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お前もプリンセスかよっ!  作者: テラェフカ
第一章 英雄姫は止まらない
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第十五話 青春の無駄使いじゃん

 


 放課後になり、何をしようか迷っていた。

 他のクラスメイト達はクタクタの様子で帰っていくのを見て、俺も疲れてるし……そう思ったが青春は放課後に詰まっていると言ったら過言だが間違っては無いだろう。


(ミーニョさんは帰ってしまったし、トファリに会いに行くと友達が居ない奴みたいになるしなぁ)


 寮生が学園の外に出れるのは夕方まで。火急の用件でも無い限りは休日しか無理だ。ともすると、この敷地内で寮生と過ごすのが良いのだろうけど……考えるのもちょっと面倒臭い。いっそ帰ってしまおうかと思っていると、タタタッと軽快な誰かが走る音が聞こえて来た。


「うわはははっ! 子分、見付けたゾ!」

「あれ、リベさ……んん、リベ。そんなに走ってどうしたんだ?」

「んふー、子分も騎士科だったのだな! 一緒ダ!」

「そうですね。リベは一組でしたっけ?」

「そうだぞ~。それよりも子分、大福をくれ!」


 満面の笑みで手を差し出してくる。可愛さに負けて、ついポンッと手渡したくなってくるが、これはカツアゲみたいな物だ。

 人族は頼めばなんでもくれると思われてもいけないし、ここはちゃんとした対価を頂かなければリベの為にもならない。


「リベ、タダで何でも貰えると思っちゃ駄目だぞ?」

「むっ」

「そんな顔しても駄目。大福と同等の対価を要求させて頂きます」

「むむ、むムむ……それは、難しい。大福と同じ価値となると……ま、まままさかっ!? 妾に身体を差し出せとでも言うのではあるまいナ!?」

「ブーーーーッ!! ……大福でそんな要求する訳ないだろ! 周りに変な誤解されたらどうするんだ!」


 リベにギュッと自分の身体を両手で守られると、本当に俺が変な要求している様に他の人に思われてしまう。貴族という立場が余計に拍車を掛けてしまう。

 逆に大福で身体を要求出来るのなら…………いや、それは流石に不純が過ぎる。リベにはもっと人族の価値観を学んで貰わないと、俺だったから良かったもののいつか悪い大人に騙されてしまいそうだ。


「しかし……妾の大福がぁ……」

「そんな、泣きそうにならなくても……」

「泣いてない! 妾は泣いとらんゾ! 妾は対価なぞ払わん! 渡さぬのなら、子分と言えどぶん取るまでよッ」

「おい、バカッ! 教室で暴れるなよっ!」


 飛び掛かって来た所を寸のタイミングで回避する。ドタバタと騒がしくしているせいで、教室に残っている人達の視線を集めてしまっていた。

 リベが()り無いというのは昨日のトファリとの戦いを見て分かっている。男子寮まで逃げれたら勝ちだが、その前に追い付かれるだろう。迎撃するにも、俺では決め手が無い。


「大福ぅ~……妾は大福を食べたいのだァ~」

「ゾンビかよ……対価は無いのか!?」

「妾は何も持たぬ主義でな。集めた宝は村に置いて来た」


 机を挟んで膠着(こうちゃく)状態となる。リベが動きを見せると同時に、俺は別の机へと移動する。一定の距離を保って現状を打破する方法を考えていた。いや、俺が大福をあげれば済む話なのは分かっているが――。


「シューーーーッゴ! 暇だから魔法競技か研究会に乗り込んで遊び…………」


(救世主が来た! ん? あれ……スンとしてるな?)


 トファリが陽気な声を発しながら最高のタイミングで助けに来てくれたかと思ったのだが、顔がスンとして目も冷ややかなモノを向けて来た。まるで昨日のミーニョさんと話している時みたいに。


「き、貴様! よくも昨日は~~っ」


 リベの意識が俺からトファリに切り替わる。だが、トファリは俺に視線を向けていた。昨日の今日で、また友達みたいな存在が俺だけ増えてるコトに嫉妬しているのだろう。

 しかも、その相手が昨日自分が倒した相手なだけに、いろいろと解せない気持ちが視線に込めている訳だ。


「シューゴ……ドウイウコト?」

「いや、あれだ。お前がガチガチに固めたから、それを解いてやっただけで……な?」

「子分! まさか、あの人間と知り合いなのかっ!?」

「いや、知り合いというか世話係というか……な?」


 ヤバい。今の俺、女性に詰められて苦し(まぎ)れにアレコレ言う感じの言い訳男みたいになってはいないだろうか。

 別に何も(やま)しい関係じゃない。ただ、知り合いと知り合いが昨日戦っていただけである。むしろ俺は、二人共を助けている訳だから、責められる筋合いは無いというか……。


