第十八話 集え、仲間達よ!
――入学してから、早くも一ヶ月が経過した。
それなりに、平穏な学園生活を送れていると思う。登校して、少しずつ慣れたクラスに授業。
午後の学科別授業では、俺達三組だけ相変わらず走らされているけれど、まぁそれも慣れてくるもので、木製の武器を握らせて貰える時間も長くなってきた。
放課後は基本的にトレーニングに充てるか誰かと一緒に過ごすか、ポンちゃんやパピーと遊んで過ごしている。
そして今日、新入生全体に関係する毎年恒例らしい行事が伝えられた。
「近隣の森への遠征授業か……」
「楽しみですね~。森はあたち達妖精族からすれば動き慣れた場所ですから~」
先生が教室を去った後、今日はバイトが休みというミーニョさんと居残って一週間後に行われる行事のコトについてアレコレと雑談していた。
騎士や魔法師育成としての学園が行う遠征がただの遠足みたいなモノのはずもなく……準備から一緒に行動するパーティーメンバーまで生徒に委ねられているのだ。
新入生である事を加味すると、確実に準備不足や逆に荷物の多過ぎで失敗するパーティーが出るだろう。つまり、失敗から学べという意味合いが込められている訳だ。
「ミーニョさん。もし良かったら俺と……」
冒険者の方が先行してある程度の魔物は片付けてくれるらしく、それにテントを学園側が用意してくれるから男女パーティーだって問題なく成立できる。
一日分の携帯食料や水まで用意してくれた上に、準備費用に一人あたり銀貨一枚(安い防具なら揃う程度の金額)も出してくれるという……なんとサバイバル感の薄い行事だろとは思うが、初めてのみんなで校外へ行けるコトにちょっとだけワクワクしている。
(ここで、今後の学園生活が決まると言っても過言ではない!)
たった一日の野宿とはいえ、誰とパーティーになるかで今後の学園生活に影響が出るのは間違いない。
このクラスで気軽にお喋り出来るミーニョさん……可能なら一緒のパーティーになって、最終的に友情を越えて良い感じとかになったらそれはそれで最高だ。
「ぬわっはっはー! 子分子分! 迎えに来るのが遅いのでな、親分の妾が迎えに来てやったゾ!」
「…………。ミーニョさん! 俺と、パーティーを組んでくれませんか?」
「はい! あたちで良ければ! シューゴさんと一緒なら楽しくなりそうですね~」
「うぉおい!? 子分に無視されとるんじゃがッ!?」
森に強い魔法の扱いにも長けたミーニョさんを仲間にするメリットは大きい。誰かに取られる前に組んでおかなければならない相手だ。
しかし……リベはどうだろうか。個人としての強さは分かっているが、今回はチーム力が大切になってくる行事。チーム編成は慎重にいかねばならない。
「リベ、俺とミーニョさんは今度の遠征の為の大切な会議をしているんですから、ちょっとあっちで遊んでいてください」
「そ、その件でだな……子分が寂しがってないかなぁ~と親分として心配していると言うか……」
「あ、大丈夫です」
「ムギィィィ!! 妾が親分! 妾が親分!」
「何でもそれでまかり通ると思うなよっ!」
飛び掛かって来るリベを寸の所で避ける。リベもあまり友達が居ないみたいだ。
バトルジャンキーと友達になりたい奴なんてほとんど居ないという事実を受け入れなければ、リベもトファリも友達作りに今後も苦戦していくだろう。
「シューゴさん。あたちは構いませんよ~?」
「ミーニョさんがそう言うなら……リベ、ミーニョさんに感謝するように」
「ちっこいの、お主も妾の子分にしてやろうゾ!」
「あはは~、次にちっこいって言ったらプチッ……ですよ~」
「ヒィッ!?」
ミーニョさんが小さい両手を合わせて、ニコやかな笑顔でリベに言葉を返した。
