き込まれたら死ぬぞ!」

「倒れてる奴も引っ張っていけ!」


 ドールを含めた従業員のみんなが一斉に散っていく。溜めた鬱憤を晴らすには、一撃に全てを込めた方がよく発散出来るというもの。

 だから、煽る。あえて、煽る。

 建物を一撃で粉砕する拳が来たとしても、野を荒れ地と化す魔法が来たとしても、全てを防ぐ。俺にしか出来ない事だ。


「そろそろバリアも壊れるかなぁ?」

「……チッ。今日こそ今日こそ今日こそ今日こそ今日こそ……壊すッ!!!!」


 瞬間にして、眼前に危険察知を報せる印が出てくる。それに反応してたんじゃ間に合わないのはもう分かっている事だ。

 だから既にバリアは設置してある。トファリ姫が地を蹴って一秒未満。数十メートルの距離を二歩で加速しながら駆けてくる。


 ギィィィィィィィィィィン


 まるで鉄が激しくぶつかった音が響き渡る。音がして初めてトファリ姫の速さに意識が追い付いた。

 冷や汗がじっとり流れ出す。バリアに絶対の自信はあるけれど、ここ最近は拳の当たった時の音が激しくなっている。あと数年……もしくは数ヵ月で破られる日が来るかもしれない。


「このバリア! 本当に意味が分からないわ! 見えないし!

 どうして壊れないのかしら……」

「いや、この前珍しく俺が熱を出した時にはな、ポンちゃんが歩いて突破してたな」

「だから意味が分からないのよ……ふんっ。まぁ良いわ、ちょっとだけスッキリしたし! 悩み事もあったたんだけど……そっちも今決めたわ」

「悩み? お前が? あぁ……もうドラゴンと結婚しちゃおうとか……ふグッ!?」

「ま、追々報せが来ると思うわ! じゃあまた来るわねぇ~」


 腹に一撃重いのをくらう。本人からすれば撫でた程度なのかもしれないが普通に大人に殴られた程度には痛い。

 しばらく(うずくま)っているとトレーニング中だった従業員のみんなやドールが戻って来て、俺の事を無視してトレーニングを再開させていった。


 そしてその二週間後――トファリ姫がやらかしたと、父上が俺達兄弟を集めて何が起こったのか説明してくれた。



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[気になる点] 主人公初めての護衛というかなり大きなイベントを雑にすっ飛ばした事 [一言] 話が流石に速すぎて読むのが辛い
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