「シューゴ!」

「子分!」

「ぐぬぬ……――ここは一先ず、退散ッ!!」


 二つある教室の出入口、トファリの居ない方へ向けてダッシュする。だが……。


「逃がさないわよっ!」

「くそっ、トファリめ……」


 高速移動で目の前に立ち塞がる。その隙にリベに背後を取られてしまう。


「子分! 妾が親分だゾ! そこの人間の世話役とは何事かッ!」

「時系列的には子分になったのが後ですし……て言うか、子分じゃないケドナ!?」

「シューゴ! どうして貴方は女の子ばかり友達を作っているのかしら!?」

「いや、人と人との出会いは運命みたいなものだし……」

「妾は鬼だぞえ!」


 一触即発というか、俺が挟まれている状況に混乱が深まる。何か解決策は無いかと思考を巡らせるが、トファリを(なだ)める方法だけが思い浮かばない。


「とりあえずほら、リベには大福をやろう! 特別に! 今日だけ、特別にだぞ」

「グフフ……大福! 大福!」

「トファリ姫におかれましては……友達、探しに行こうか。今から」

「何よその哀れんだ目は……」


 何故に友達まで俺が探してやらないといけないのか、そう思うが姫様とそれ以外とではやはり立場上の問題が出てくる。そういう意味ではリベやミーニョさんみたいな遠くの場所から来ている別種族の子と仲良くなるのが良いと思うのだが……。


「とりあえずリベと仲良くしてみれば?」

「私、すぐ戦いを挑んでくる友達とか嫌なんですけど」

「ブーメランじゃん……」


 トファリに友達とか出来るのか(はなは)だ疑問だけど、とりあえず今は教室を離れるコトにした。

 この時間なら、外に行けば魔法や剣の練習をしている人が居るだろうし、校内なら学術に打ち込んでいる生徒も見付かるはずだ。どちらがトファリに会うかを考えると外なのだが、個人的には大人しい子と知り合いになって欲しい気持ちがある。


(それをキッカケに、トファリも大人しくなれば万々歳だし)


 という訳で、校内を散策するコトにした訳だが……。


「ねぇ……ソレは何なの?」

「知らんよ」

「ワハハハハッ! 行くのだ子分!」


 俺が背負っている訳でもなく、勝手にしがみついて巻き付いているリベ。やや歩きにくいものの、思った以上に軽いから無視している。でも、流石に行く先行く先で目立つから女の子に抱き付かれているとはいえ、あまり良い気分ではない。


「リベがうるさいから図書室は迷惑になるだろ? 他の研究会みたいな所も迷惑になりそうだから行けないし……」

「迷惑な鬼ね……」

「聞き捨てならぬな、人間! そもそもさっきから何をしておるのダ? グルグルグルグルと」

「ほんと、何をしてるんだろうな……。よく考えるとトファリは夫を探しに来たんだろ? 友達とか居らないだろ」

「いや、私は別に友達欲しいとか言ってないんですけど……」


 マジかよ。じゃあ……俺達は今、何をしてるっていうんだ。完全に青春の無駄遣いである。


「なんだ人間、汝は(つがい)が欲しいのかえ?」

「欲しいというか、私について来れる人を探してるのよ」

「なら、鬼族にすれば良かろうて。その辺の人間よりも圧倒的に強いぞ?」

「それはダーメ。私はこの国の姫として遠い地へ嫁いだりはしたくないし、なるべく寿命も同じが良いの」

「強ければなんでも良かろうに……分からぬ。な! 子分もそう思うじゃろ?」

「まぁ……強いのは最低条件だろうけど。トファリが幸せじゃないなら(ストレスで我が家が荒らされるから)俺は認められないな」


 鬼の価値観とは違うのか、あまりリベの理解は得られなかった様だ。種族全体で、強いものが上というのが鬼の価値観なら、きっと人族の貴族制度とかは肌に合わないだろう。

 母上みたいに強さである程度の地位まではなれたとしても、国のトップなんかには絶対になれたりはしない。向上心やテッペンまで成り上がりたい欲望があるのなら、産まれる所からやり直さないと駄目だ。幸いにして、俺は人を導いたりする面倒事をやりたいとすら思わない程度のまぁまぁな人間で良かった。


「シューゴ~……アンタもいろいろと考えてくれているのね!」

「え? あぁ……そりゃ、当たり前だろ」

「スンスン……子分! 妾はお腹が空いたゾ! 食堂に行くのダ! 今日もタダ飯を食ろうてやろうぞ」


 学生と先生は無料で食べられる学食。食材の入手先とかその費用がどうなっているのかは知らないが、無料で食事が出来るのは成長期の学生にとってはありがたい事だと思う。

 俺は魔法で食べられるから利用するつもりは無かったけど、せっかく利用できるのなら使ってみるのも良いかもしれない。

 調理場とか覗けたりするなら、そのままの味を盗めるかもしれないし。そうすれば、トファリへ出す料理の種類も増えるし。


「トファリは食べさせられないが、行ってみるか食堂に」

「うむ! 早い時間に行かねば人間が押し寄せるでナ!」


 食堂に向かって、俺達は目を見張る人物と出会うコトになる。入学二日目にして、学食のメニューを制覇し後世に『暴食の獣』という伝説を残す人物と――。


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