その瞬間にリベがスッと俺を盾にして背後へと逃げ込む……。気のせいかもしれないけど、何だかいつもリベは負けている気がする。誰かに勝ってる所を見たことが無い気がしてきた……。
「ミーニョさんは、怒らせないようにしなきゃな……」
「もう、シューゴさんったら~冗談ですよ~」
「(目がマジだったもんな……身長の事は口にしないようにしよう……)」
そんなやり取りをしていると、また一人この教室へと駆け込んで来た。
「シューゴ、シューゴ! ルーは冒険科だから、役に立てるよ?」
「採用」
「妾と違うんじゃガ!?」
ルーは本当に自己PRが上手い。モフモフの尻尾を振りながら駆けて来た時点でもう内定が出たようなものだ。あとついでに、冒険科という部分を伝えて来るのも良かった点だ。
「ルー? ご飯は作るけど、俺の魔法じゃ出すつもりないよ?」
「…………シューゴ、なんでそんなイジワル言うの!」
「いや、意地悪じゃなくてだな……せっかくの機会だし、食材も渡されるみたいだから作るんだよ?」
「ヤダヤダ! 焼くだけの料理なんてヤダーっ!」
「イタタタッ! ルー! 腕を噛むな! ちゃんと美味しく作るから!」
ガシガシと甘ガミして嫌さ加減を伝えてくる。確かに焼くだけのシンプルな料理は俺も飽き飽きしているし、少しは嗜好を凝らせるつもりではあったが……ルーのこの様子だとちゃんと作らないと満足してくれないかもしれない。
街に出て、貰った準備金で食材を仕入れる必要があるかもしれないな……。
「シューゴシューゴ!」
「はいはい。ちゃんと作るから安心してくれ」
「ホントー?」
「あぁ、任せといてくれ」
「ンフー、シューゴ好きぃ~」
ガシガシと甘ガミの回数が増える。獣人さんの愛情表現にはちょっとした痛みが付き物だ。
「ごめん、ミーニョさん……ルーもパーティーメンバーで良いかな?」
「もちろんです~」
「わぁ~ありがとう! 妖精さん!」
ルーは俺から離れ、ミーニョさんに感謝の言葉と共にハグをして頬をスリスリとさせた。俺とはまた違う愛情表現にズルいとは思ったが、ルーもミーニョさんも可愛いので今は良しとしておく。
「――――ッ!?(危険察知が反応!? どこだっ!?)」
「…………声は掛けたのよ? 声は掛けたのよ? でも……畏れ多いって……」
また一人、哀れな少女がやって来る。絶望に顔を染めた悲しきオーラを放つ少女が――。
王女とパーティーを組めるなんて普通ならありえない事。これをチャンスと取れる人が多いか、何かあった時のリスクを想像する人が多いか……結果は、その悲しき少女の現状そのものだ。
「いやぁ~、ウチもお姫様の責任は取れませんなぁー! だよねぇ、みんな?」
「…………そ、そうですねぇ?」
「…………な、何がじゃ? ン?」
「トファリだ~、遊ぼ! 遊ぼ!」
「わ、私をパーティーに入れなかったら第二王女権限でアンタを死刑にするわよッ!」
ルーをナデナデしながら、そんな言葉を吐き捨てるトファリ。入学デビューに失敗して、友達という友達は居らず、ルーを可愛がるだけのトファリ。
神に愛されているとまで言われた才能を持ちながら、友達が居ないトファリ。実に可哀想だ。
「悲しくないのか……そんな権力の使い方して……」
「それは言わないで……」
トファリもトファリなりに傷付いてはいるらしく、当初の思惑からはだいぶズレていると認識はしている様だ。トファリへ求婚を目的とした戦いを挑む人も入学時から日に日に減っているし。
ミーニョさんに目配せをすると、静かに頷き返してくれた。
「ちゃんと働いて貰うからな?」
「も、もちろんよ! 私に出来るコトなら何でも任せておいて!」
森を移動する人数的には丁度良いぐらいだろうか。あとは、このメンバーで何が出来て何が出来ないかを話し合って、準備を進めていかないとだな。